■eKワゴンのライト性能を見てみた
今回は、eKワゴン試乗のライト編をお送りします。
eKシリーズ中、ごく標準的なクルマなだけに、至ってシンプルな機能のものでした。
●全車ハロゲンランプ標準装備
eKワゴンは、安いMばかりか、高いGを選んでもハロゲンランプが標準装備。LEDランプのオプションの用意すらありません。いっぽう、同じボディのまま、デリカD:5顔となるeKクロスのほうは5機種すべてがLEDランプとなっているのが対照的です。
いつも述べているとおり、筆者はLED素子がひとつでも切れようものならユニットごとまるまる交換になり、ハロゲン球の比ではない補修費用がかかるのが嫌なので、クルマのランプの総LED化に対して筆者は猛反対派なのですが(一生いい続けてやろうと思っています)、eKワゴンにハロゲン球を残したのは大正解だと思っています。
暗く感じるのが不満なら、そのときこそ社外品のハイワッテージバルブなり、LEDバルブなりを求めればいいわけで、LED全盛な中、ハロゲンなんていっけん前時代的に見えますが、ユーザーの任意性が残されているのがいい点です。5代め、6代めのeKワゴンもそのままいってくれ!
ただ、このクルマのユーザー層に、ライトにわざわざ改変を加えてみたくなるひとは少ないとも思います。
ユニット内の光源レイアウトは写真のとおり。
外側からロー/ハイ一体のハロゲン球、人間の目でいうところの涙腺の位置に車幅灯、ターンシグナルを上下に配置しています。
この灯火の配列は疑問で、車幅を示すから車幅灯なのに、寄り目の位置に置いておきながら車幅灯はないでしょう。デザイナーは名称の意味がわかっているのか?との疑問が湧きます。
ターンシグナルも同位置に置いていますが、対向車からするとロービームに隣接した位置ではビーム光に埋もれて点滅がわかりにくい。引き離してバンパーに移設するべし。
どちらもおそらくは、車両左(右)斜め前から右(左)の車幅灯、ターンシグナルが見えなくならないようにという配慮もあるのでしょうが、どのみちフロント真横から見たとき、グリルが見えるほどフロントフェイスがラウンドしているわけじゃなし。もうちょい名称と機能の意味を考えながら灯火配置してほしいものです。
ロー/ハイ、ターンシグナル、車幅灯を一体にしたがるのは、車両への組付けが一発ですむからで、これは工場側の工数低減が目的です。これがロー/ハイ、ターン&車幅灯だと、一体式なら1回ですんだ組付けが2回になる。左右なら2回が4回になります。
ekワゴンを題材にして文句をいっていますが、このクルマの基本デザインは日産デイズなわけで、このへん、eKワゴンのほうが巻き添えを食った格好です。
いっぽう、三菱側のオリジナルデザインとなるeKクロスのほうは、実際にはグリルやバンパーを外さないとわかりませんが、少なくとも見かけ上は車幅灯をライトからフード直下に分離させ、しかも両端に位置していてきちんと車幅を示す、れっきとした「車幅灯」になっています。(こちらはこちらで、ヘッドライトとターンシグナルが一体なのと、そもそも衝撃を受けるのが本分のバンパー部にライトがあるのが「いいのか?」と思う点ですが)
そうはいっても、eKワゴンはすべての光源がハロゲン式で、いざとなったら、安い電球を買ってきてDIYで交換でき、工賃もタダにできる。すべての作業が自前では不可となるLED式にはない、大きな大きなメリットです。
LEDかハロゲンか…この違いはクルマを買った後々、不具合をや損傷を引き起こしたとき、懐に跳ね返ってきます。
もうひとつ心配ごとは、アクリルレンズが損傷を受けたり、経時劣化で白濁して要交換となったとき、レンズ単体で交換できるのか?
