■JR東海はディーゼル特急のハイブリッド化を完了
JR東海は、2023年7月1日から特急「南紀」ハイブリッド特急車両HC85系を投入しました。
特急「南紀」は、関西・紀勢本線・名古屋〜新宮・紀伊勝浦間を4往復運行しています。6月30日まではキハ85系特急形気動車(ディーゼルカー)が使用されていましたが、7月1日に一気にHC85系に置き換えられました。
HC85系はシリーズハイブリッド車で、発電用エンジンを1台搭載。バッテリーの充電電力と組み合わせて、1台当たり2台搭載した出力145kWのモーターを駆動しています。
発電用エンジンはアイドリングストップも可能なので、走行用エンジンを2台搭載しているキハ85系よりも、燃費の向上や排出ガスの削減などを図りました。また、モーター駆動とすることで、液体変速器やプロペラシャフト、最終減速器等の部品を削減し、油脂類の削減にも寄与しています。
JR東海のディーゼル特急は「南紀」、および東海道・高山本線・名古屋・大阪〜高山・飛騨古川・富山間を結ぶ「ひだ」を運行していました。
「ひだ」については、2022年7月1日から名古屋〜高山間の一部列車にHC85系の投入を開始し、12月1日から高山〜富山間にも進出しました。2023年3月18日からは、大阪〜高山間の列車を含む「ひだ」全列車がHC85系に置き換えられました。
「南紀」がHC85系に置き換えられたことで、JR東海のディーゼル特急はハイブリッド化が完了しました。
●JR各社のハイブリッド事情
JR東海以外では、JR東日本、JR西日本、JR九州、JR貨物でハイブリッド車を導入しています。いずれもシリーズハイブリッド車です。
JR東日本は2007年に、世界初の営業用ハイブリッド鉄道車両キハE200形を小海線に投入しました。2010〜2019年には、観光車両HB-E300系を東北・長野・新潟エリアに投入。いずれも観光地を走る車両で、自然に対する環境性能をアピールする狙いがあります。
2015年には、仙台〜石巻間を結ぶ仙石東北ライン向けにHB-E210系を投入。これが、ハイブリッド車を通勤路線に初めて投入した事例です。
仙石東北ラインは、交流電化区間の東北本線と、直流電化区間の仙石線、非電化の石巻線を直通するルートで、ハイブリッド車のメリットが活かされています。
JR東日本のハイブリッドシステムは基本的には共通で、1両当たり2台搭載している95kW出力のモーターを駆動。最高速度は100km/hと控えめですが、運行形態を考えると妥当な性能だと言えます。
現在、JR東日本のハイブリッド車の導入は一段落していて、その後の既存の気動車の置き換えには、電気式気動車や蓄電池電車が投入されました。
電気式気動車は、エンジンが発電した電子でモーターを駆動する気動車。シリーズハイブリッドから、バッテリーなどシステムの一部を省いたような仕組みで、バッテリーがない分、コストの引き下げが可能で、ローカル線に向いています。現在、GV-E400系が秋田・新潟エリアで活躍しています。
蓄電池電車は、大容量のバッテリーを搭載した電車。電化区間で充電して、そのまま非電化区間に直通することができます。JR東日本烏山線・男鹿線のほか、JR九州でも福岡エリアに導入しています。
蓄電池電車はバッテリーが大容量となる分、コストはアップしますが、エンジンを搭載しないため環境性能に優れます。しかし、コストに加えて航続距離などの課題は残っています。
JR西日本は、2015年から運行を開始した豪華クルーズ列車、87系「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」がシリーズハイブリッドシステムを採用しています。
「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」は、大阪・京都を起点として中国地方を運行しています。運行ルートのうち、山陰本線には非電化の区間があるため、動力方式にシリーズハイブリッドが選ばれました。動力車は10両中4両で、1両当たり発電用エンジンを2台、130kW出力のモーターを4台搭載。バッテリーは別の車両に搭載して、動力車と2両で1ユニットを組んでいます。
なお、JR西日本は、2021年に電気式気動車DEC700を導入して試験運転を行っています。DEC700はバッテリー等を追加して、シリーズハイブリッド車とすることが可能な構造となっています。
JR西日本が今後、電気式気動車を量産するのか、ハイブリッド車を量産するのか注目したいところです。
JR九州は、大村線・長崎本線早岐〜長崎間にシリーズハイブリッド車YC1系を2020年から投入開始。翌2021年には、この区間で運行していたキハ200系・キハ66形・キハ67形気動車の置き換えを完了しました。
2022年9月からは、運行区間を長崎本線・小長井〜諫早間と佐世保線にも拡大しています。YC1系のモーター出力はJR東日本と同じ95kWですが、歯車比をJR東日本の7.07から、高速寄りの6.5としていて、最高速度は110km/hとなっています。
JR貨物は、入換専用に特化したシリーズハイブリッド機関車HD300形を、駅や貨物ターミナルに配備しています。
HD300形は、1時間定格出力80kW、最大定格出力125kWのモーターを4台搭載。発進時に最大定格出力を発揮させることで、重い編成の入換を可能としています。アイドリングストップさせることができるので、都市部や住宅地が近い場所での入換に導入。なお、入換に特化しているので、本線を自力で高速走行することができません。
JR北海道では、パラレルハイブリッド方式の一種であるモーターアシストハイブリッドの開発を行っていました。
モーターアシストハイブリッドは、液体変速器の代わりに、アクティブシフト変速器(アシストモーター付自動進段MT)を搭載したシステム。シリーズハイブリッド方式と比べて、システムを小型化できるほか、エンジンパワーにモーターのパワーを掛け合わせることができるので、パワーアップも容易で、既存の気動車を改造できるというメリットがありました。
しかし、モーターアシストハイブリッドは実用化されていません。JR北海道では、特急車両には従来通り液体式気動車を投入し、一般形車両には電気式気動車のH100形を投入しています。
2023年4月3日にJR四国が、ハイブリッド式ローカル気動車の調達について、一般入札を告示しました。計画では2025年に量産先行車8両を導入し、量産車を2028〜2031年に50〜62両導入するとしています。これにより、老朽化している一般形気動車の置き換えを行うと思われます。
自動車と異なり、鉄道ではハイブリッド車の投入ペースはかなり遅いです。その背景には、バッテリーのコストが高く、投入する路線に見合わないという事が挙げられます。そのため、JR東日本やJR北海道は、ローカル線向けには電気式気動車を導入。JR西日本も、電気式気動車の検討をしているわけです。
そのような状況のなか、主力となる特急をハイブリッド化したJR東海の判断は、ある意味正しいと言えるでしょう。
また、ローカル線向けに電気式気動車を導入したJR東日本・JR北海道も正しい判断と言えます。その一方で、老朽化した気動車を多数抱えているJR西日本・JR九州の今後の展開に、ハイブリッド車がどう関わることができるかにも注目したいところです。
(ぬまっち)