■eKワゴンのMI-PILOTを見る
新車リアル試乗・eKワゴン第4回めは、eKワゴンの先進安全デバイス解説編。
本来なら三菱の安全支援技術「e-Assist」を採りあげるところですが、話の都合上、まずは「MI-PILOT(マイパイロット)」から始めていきます。
●三菱自動車のACCヒストリー
MI-PILOTの前に…
設定車速を上限に、カルガモの親子のように、前車とつかず離れずで走るアダプティブクルーズコントロール(以下ACC)もあたり前になりました。
前車を認識したり、車間距離を測る方式には、レーダーを使うもの、カメラを使うもの、eKワゴンのように、両者併用のもの…いくつかありますが、どちらかといえば、現在はカメラ式が多めの印象。カメラはカメラで、複眼ステレオ式、単眼式に大別されています。
いまでこそカメラ主体、またはレーダー併用で成立しているACCですが、ステレオカメラだけでACC走行し、自動ブレーキも働かせるデバイス普及のきっかけを作ったのは、5代目レガシィの途中で発売された「アイサイトVer.2」でした。単独オプション価格が10万円だったのではなく、標準装着車と非装着車の車両価格差が10万円というものでしたが、この種のデバイス、1990年代ならおおかた35万超が普通だった中、一挙「10万円」という低価格にして広めた功績は称えるべきです。
ならばその前がなかったかというとそうでもありません。
アイサイトの前身「ADA(アダプティブ・ドライビング・アシスト)」が搭載された1999年の3代目レガシィ・ランカスターかというとそれも違う。
そもそもACCではない、アメリカが発祥の、単なる定速走行を行うクルーズコントロール自体の歴史は古く、日本では1964年のトヨタクラウンエイトで、オプションながらすでに実現しており、以降、高級車を中心に、この「定速走行」だけの時代が長く続きました。
この定速走行に突然変異を与えたのが三菱自動車です。
2代目パジェロ、2代目シャリオ&初代RVR、デリカスペースギア、初代パジェロミニ…これらで大ホームランをぶちかまし、「RV王国」を築いていた1990年代前半の三菱は、もうひとつ、「クルマの知能化」にも力を入れていました。
「INVECS」や「MIVEC」で花咲かせた三菱の「電子技術のデパート化」は、6代目ギャラン(1987年)のVR-4、あるいは初代ディアマンテ(1990年)あたりからすでにその片鱗を見せていましたが、電子デパート開店直前の頃の1992年、三菱は3代目デボネアのエクシードIII Spに「ディスタンス・ウォーニング」を標準搭載しました。
クルーズコントロールでの走行中、先行車に向け、フロントバンパーから発したレーザーレーダーの反射時間から相対速度と距離を算出、Dレンジでのクルーズ中に前車との距離が縮むと警報を発し、さらに距離が詰まるとATを4速から3速に自動シフトダウンさせ、クルマがエンジンブレーキをかけるというもので、これは乗用車世界初のものでした。
その発展型が、こちらは純粋な「世界初」を引っさげ、1995年の2代目ディアマンテの最上級30R-SEにオプションで用意された「プレビューディスタンスコントロール」。
レーザーレーダーを使うのはデボネアと同じながら、ルームミラー裏に設けたカメラも併用…そう、ステレオ式ではないにしろ、カメラを用いたクルーズコントロールを初めて実用化したのはSUBARUかと思いきや、どっこい、三菱自動車のほうが先行していたのです。
このカメラを当時の三菱は「小型ビデオカメラ」と称し、何だか小学校の運動会で子どもの様子を撮る父親の姿を思い浮かべる名称だったのが微笑ましいのですが、そのカメラは「路上に描かれている白線は路面よりも明るい」という元情報との照合で自車レーンを認識、その上にある物体を先行車と捉えるというものでした。
そしてデボネアもディアマンテも、減速はエンジン制御とシフトダウン&エンジンブレーキで行うにとどまり、クルマにブレーキをかけさせることまではしていません。
●MI-PILOTの使用感
いつもと異なり、なぜ三菱車のACCの歴史を並べてきたか…
ひとつは、カメラを用いたカルガモ走行技術初の実用化&市販化の快挙は、誰もが思いがちなSUBARUではなく、三菱自動車であることに触れておきたかったこと。もうひとつは、現行のeKワゴンは開発主体が日産ということもあり、いや、そうでなくとも、2016年に日産との結びつきが強まって以降、三菱のACCは日産の「プロパイロット(Pro PILOT)」と名称の対比で「MI-PILOT」を名乗るようになりましたが、公正中立・不偏不党を念頭にしている「新車リアル試乗」の目から見ても、90年代前半にしてACCの前夜祭的技術を実用化した三菱が、何だか日産の影に隠れているようで気の毒に映ったからです。
リコール隠し事件に、90年代時点での先進技術の世界初づくし。恥の歴史も歴史のうちなら、快挙の歴史も歴史のうちで、こと2代目ディアマンテ当時、大学入り直前だった筆者は「おお! 未来がやってきた!」と感嘆した(特にカメラの部分)だけに、きっちり書きとどめておきたかった…それにしてもこの頃のノウハウ、日産と仲間になっても息づいているのかな。
話を戻し、eKワゴンのMI-PILOTを使ってみました。