「みんカラ」の「整備手帳」を見てごらん、たくさんいるよ、困っているひと。
●正確性はほどほどのAHB(オートマチックハイビーム)
ライトのスイッチ構成は、「AUTO」を定位置とする新オートライト規制対応版。
「AUTO」を起点に、向こうまわしで「ライト」、停車中の手前まわしで「車幅灯/OFF」でライト点灯、1.5秒以上の保持で消灯。手を放すと「AUTO」に自動戻り。その「AUTO」は、エンジンON時、周囲の明るさ次第でライトが自動で点消灯します。
スイッチ上の刻印の並びから、操作が他のクルマとは逆に見えますが、これはまわすスイッチ側に刻印してあるためで、操作の仕方は他車と変わりませんが、一瞬わかりにくくはあります。
このクルマのオートマチックハイビーム(以下AHB)を、夜の山間道と高速道で試してきました。
といっても、ハロゲン式であることからご想像どおり、「アダプティブナントカ」といった先進的ロジックはいっさいなし、周囲の明るさに応じてロー/ハイを切り替えるだけのシンプル型です。
AHBは、スイッチが「AUTO」の状態で、ターンシグナルレバーを前方に押しやるだけで起動、それを示す緑色のAHBランプがメーター内に点灯します。
作動条件は以下のとおり。
<ロー → ハイ>
車速約25km/h以上。
<ハイ → ロー>
車速約15km/h以下。
eKワゴンのAHBは、街乗りではやはりロー/ハイ切り替えの精度は高くないように感じました。
毎度いっているように、筆者は前方にクルマ、歩行者、のら犬、のら猫がいない限りは街灯が灯っていようと看板照明が明るかろうと、車速にかかわらずハイビームにするのですが、そのような場では、eKワゴンのAHBはローを続けてしまいます。
深夜の住宅街なら、車速の関係もあってなおローの時間が長く、AHBのありがたみはそれほどありません。
ロー/ハイの切り替えは、フロントガラス上部のカメラ映像で判断していますが、夜でもあれだけしっかり道路標識を捉える割に、周囲の光が街灯なのか、クルマのライト光なのかを捉えるのは苦手な模様。状況把握の精度が向上すれば、AHBの値打ちは増すでしょう。
…という性質を示すeKワゴンのAHBは、街灯が少ない場では性格が一変したように正確性が向上します。このへんの特性は他のクルマと同じです。
ひとつは山間路。いつもの群馬県・赤城山の、料金所跡を通過した後の夜の登坂路は、左右は森林が生い茂って真っ暗、そうでなくとも照明がひとつもないので、光をも吸い込むブラックホールのような場所なのですが、このようなシーンでは確実な作動を示します。
ライトを消したらどれほど暗いかというと、写真のとおり。
ブラックホールに入り込むや、eKワゴンはパッとハイビームに切り替え、はるか遠方まできちんと照らしてくれます。
カーブ先から対向車(このときは走り屋のみなさんがいらっしゃった)が来れば即座にローへ…幸いにというべきか、オレンジがかった光の色が目にやさしく、ビカビカの白いLED光に慣れた目には、ハロゲン光で照らされた路面は昭和カラーに逆戻りします。
高速路では、関越道の前橋ICまでは道路照明が多く、ハイへの切り替え頻度は高くありません。前橋ICを過ぎて一挙照明灯がなくなると上下する頻度は上がりますが、その精度はさきの赤城山のときよりはちょい下で、全体的には正しく作動するものの、先行車や対向車の出現に対する反応が、ときに少々遅れ気味になることもありました。
市街地、高速路、山間道…どのシーンでも2段式ハイビームの精度は他のクルマとおおかた同じというところですが、eKワゴンに限っては、この鈍さがストレスにはなりませんでした。その理由は次項で。
赤城山は路面が溶けて凍った雪に覆われていたため、早々に退散。配光は群馬県の高崎市街からすぐの場所にある観音山のカーブで見てみました。
カーブでは斜め先までもうちょい照らしてくれればと思うシーンがないではありませんでしたが、これも強烈な光を放つ白のLED光に調教された目がそういわせるわけで、ハロゲンならこのようなものでしょう。
いま売っている三菱RVRの初期型のプロジェクター式HIDランプは、照射光から漏れた光をコーナー部のレンズに集め、左右斜め前方の照射に充てるという構造になっていました(スーパーワイドHIDヘッドライト)。
いってみれば、他チームで戦力外通告を受けた野球選手を引き受けて活躍させる「野村再生工場」みたいなライトで、光の再利用というべき優れた仕掛け。
専用の光源がないだけに(点消灯・非点灯はHIDバルブに依存する)球切れの心配はなし! 当時筆者も乗ってみましたが、光の寄せ集めの割には中から見ても外から見てもハイビーム並みに明るく、対向車からのパッシングを心配したほどなのにそのようなことはいっさいなかった、アイデアもののライトでした。
これがハロゲン球ででもできるかどうかはともかく、光源を増やすことなく、内部構造の工夫だけで明るくしたすばらしいライト(=専用光源が存在しないので、そもそも球切れのしようがない)を、三菱製造分だけにでも再起用してほしいものです。
●操作の任意性がうまく残されたAHBの操作性
自動ハイビームが働く際のレバー位置が、車両前方側、中立位置とで各社ばらつきがあり、筆者は過去リアル試乗の中で、「いずれ中立位置での自動ハイビームに統一されていくだろう」と書いてきました。
周囲光の認識率が低いクルマでは、ドライバー任意でハイビームにしたくとも、すでにレバーが前方にある場合はどうしようもないからです。これが中立位置ならレバーを押してハイにできるのです。
冒頭で「レバーを前方に押しやるとAHB起動」と書いたのにもかかわらず、eKワゴンのAHBは実に使いやすいものでした。
