■なかなかのもんだったぞ! CX-60の続・走り編
異例なことに、リアル試乗・CX-60走り編を連続することになりました。
今回は街乗りでの話を前回から重複させながら、高速路と山間路での走りの印象をお伝えします。
●忘れるな! 6気筒縦置きエンジン車ならではの注意点
このクルマのサイズがかなりの大きさになることはCX-60試乗第1回で述べました。筆者は街乗りで路肩に停めているクルマを避けるのに気を使うこと、せまい道で対向車が現れると面倒なこと、車幅感覚がつかみにくいことから、車幅が1700mmを超えるクルマは苦手ではありませんが億劫に思っています。それにしちゃあ慣れるのは早く、どうやら筆者は、運動神経が鈍い割にどのクルマに対しても順応性はいいらしいのですが、このCX-60も、ものの2、3分乗っているうちに慣れました。
筆者は、車両のおおよその幅、先端がわかるよう、運転席からは原則的にボンネットが見えなければならないと思っているのですが、CX-60はフードは見えるにしてもその見せ方に工夫がありません。フードがのぺっと見えるだけで、特に左先端付近がドライバー視線でどのあたりなのか目安になるものがないためです。
だいたいの車幅、先端位置がわかるのと、後方視界確保がフロントガラス内で完結するので、ほんとうはフェンダーミラーがいいのですが、当然選ぶことはできません。
筆者は前々から考えているのですが、いまは計器盤内に埋め込んだディスプレイをミラーで何度か反転させ、速度、その他情報を、ドライバー前方1mか2mの位置に見えるよう、フロントガラスに投影するようになっています。これを応用し、かつてのフェンダーマーカーの位置に先端を示す緑色のマークをガラスに映し出せないか。どうせバンパーにはセンサーがついているのだから連動させ、障害物に近づいたらブザーとともにオレンジ色に変える・・・そろそろそのようなアイデアが出てきてもいい頃でしょう。素人だって思いつくのだし、すでにその土台は出来上がっているのだから。
このクルマで注意しなければならないのは、住宅路で交差点やT字路、コンビニエンスストアの駐車場から車道へ出るときです。このクルマはFR(試乗車は4WD)ゆえにフロントオーバーハングはFF車より短いものの、6気筒縦置きエンジンときているため(もっとも6気筒の横置きは聞いたことがない)、キャビンからのオーバーハング量が飛び抜けて大きく、車道に出てドライバーが左右確認できる頃には、フードはかなり車道に突き出ている道理です。実際、なるべく控えめにしているつもりが、右方から来るクルマからはだいぶ突き出て見えていたようで、弧を描いて避けていきました。これは6気筒用のスペースに4気筒を載せている25Sも同じです。出合い頭でドッカンとならぬ様、要注意! 6気筒縦置きエンジン車が国産からいったん途絶え、再び世に出まわるのはこのCX-60で随分久しぶり、マツダ車としては初めてのことで、認識していないひとが多いと思われるので念のため。
●キレのあるハンドリングに優れた小まわり性
走り出したとき、音の静かさ以外で気づくのは、ハンドルが実にクイックなことです。正立位置での遊び=中央不感帯幅がないといえば大げさですがないに近い。筆者はどちらかといえば、ハンドルが鋭くない、ボンヤリ型のハンドリングのほうが性に合っていると思っているのですが、クイック型を嫌っているわけでもありません。ハンドルをちょっと傾けただけでスイっとクルマの向きを変えるし、曲がった後の戻しのタイミングだってつかみやすい。このようなものを「キレのよいハンドリング」というなら、前回述べた、アクセルの踏み込みに対するエンジンと8ATのレスポンス同様、このハンドリングの感覚だって、普通の乗用車や軽自動車にも採り入れてもいいと思いました。これは特に自動車に興味やマニアックな趣味のない、ごく普通のひとだって、「なかなかいいな」と感じるかも知れません。
235/50R20という幅広タイヤなのにハンドルは軽いものでした。それも軽自動車やエントリーモデルのように、モーターの電力量にものいわせ、ただひたすら軽く仕上げましたというものではなく、筆者がいつも述べている、まわしている間も適度な反力を持たせながら軽いという出来。これは駐車場速度での転舵にいえ、安易に軽くしただけの安っぽさがありません。
ただ、ちょっとハンドルが小径に過ぎやしないか。測れば他のクルマと大差ない370mm(筆者実測)なのに、グリップが太めなため、数値以上に小さく感じました。5mmでも細くするか、試乗車のような電動チルト付車に限ってはいっそ380~390mmにしても、ドア開で自動はね上げするのだから乗降性に影響はないでしょう。
そのハンドルの回転量は左右で違っていて、これも筆者目測で左に1回転と260度、右に1回転と220度、ハジからハジまで2回転と480度です。クイックなわけだ。