「MI-PILOT(マイパイロット)」とは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)の三菱名称。語感から、「My PILOT」と書きたくなりますが、正しくは「MI-PILOT」…日産の「プロパイロット(Pro PILOT)」に対し、三菱であることの強調で「MITSUBISHI」の「MI」にしたのかと思ったら、「Mitsubishi Intelligent – PILOT」なのだと。
整理すると、MI-PILOTは次の2つの機能を有しています。
1.アダプティブクルーズコントロール(レーダー式)
2.車線維持支援機能(LKA)
次回で解説する予定のe-Assistは、安いM、高いG、どちらにも標準装備ですが、このMI-PILOTは、「マイパイロット(ACC)(LKA)+電動パーキングブレーキ&ブレーキオートホールド+マイパイロット用ステアリングスイッチ」をひとくくりにした「先進快適パッケージ(PKG2)」のセットオプションとなっており、Gでのみ、工場オプションで装備することができます。
街乗り主体の軽自動車だからMI-PILOTの使用頻度が少ない、あるいは購入費用を少しでも抑えたいひとも少なくないはずであることを思えばオプション扱いは親切だと思います。クルマの装備なんて、ほんとうはCoCo壱番屋のカレートッピングみたいに、ユーザー任意で個別にひとつひとつ要否が選べるのが理想なのだ。
eKワゴンのボディ周囲にはさまざまなセンサーが取り付けられていますが、MI-PILOT稼働には、フロントガラス上部のフロントカメラ、フロントバンパー内のレーダーが用いられます。
操作はハンドル右スポーク上のステアリングスイッチで行い、起動は、二重円が取り囲むクルマ上面視のマークのメーンスイッチをひと押しするだけ。「SET-」をチョン押しすると、そのときの速度を上限にACC走行を行います。
設定車速は約30km/h以上からで、「SET-」「RES+」のチョン押しで、5km/h刻みで上下させ、このとき先行車をキャッチしていなければ操作に応じて加減速、キャッチ中は上限車速の設定値が変わるだけで、先行車の速度に合わせた距離を保って走ります。
先行車をキャッチするとマルチインフォメーションディスプレイ(以下MID)内に先行車マークが表れ、先行車が停止すればこちらも自動停止。約2秒でブレーキ解除するのが、先回採り上げたアトレーでしたが、こちらeKワゴンは停止状態を維持してくれるのがありがたいところです。だからといって相手の発進でこちらが自動発進することはなく、RES+のチョン押しかアクセルペダルのチョイ踏みで自動発進、ACC走行を再開します。
車間距離の調整は車間設定スイッチで行い、押すごとに「長」「中」「短」…三菱では「MI-PILOT」、日産では「Pro PILOT」と呼ぶので、何やらものすごい機能があるのかと思いたくなりますが、操作にも機能にも、他社の同類デバイスに対して大きな差はありません。ただ、レーダー併用が活きているのか、先行車のキャッチは早いように感じました。どうせなら、ここに先述デボネアやディアマンテのように、先行車との車間距離を数字で示してくれれば、それこそいまでも先駆者としての息吹が感じられるのに。
ひとつふたつ注文があります。
デザイン開発も全体は日産だけに、ハンドルは旧ノートあたり、いまならキックスと同じものを使っていますが、ACC一連のスイッチは、ホーンボタンからハンドル輪っか(リム)にかけて先細りするスポークに準じた形になっているため、特に「RES+」「SET-」が、間に「CANCEL」を挟んだ上下別パーツの非対称になっていて使いにくいものでした。
ここはひとつのパーツを上下させて「RES+」「SET-」、押して「CANCEL」のシーソー式が望ましい…既存三菱車はシーソー型、最新日産車もシーソー式になっているので、マイナーチェンジで最新型と同じにすべし。
もっとも、筆者はいざというときのため、ホーンスイッチとなるホーンパッドはスポークまで覆っているほうが鳴らしやすくていいと思っており(フルフローティング式という)、ACC関連は一式、かつてのトヨタ車みたいに時計の5時あたりの位置に生やしたレバーで行わせる(かつてのトヨタ車みたいに)ことはできないかと思っている者です。
もうひとつは、eKワゴンも含めた、他社の他車にも共通する、高速道路でのACC走行の話…
設定車速とぴったり同じ速度での走行中、わずかな上り勾配にさしかかって車速が落ちたとき、それがたとい1km/h、2km/hの落ち込みだったとしてもクルマは過敏に反応し、CVTは即、ロー側に傾けると同時にアクセルを加え、いったん設定車速を豪快にスキップしてから元の車速に収めようとします。
これじゃあ、それこそ「定速走行」時代のクルーズコントロールと変わらない…ここはCVTであることを活かし、わずかな勾配による数km/hの落ち込みに対しては、エンジン回転はそのままに、CVTをハイ寄りにしての増速だけで設定車速を取り戻すのではだめなのか。現状は設定車速に対して忠実であろうとするあまり、わずかな上り勾配のたび、エンジン回転が上昇下降を繰り返し、クルマがどうにもあわただしくなっていけません。
ことほどさような事象から、いずれ比較実験したいと思っているのですが、クルマ任せのACC走行と、上手なアクセルワークによる自前走行とを比べたとき、トータルではACC走行時のほうが燃料消費量は多いのではないかと筆者は睨んでいます。
●車線維持支援機能(LKA:Lane Keep Assist)
常にレーンのセンターに収束するよう、クルマがハンドルをコントロールし、ドライバーのハンドル操作をアシストするものです。