なぜならこのクルマの場合、レバーを前方に押しやっても、後ろに引いてのパッシング操作と同様、自動で元の位置に戻るからです。つまり、AHB待機中も作動中も、そしてAHB OFFのときも、レバーは常に中立位置にあり、システム誤認識によるロー照射時に任意でハイビームにしたければレバーを押せばいいし、逆にAHB任せのハイビームをローにしたければ手前に引けばよろしい。
どのようなときであれ、ドライバーの任意性が保たれているのと、従来のAHBなしのクルマとほぼ同じ様式で操作できるのが優れているのです…前項で、eKワゴンのAHBは正確性に欠けてもストレスにはならないと書きましたが、自前操作でリカバリーしやすいのがその理由です。探しゃあいいやり方は出てくるもんだ。
たかだかレバー位置ごときでと思ってはいけません。文字で書くと大したことのないことを大げさにいっているように見えるでしょうが、いざ運転中、何でもない操作が何でもなくできる・できないの差はことのほか大きいものなのです。
AHBをOFFにする操作は、具体的には次のとおりなので記しておきます。
<AHBによるハイビーム時>
・ライトスイッチを「AUTO」以外にする。
・レバーを前方に押す(単なるハイビームに切り替わる)
・レバーを手前に引く(単なるロービームに切り替わる)
<AHBによるロービーム時>
・ライトスイッチを「AUTO」以外にする。
・レバーを前方に押す(単なるハイビームに切り替わる)
eKワゴン試乗第2回で書いた、シートスライドレバー位置の話と同様、昔の三菱車はライト操作も独特で、方向指示レバーを引くたびにロー/ハイ切り替え、途中までの軽いチョン引きでパッシングというものでした。したがって向こう押しはなし。
旧三菱方式の名残りなのかどうか知りませんが、当時とは多少異なるものの、むかしの三菱車を思い出させる操作ロジックのeKワゴンです。
●リヤランプ
リヤランプには失礼ですが、リヤランプについてはかけ足で。
リヤボディ中腹にタテ配置される光源は、上からテール、その下にストップランプ、さらに下にターンシグナル、リバースの順にレイアウト。
テールランプとストップランプは別々になっていて、ブレーキをかけると面積を変えてランプが灯る構成です。
いちばん面積の広いテールランプは、L字型に区切られたライン状に灯るので、てっきりLEDかと思ってよく見たら電球でした。
LED反対派の筆者が「おー、良心的!」と思ったのも束の間、その下のストップランプはLEDときたもんだ…でもまあ、テールとストップをきっちり分けてくれたから、まっ、いっかァ。それにしても、頑固にテール&ストップのダブルフィラメント球ひとつにしていた電球も、ライン状に光らせるためならテールだけでふたつにするとは…
ほんとうはハイマウントランプもLEDじゃなく電球にし、ストップランプはテール直下に隣接ではなく、ターンとリバースを挟んだ下に置いてくれたほうが、後続車にははっきりわかっていいかナ。
車両各部の光源は以下のとおりです。
【フロント灯火】
・ロー/ハイ:60/55Wハロゲン球
・車幅灯:5W球
・ターンシグナル灯:21W球
・フェンダー:灯体交換
【リヤ灯火】
・テールランプ:5W球(2個)
・ストップランプ:LED
・ハイマウントストップランプ:LED
・ターンシグナル:21W球
・リバースランプ:16W球
・ライセンスプレートランプ:5W球
LED式となるハイマウントランプとストップランプと、電球のはずのフロントフェンダーのターンシグナルは、点灯しなくなったら販社の出番。自前交換はできません。
最後、夜間照明を灯した状態の室内の様子をお見せして幕とします。
必要な部分各所に照明が組み込まれていて、夜間の操作性に困ることはいっさいありませんでした。
こと、シフトレバー左のスペースをフルに占める空調スイッチのひとつひとつが大きめなため、全体的ににぎやかです。
というわけでライト編はここまで。
次回、「車庫入れ編」でお逢いします。
(文:山口尚志 写真:山口尚志/三菱自動車工業)
【試乗車主要諸元】
■三菱eKワゴン G〔5BA-B36W型・2022(令和4)年型・4WD・CVT・スターリングシルバーメタリック〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1670mm ●ホイールベース:2495mm ●トレッド 前/後:1300/1290mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:900kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.5m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:BR06型(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:659cc ●圧縮比:12.0 ●最高出力:52ps/6400rpm ●最大トルク:6.1kgm/3600rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射 ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/22.7/21.5km/L ●JC08燃料消費率:24.2km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トルクアームリンク式3リンク ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:154万0000円(消費税込み)