感心したのは、この車幅とエンジン縦置きが活きてタイヤ切れ角が大きくできたのか、これだけの巨体、2870mmものホイールベースにして、最小回転半径は5.4mである点です。これはタイヤ幅185mm、ホイールベース2600mmだった全長4250mmの日産ティーダの5.2mに極めて近く、このサイズのクルマがターンできる場所なら、CX-60でもターンできると考えても大きな間違いにはならないでしょう。ほんとうは最小回転半径よりもバンパー角の軌跡がものをいうのですが、CX-60の場合、フロントオーバーハングが極めて短いことが奏効しています。
ただしフードの可視範囲が手前寄りまでで先端付近まではおよばないため、切り返す場合は、外から見て壁までスペースを残しながら行うことになります。このようなシーンで、さきのガラス投影のフェンダーマーカーがほしくなるわけです。
●すべるような乗り味の高速走行
第2回で述べた、高出力と心地よいレスポンスが活きたのは高速路でした。
ひとつは合流のときで、自車と本線側接近車の距離がふだんの2~3割減でもアクセルを踏み込めばかなりの間隔を開けて流入できるくらい加速性が優れていることと、スレスレまで接近してくる暴走トラック野郎からの離脱や、ノロノロ運転の先行車を追い越してひとりで走りたい際には、アクセル踏み込みを床までではなく、半分ちょいまででもあっという間にコイツらをルームミラーの奥にまで追いやります。ここでもやはりスポーツカー(第2回)の性格で、この間は実に爽快なものでした。で、アクセルのちょい戻しでストンとシフトアップ、元の速度に戻る・・・悪ふざけに見えるでしょうが、とにかくひとりになることで安全に走りたいと考える筆者にとって、この高出力は大きな大きな武器でした。
とはいえ、このような加速を試したのは一時的で、高速路では全体的には90~100km/hで走りました。まったく、90~100km/hなんて、エンジンだけで254psという強大な出力を持つCX-60にとって、チーターがなめくじと同じ速さで走るようなものだったでしょうが、実はこのクルマの乗り味がいちばんいい速度域は、音と騒音のバランスからいって、高速路では120~140km/h、街乗り幹線路では60~70km/hあたりと見ました。道のつなぎ目やアスファルトのうねりor補修跡を、心地いい上下動のフィーリングに置き換えてくれる様はなかなかのものでした。
もうひとつ印象的だったのは、具体的にいうと、首都高都心環状線左まわり・谷町JCTから一ノ橋JCTを経て芝公園に向かう区間での加速性で、合流区間から早く抜け出すべく加速すると、シフトアップに対するエンジンレスポンスとタイヤ上下動に伴う適度なボディの揺れ方。「タイヤが地面に吸い付くような」という表現がありますが、むしろタイヤなんかなく、地面から2センチほど浮き、宙をすべっていくようなと表現したい。ホバークラフトなんてこんな感じなのかな。それでいてカーブに応じてハンドルを操作すればクイックに反応して進んでいく・・・これはトヨタにも日産にもホンダにもないフィーリングです。
ただしこの乗り味も、40km/h前後あたりとなるととたんに情けなくなります。これより上の速度域ではあれほどの乗り味を示したサスペンション&タイヤなのに、この速度域での微小突起への「ガタガタゴトゴト」は軽自動車並みで、欽ちゃんよろしく「なんでこうなるのっ!」と叫びたくなるところです。一般に微小突起の吸収を消すのはなかなか難しいといわれているのですが、開発者に話を聞いたジャーナリスト氏と話をしたら、どうもこの乗り味はマツダの考え方で4WD車に限っているらしく、2WDではこの傾向は見られないようです。
ということは、この「ガタゴト」の解消はできないことはないはずで、大急ぎで2WD並みにすべきでしょう・・・どうやらCX-60は、街乗りよりも高速路で、あり余るパワーはいざというときの加速時に費すにとどめ、ふだんは小出しにして長距離を淡々と走るのに向いているクルマのようです。
ひたすら静かなのは高速路でも変わらず、音量はガソリン車と同様。音質については第2回で述べました。
100km/h時の音の静かさは1500ccクラスのCVT車並のエンジン回転にもあるでしょう。
ギヤ比を見てみると、この8AT開発者の意図が見え隠れし、単にギヤを8つ並べたのではなく、1速、2速あたりはよりローギヤードにして発進性を上げ(ダッシュしやすい)、3~5速は加速性も加味した巡航を、6速の1.000(直結)を挟んだその先、1.000未満のオーバードライブ域7~8速はよりハイギヤードにして音と燃費の低減を意図したことがうかがえます。
実際、80km/h、100km/h時の8速でのエンジン回転数は写真のとおりで、かなりハイギヤード。これはそこいら普通車のCVT並みかそれより低いもので、「ほんとかいな」と思い、念のため、湿式クラッチがマニュアル車並みに締結している前提で計算してみたら、ほんとに回転計ドンピシャの1186rpm、1483rpmでした。
●物理や自動車工学の理論を無視した山道の走り
