■生産ラインでの環境負荷低減も図られたシリーズ式プラグインハイブリッド
マツダは、2023年6月22日(木)に宇品第1工場で、ヨーロッパ向けの「MAZDA MX-30 e-SKYACTIV R-EV」の量産を開始したと明らかにしました。ロータリーエンジン搭載車が量産されるのは、2012年6月のRX-8の量産終了以来、約11年ぶり。なお、ロータリーエンジン搭載車の累計生産台数は199万台を超えています。
マツダ独自のプラグインハイブリッド、MX-30 e-SKYACTIV R-EVは、日常使いの幅広いシーンでバッテリーEV(BEV)として使える85kmのEV走行距離(EV走行換算距離)が確保されています。ロータリーエンジンの発電で、ロングドライブにも対応できるだけでなく、走行時のすべてをモーターで駆動するシリーズ式プラグインハイブリッドになります。
ベースとなるMX-30は、マツダ初の量産BEVとして2020年に導入され、マイルドハイブリッドモデル、量産が開始されたプラグインハイブリッドモデルが加わったことになります。
同社が掲げる、カーボンニュートラル実現に向けたマルチソリューション戦略を体現するモデル。さらに、内装材としてコルクや再生材からできた生地など、環境に配慮された素材の積極的な採用に加え、生産工程でも環境負荷の低減が図られています。
MX-30の生産工程での環境負荷低減の取り組みとしては、マルチトーン塗装があります。MX-30のエクステリアデザインの特徴のひとつである、マルチトーン塗装(2色および3色使いのボディカラー)が行われる専用の塗装ラインで、塗分けが必要な部分に的確に塗料を噴射するスプレーガンが導入されています。
ノズルとボディ表面の距離がミリ単位で管理され、塗料の噴射ロスを低減。また、塗料を乾燥させる工程では、通常の塗装ラインでは約140℃まで熱して塗料を乾燥させるのに対し、約80℃の低温で硬化する新開発の塗料が採用されています。
こうした一連の取り組みで、通常の塗装ラインでマルチトーン塗装が行われる場合と比べて、使用されるエネルギーを大幅に削減し、年間CO2排出量に換算すると約34~37%を削減できるとしています。
同社は、クルマの生産工程でも特に環境負荷が高い塗装工程において、2002年に「スリー・ウェット・オン塗装」、2009年に「アクアテック塗装」が導入されています。トレードオフの関係にあるという、揮発性有機化合物とCO2排出量を削減できる取り組みを、グローバルの生産拠点で推進。
MX-30の「マルチトーン塗装」のラインでは、「アクアテック塗装」の技術がさらに応用され、環境負荷の低減を図るとともに、魂動デザインの造形の強さ、美しさを際立たせる高品質な塗装を達成。
また、広島本社工場には、再生可能エネルギー導入の取り組みとして、太陽光発電設備も導入されています。2021年7月に稼働した同工場の太陽光発電設備は、1.1MWの発電能力を有し、発電された電力は同工場で生産するMX-30 EVモデルに加え、新たに量産を開始したe-SKYACTIV R-EVの出荷時のバッテリー充電もまかなうそうです。さらに、工場全体で使用する電力としても供給されています。
バッテリーEVやハイブリッドなどの普及が進めば、カーボンニュートラル社会の実現が容易に完了するわけではなく、ライフサイクルアセスメント(LCA)、資材調達から製造(生産)、流通、廃棄や再生までを通しての視点が欠かせません。
マツダは、LCAをクルマのライフサイクルにおいて、環境負荷低減の機会を特定する手段として2009年から採用しています。どのように生産されたのかにも目を配る時代が到来しているのかもしれません。
(塚田 勝弘)