■クーペ冬の時代に
美しいスタイルだな、と思う。まるで彼女のように。
20年ほど前までだろうか。国産車のクーペといえば「若者が乗るクルマ」というイメージだったのは。
絶頂期は1990年頃の、まさにバブルのど真ん中だ。日本の歴史上、もっとも裕福だったその時代はクーペが爆発的な人気を得た。若者たちが“デートカー”としてこぞって買い、当時は日産「シルビア」なんて1ヵ月で1万台以上も売れたのだから、今にしてみれば信じられないような勢いだった。
信じられないといえば、そもそも1990年代前半までは、「クーペ」という乗り物は今のように特別な存在ではなく、きわめて一般的だった。
日産「パルサーエクサ」やトヨタ「サイノス」といった小さく安価なモデルから、日産「レパード」やトヨタ「ソアラ」といった上級タイプまで、国産にも豊富なラインナップがあったのだ。
当時は気が付かなかったけれど、いま振り返ってみると、その時は今よりも“モノ選び”が自由な空気にあふれていた時代だったのだろう。
1900年代後半以降の日本では、ステーションワゴンブームを経てミニバンブーム、そして今のSUVブームとなる中で、多くの人は「室内の実用性」を求めるようになった。そうなるとクーペは分が悪い。だから、今のようにクーペの冬の時代になってしまったのは当然かもしれない。
そんな時代に登場した「レクサスLC」は、国産車としては極めて独特のポジションだ。1300万円を超える価格帯からもわかるように、ターゲットは大人。ライバルは「メルセデス・ベンツSL」や「BMW 8シリーズ」あたりで、裕福な大人のためのクーペという位置づけなのだ。
●デートに最適
欧州では「クーペは大人が生活を楽しむためのクルマ」というポジションで、かつてマツダの「コスモスポーツ」や「コスモ」がそうだったように、このレクサスLCもどれだけ優雅な雰囲気を出せるかが勝負どころと言っていい。
ただ、かつての“大人のクーペ”とレクサスLCが明確に異なる部分がある。それはハイブリッドを用意していること。ガソリン車の排気量5.0L V8自然吸気エンジンに対し、ハイブリッドは排気量3.5L V6自然吸気エンジンと強力なモーターの組み合わせ。
ハイブリッドだからと言って、特筆するほど燃費がいいわけではないけれど、純粋なガソリンエンジンよりはいいし、スマートな加速と静かさを味わえる。
「色が素敵。あと、加速も気持ちいいよね。滑らかだけど速くて、気分が高まってくる」
そんな彼女は、こう続けた。
「ドライブでいちご狩りに行きたいな…」
さすがスイーツ好きだけのことはある。このLCでの彼女とのドライブは、きっと楽しくなるだろう。春はいちご狩りだけど、秋になったらぶどう狩りもいいかもしれない。
やはりクーペは、ドライブデートによく似合うのだ。時代が流れても。