このクルマは、「NORMAL」「SPORT」「OFF ROAD」、3つの走行モードが用意されていますが(モード数はパワートレーンや、2WD、4WDかによっても異なる)、前橋の赤城山に舞台を移しての山間道走りでは、「NORMAL」と「SPORT」でそれぞれ1往復ずつの計2往復しました。
高速路では2t近い車重とワイドな車幅にものいわせたトレッド幅が効き、5ナンバー車とはひと味ちがう重厚な走りを見せましたが、山間道のカーブでは踏ん張りのよく効いた安定感を披露しました。全高に対して幅がとりわけ広いのと、重心も低いのでしょう、ロールも適度か少なめで不安感がありません。
パワーを存分に発揮できるのは山間道の上りでした。
料金所跡を過ぎ、クランクを抜けると、ここから最初のヘアピンカーブに至るまで、多少の屈曲を伴う結構な勾配の坂道が続きます。いきなり9.7%もの勾配となる道ですが、何といっても、ディーゼルなのにターボ付き254psのハイパワー。モーター分の後押しもあり、ここでは重力だの勾配抵抗だのなんてまるで無視し、上り坂を下り坂のように登ってしまいます。街乗りや高速路での追い越しもそうですが、アクセルを踏み込めばターボが稼働してキャラクターが豹変、第2回で述べたときと同じく、ここでも羽根をつけたら空を飛んでいってしまいそうな気配がありました。2t近い・・・というよりほとんど2tといっていい1940kgもの重量級を、よくもまあこんなに軽々と走らせるもんだ。
実はこれでも「燃費性能が最適になるように走行」「必要に応じてモーターを発電機として動かし、駆動用バッテリーを充電」する「NORMAL」モードでの走りです(取扱説明書より)。NORMALでさえこの有様なので、「SPORT」ではどうなるかといえば、変速点が高めになるだけのことで、これまでのSPORTモードと同じでした。NORMALでもアクセルの踏み込みでジキルからハイドに変わるので、実際に使い分けする必要はないように思えました。
「OFF ROAD」モードは試していません。
●遊んでいないメーターに大きなサイズのシート
メーターは、説明書ではAタイプと呼ぶ上位版12.3インチの全面TFT液晶タイプ。対角線が生じる正方形でも長方形でもないのに、どこをどう測って12.3インチなのかがよくわからないのですが、最近広まりを見せる全面液晶のメーターは、グラフィックで遊びすぎてちっとも見やすくないものが少なくないため、筆者はどちらかといえば否定派の不要派。ところがCX-60ではまったく遊んでいません。
このメーターは、先述3つの走行モードによってデザインが変わります。
配慮が細かいと思ったのは、全モードとも文字の大きさが変えられる点…こんな芸当、全面液晶でなければできないことで、これなら全面液晶だって大歓迎。難点は、いちばん使うNORMALこそデザインが繊細に過ぎて見にくかったことで、目盛りが細かすぎるのと、指針も細すぎ、文字を拡大しても指針の絵が変わることはありませんでした。太くするなり色を変えるなりすればもうちょい見やすくなるでしょう。
走行モードとは別に、任意に画面変更ができる設定がありますが、こちらは1種類。結局これも遊びにはなるでしょうが、1種類とはいわず、「Classicモード」なんていうのもひとつふたつ加え、昔のクルマのように横長のバー型速度計表示や、速度計の横に速度計と同じサイズの3針アナログ時計を表示したデザインなど、全面液晶ならできるでしょう。
メーターにはもうひとつ、筆者がいつも「どうにかならないか」と考えていることを解決するすばらしいアイデアがありましたが、これはもったいぶってユーティリティ編で紹介します。
各種スイッチを押したり上げたり引いたりすると、操作感が優れていることに気づきます。空調、安全デバイスその他、押せば節度があるし、ライト/ワイパースイッチレバーに触れてもガタはなく、それでいて上げ下げ&回転させればしっとりした感触で動いていく…販売店の実車で触れたとき、多くのひとが「造りがいいな」と思うことでしょう。
声を大にして苦言を呈したいのはドアサイドのパワーウインドウ&電動ミラースイッチのレイアウトで、押し引きの感触は優れるものの両者が密集、あまりにきれいに仕上げようとしたばかりに全スイッチが面一(つらいち)になっており、どれが何のスイッチなのか、手さぐりでわかりにくいことです。
(走行前に調整するのが原則であるにせよ)ミラー面の上下左右に左右切り替え&格納、パワーウインドウのロックボタン…特に再考を要したいのは運転席用パワーウインドウスイッチで、4つのうちいちばん使用頻度が高いこのスイッチだけ大きくするとか突出させるといった配慮をなぜ加えなかったのか。ミラーにしろウインドウにしろ、スイッチを何度も押し間違えました。
見てくれがきれいなのはおおいに結構ですが、観葉植物じゃあるまいし、スイッチは見て楽しむものじゃないんだから、まずは見なくても操作ができることを第一に造形してくれなきゃ困る!
