ホンダワークス2026年からF1に再挑戦ながら、エンジン技術は市販車に活かされない?【週刊クルマのミライ】

■F1参戦とカーボンニュートラルは相反しない

ホンダワークスとしてF1へ参戦を発表。Aston Martin Aramco Cognizant Formula One® Teamへ2026年からパワーユニットを供給する。
ホンダワークスとしてF1へ参戦を発表。Aston Martin Aramco Cognizant Formula One® Teamへ2026年からパワーユニットを供給する。

2023年5月24日、ホンダがFIAフォーミュラ・ワン世界選手権への参戦について発表、2026年よりパワーユニットのワークス供給を行うAston Martin Aramco Cognizant Formula One® Team(アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム)を迎え、記者会見を実施しました。

モータースポーツファン、ホンダファン、自動車ファンであれば、すでに多くの報道でその内容を目にしていることでしょう。

ここでは自動車コラムニストの筆者が記者会見を見て感じた「ホンダの変化」について書き記したいと思います。

あらためて整理すれば、ホンダがF1にワークス参戦するのは2026年から。その理由としてF1のレギュレーションが変わることが第一に挙げられています。

ホンダの発表を引用すれば、『F1は2030年のカーボンニュートラル実現を目標として掲げており、2026年以降は100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられるとともに、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターで賄う』カタチになることがF1への復帰を決めた最大の理由となっているようです。

ホンダは全社を挙げて「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指しているのは知られているところですが、F1もカーボンニュートラル化に進んでいるのであれば、F1参戦と環境対応というのは相反しないといえるわけです。

●2026年からの活動はこれまでの参戦とは温度感が異なる

本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部 敏宏 氏とAston Martin Aramco Cognizant Formula One® Team会長 ローレンス・ストロール氏
本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長 三部 敏宏 氏とAston Martin Aramco Cognizant Formula One® Team会長 ローレンス・ストロール氏

ホンダのF1活動といえば、最初期の四輪車である「T360」や「S500」を発売した直後から始まっていました。

1964年から1968年にエンジンから車体までオールホンダ体制で参戦したのが第一期と呼ばれます。

その後、1982年~1992年までウィリアムズやマクラーレンなどにエンジンを供給、圧倒的な強さを誇示したのが第二期。

前半はBARとコンビを組み、後半はオールホンダで参戦した2000年~2008年が第三期。

そこから7年の空白を経て、2015年に復帰したのが第四期。当初は苦戦したものの、参戦終了することになった2021年にはレッドブルレーシングとのパートナーシップによりマックス・フェルスタッペン選手がドライバーズチャンピオンとなったのは記憶に新しいところでしょう。

では、2026年からの参戦は第五期と呼びたくなりますが、記者会見における発言からすると過去の参戦とは空気感が異なっているように感じます。

流行の表現を使えば『シン・ホンダF1』という印象もあるのです。

●ホンダが量産エンジンから脱却する方向に変わりはない

左からHRC社長 渡辺 康治 氏。三部 敏宏 氏、ローレンス・ストロール氏、Aston Martin Performance Technologies Group CEO マーティン・ウィットマーシュ氏previousnextclose DOWNLOAD
左からHRC社長 渡辺 康治 氏。三部 敏宏 氏、ローレンス・ストロール氏、Aston Martin Performance Technologies Group CEO マーティン・ウィットマーシュ氏previousnextclose
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かつて本田宗一郎氏はF1参戦の意義や目的について『走る実験室』という表現を用いたといいます。

今回の記者会見においても、ホンダの三部社長は新レギュレーションによりカーボンニュートラルを目指すF1参戦から得られる知見を量産技術に応用したいという旨の発言をしていました。

一方で質疑応答において、三部社長は「ホンダの量産車において段階的にエンジンを廃止する計画に変更はない」といった内容の発言もしています。F1のパワーユニット(エンジンとモーター)を開発するからといって、エンジン技術が量産車に活かされることはないという意味にとれます。

もちろん、ホンダが開発しているという電動スポーツカーが搭載するモーターやバッテリーにおいてF1からのフィードバックは期待できますから「走る実験室」という意味合いも残るのでしょうが、カーボンニュートラル燃料を使うエンジンは量産車とは関係の薄いユニットになっていくといえます。

ただし、ホンダジェットなど電動化が難しいとされる航空分野においてカーボンニュートラル燃料は必須であり、その分野において知見が活かされるケースは出てくるといえそうです。

第四期のF1参戦においては世界一を目指すことでエンジニアを鍛えるという意味でF1参戦に意義があるといわれていました。今回もエンジニアのモチベーションや経験値アップも意識しての参戦決定という発言もありましたが、従来より大幅に開発コストを抑えることを大前提とした参戦になっているという点は異なるようです。

もっとも変化を感じることができたのは、アメリカ市場におけるF1のプレゼンスが上がっていることとF1復帰の関係を問われたときです。

ご存じの通り、ホンダの主力マーケットは北米市場となりますが、かつては北米ではF1の注目度は高くありませんでした。そのため北米市場に限ってみれば、ブランディングとマーケティングの両面においてF1参戦にコストをかけても回収できていなかったという面は否めません。

しかし、現在は北米エリアでF1が全5戦開催されるなどF1で活躍すればホンダのブランド価値が上がることが想像されます。2026年からのワークス参戦ではホンダブランドの市販車の販売促進につなげようという意思を感じました。

これまでホンダがモータースポーツ活動においてブランディングやマーケティングについて言及したことは、けっして多くはなかったという印象です。今回の発言は、株主などのステークホルダーに対してF1参戦を理解してもらうための方便かもしれませんし、F1活動を量産車のブランディングにつなげることでモータースポーツ活動の持続可能性を高めようという狙いかもしれません。

しかしながら、その内容はホンダが考えるF1参戦の意義が次のフェイズに向かっていると強く感じられる記者会見でした。

いずれにしても、モータースポーツをブランディングに活かすには結果を出すことが最重要となるのは言うまでもありません。

カーボンニュートラルを目指すホンダが生み出すF1パワーユニット、おおいに注目していきたいと思います。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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