これはACCのメーンスイッチを押すとセットで起動して待機状態に入り、次の条件を満たしたときに作動します。
1.ACC走行をしているとき
2.両サイドの白線をクルマが検知しているとき
3.先行車を検知しているとき(車速が約50km/hを下まわっているとき)
4.ドライバーがハンドルを握っているとき
5.クルマが車線の中央を走っているとき
6.ターンシグナルが作動していないとき
7.ワイパーが高速で作動していないとき
条件が7つもありますが、普通の走り方をしていれば簡単に満たすもので、3の要件を満たさずともすむ高速道路でLKAを試してみました。
前項で、先行車の認識が早いと書きましたが、eKワゴンは白線の認識も早めで、キャッチすると、それまで灰色だったMID内の白線マークが緑色に変わります。
ハンドルを放し気味にして見ると、直進路では自らレーン中央を保つほか、カーブと呼ぶにはほど遠い、大きな大きな屈曲では車線中央を維持しながらハンドルを巧みに操作して路上を這っていきます。
逆に、「よくこんなとこに道を通したな」といいたくなる、ビルとビルの間を縫うように延びる首都高のきつめのカーブにはもちろん追従しないので、eKワゴンオーナー予備軍のかたは、どうか勘違いされませぬよう。
第3回で、小さなハンドル操作量ではハンドルの動きが渋くなると書きましたが、LKAが作動=電動パワステのモーターが介入しているときはいつでも渋くなることを覚えておくべきです。
注意すべきは、LKAは完全な手放し運転をするためのデバイスではなく、あくまでもアシスト機能であることから、調子に乗って手を放しっぱなしにしているとブザー吹鳴&警告画面が表示されるのと、たといハンドルを握っていてもたまたま直線走行が続き、手を放しているのと同じくくらい操作をしないでいると、クルマは勘違いしてやはり警告してきます。
この警告画面が、ドライバーの反省を促すのになかなかいいデザインをしていて、それまで穏やかに表示していたACC情報画面が、素敵な色合いの画面に変わる! 「警告」の文字、そしてハンドルマークのまっ赤っ赤画面が、地面の穴からぬっと顔を出すようにじわ~っと現れるところに、「やっちゃいかんことをやっちょるのう」というeKワゴンのただならぬ怒りが表れているようで、「どうもすいません」ではすまない、いけないことをしてしまったと猛省させられる瞬間です。
全体的によくできたMI-PILOTで、少なくとも筆者が乗っている間、さきに述べた注文点以外の要望はありません。
ここで意図的に車両を白線に近づけたらクルマが逸脱警告してきましたが、これは車線逸脱警報システム(LDW)と車線逸脱防止支援機能(LDP)の領分なので次の「e-Assist」の回で。
●それにしても安くなったもんだ
開発主体が日産であるクルマに対して書くのは適当ではないのは承知の上で…
1995年の2代めディアマンテの工場オプション「プレビューディスタンスコントロール」は、単独でも選べる「クルーズコントロール」とのセットで、計36万6000円(税抜き)でした。
こちらeKワゴンでは、ACCとLKAを有したマイパイロット(とステアリングスイッチ)、電動パーキングブレーキ&ブレーキオートホールドをまとめた「先進快適パッケージ(PKG2)」は6万5000円(税抜き。税込みなら7万1500円)。
エンジンブレーキばかりか、本当にクルマを停止させるわ、ボタン押しで発進するわ、レーン内走行を維持するわ…約25年余の間に機能を大幅に進化させながら、1/6にまで低価格化した自動車メーカーの努力を忘れてはなりません。
というわけで、話は次回「e-Assist」編につづきます。
(文:山口尚志 モデル:海野ユキ 写真:山口尚志/三菱自動車工業/SUBARU/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■三菱eKワゴン G〔5BA-B36W型・2022(令和4)年型・4WD・CVT・スターリングシルバーメタリック〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1670mm ●ホイールベース:2495mm ●トレッド 前/後:1300/1290mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:900kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.5m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:BR06型(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:659cc ●圧縮比:12.0 ●最高出力:52ps/6400rpm ●最大トルク:6.1kgm/3600rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射 ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/22.7/21.5km/L ●JC08燃料消費率:24.2km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トルクアームリンク式3リンク ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:154万0000円(消費税込み)