シートサイズは前後ともたっぷりしており、フロント座面は両席とも幅は509mm、奥行き503mmと500mmを超えます。左右間距離もかなり広く、それを象徴するようにセンターコンソールの幅も、スイッチやシフトレバーがなければそのままテーブルとして使えそうなほどワイド。
シートは硬い柔かいの中間よりちょい硬めといったところ。座れば見た目と違って内側に湾曲したような感触の背もたれで、身体によくなじみます。ただ、アジャストを最上位にしてもやけに低く感じさせる着座高です。測れば全高も座面高も他車と大して変わらないし、インパネ上面がこちら側に傾斜していて圧迫感はないものの、カウルは低くないことが影響しているようです。この種のクルマならもうちょい全高を上げ、着座高さも上げてもいいのではないか。
通常、後席は前席よりも高くするものなのですが、それほど差はありません。仕掛けもシンプルで、せいぜい背もたれにリクライニング&可倒式になっているていど。スライドもなし。
たいていの後席は前席よりも冷遇され、座面奥行きは短くされるものが多いのに反し、こちらも500mmを超える506mmにして大サービス。前席も去ることながら、後席は「何もここまでしなくても」と思うほど座面、背もたれが分厚いのが印象に残りました。
前後席周辺の高さは写真のとおりです。
他のマツダ車は知らず。
CX-60には、前述したことの他にも他社では見かけない、称賛したくなるアイデアや配慮が随所にあり、これらについて、後々各項でも触れるつもりですが、マツダの内装デザイナーや車両企画陣、そしてそれを承認するひとたち…走行中に於ける操作を軽視していないと感じました。それだけにさきの電動ミラーとパワーウインドウスイッチの部分が唯一「?」が飛び交ったのでした。
というわけで今回はここまで。
次回は「i-ACTIVSENSE編」でお逢いします。
(文/写真:山口尚志 モデル:星沢しおり)
【試乗車主要諸元】
■マツダCX-60 XD-HYBRID Exclusive Modern〔3CA-KH3R3P型・2022(令和4)年8月型・4WD・8AT・ロジウムホワイトプレミアムメタリック〕
★メーカーオプション
・ドライバー・パーソナライゼーション・システムパッケージ 5万5000円(消費税込み)
・パノラマサンルーフ 12万1000円(同)
・ロジウムホワイトプレミアムメタリック特別塗装色 5万5000円(同)
●全長×全幅×全高:4740×1890×1685mm ●ホイールベース:2870mm ●トレッド 前/後:1640/1645mm ●最低地上高:180mm ●車両重量:1940kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:235/50R20 ●エンジン:T3-VPTH型(水冷直列6気筒DOHC24バルブ直噴ターボ) ●総排気量:3283cc ●圧縮比:15.2 ●最高出力:254ps/3750rpm ●最大トルク:56.1kgm/1500~2400rpm ●燃料供給装置:電子式(コモンレール) ●燃料タンク容量:58L(軽油) ●モーター:MR型 ●最高出力:16.3ps/900rpm ●最大トルク:15.6kgm/200rpm ●動力用電池(個数/容量):リチウムイオン電池 ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/21.2/22.4km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:505万4500円(消費税込み・除くメーカーオプション)