低PBR改善要請。株式市場は自動車メーカーの退場を求めている?【週刊クルマのミライ】

■日本の自動車メーカーはほとんどがPBR 1倍割れ

トヨタの2023年3月期決算発表では営業利益減となっていたが、同時に増配も発表された。
トヨタの2023年3月期決算発表では営業利益減となっていたが、同時に増配も発表された。

2023年3月、東証(東京証券取引所)が「上場企業においてPBRが 1倍割れとなっていることは問題である」という異例の発言をしたことが、注目を集め続けています。

以来、低PBR銘柄が注目されるなど、低PBR問題は一過性のものではなく、日本経済の課題として認識されるようになっています。

会見では、トヨタが名指しされるなど日本の基幹産業である自動車業界も低PBRの企業が多いという指摘があったことは自動車ファンの間でも話題となったようです。

教科書的にいえば「PBR(株価純資産倍率)とは、株価が1株あたり純資産の何倍かを示したもの」です。

PBRが1倍を割っている企業は、時価総額(株式の流通数に株価を掛けて算出した数値)が純資産総額を下回っていることになります。もろもろ端折って簡単にいうと、PBR 1倍割れ企業の全株式を買い占めて、会社を解散すると買い占めた側は儲かるという風にいえます。

●PBRを高める≒株価を上げる

収益率の低さが指摘されるホンダは2025年度の売上高営業利益率(ROS)7%達成を目指している。
収益率の低さが指摘されるホンダは2025年度の売上高営業利益率(ROS)7%達成を目指している。

PBRが1倍割れの企業というのは、株式市場市場が企業価値を評価していないという指標になり得るのです。過激な言い方をする投資家は「低PBRの企業は株式市場から退場すべき」といった内容の発言をすることもあります。

日本で乗用車を作っている自動車メーカーのPBRはどうなっているのでしょうか。

日経平均株価が3万808円35銭と、1990年8月以来32年9か月ぶりの高値をつけたという明るい話題にあふれた5月第3週が終わったタイミングで、5月19日の終値をもとに段階で筆者が調べてみた結果をPBRのワースト順に並べてみます。

計算方法によって細かい数値は変わるかもしれませんが、大筋で各企業のPBRをイメージするものとしてご覧ください。

ブランド名 PBR 株価
日産 0.39倍 511.6円
マツダ 0.51倍 1177円
ホンダ 0.57倍 3906円
スバル 0.84倍 2314円
三菱 0.85倍 462円
トヨタ 0.93倍 1959.5円
スズキ 1.09倍 4682円

東証の会見で名指しされたトヨタは、当時よりもPBRを着実に1倍に近づけていますが、それでも自動車メーカーでPBRが1倍を超えているのはスズキだけという状況は3月から変わりありません。

とくに日産、マツダ、ホンダのPBRは数字からして改善が求められるのは自明でしょう。逆の見方をすればPBRが1倍になるくらいの株価まで上がるべきですし、企業の力としてはそれだけのポテンシャルを持っているはずです。

●株価を上げるのは増配や自社株買い

日産自動車の2022年度決算を発表する内田 誠 社長。配当を増やすなど株価を上げる方策も発表された。
日産自動車の2022年度決算を発表する内田 誠 社長。配当を増やすなど株価を上げる方策も発表された。

低PBRというのは、株式市場(投資家)が当該企業の生産性が低いと判断していることを示しています。時価総額の大きさが話題となるEVメーカーであるテスラのPBRは10倍を超えています。それほどに市場の期待を集めるだけの実績やプランを示すことが日本の自動車メーカーにも求められているともいえます。

とはいえ、自動車市場が急激に拡大するというような状況を期待するのは難しいのも事実。企業の成長性への期待を集めて株価を上昇させ、PBRを適正化するというのは正当的なアプローチですが、即効性のある手法ではないでしょう。

これまた教科書的にいえば短期的に株価を上げるには「自社株買い」や「増配(株主への配当金を増やす)」が効果的です。

実際、トヨタは決算発表において『期末配当は1株当たり35円(7円の増配)、年間では60円(8円の増配)』と『1500億円を上限とした自己株式取得』を発表しています。

日産においても『2023年度は2022年度比38%増の営業利益を見込む』と企業の成長を示すと同時に、『2023年度の配当を1株あたり15円以上(前年度は10円)』と増配することを明らかにしています。日産の株価水準でいえば、2%だった配当利回り(株価に対する配当金の割合を示す指標)が3%へと大幅増になったといえます。

東証の批判的発言を受けての判断だけとはいえませんが、日本の自動車メーカーが株価を上げることを意識しているのは間違いありません。

100年に一度の大変革期といわれる自動車業界は厳しい競争にあるので株価ばかりを気にして経営すべきではないとも思います。

しかし、変革期において着実に成長するというロードマップを示すことができれば、日本の自動車メーカーは長期的なPBRを改善することができるでしょう。そうした正当なアプローチにも大いに期待したいと思います。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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