フォルクスワーゲンが350万円台のEVを準備、次世代スタンダードを主張する【週刊クルマのミライ】

■ゴルフのイメージをEVに写し取ったデザインスタディ

ID.2の量産がはじまったときには2万5000ユーロ(およそ350万円)の価格を想定しているという。
ID.2の量産がはじまったときには2万5000ユーロ(およそ350万円)の価格を想定しているという。

フォルクスワーゲンが、EVデザインスタディのコンセプトカーである「ID. 2all」コンセプトを世界初公開しています。

フォルクスワーゲンのEVブランドであるID.ファミリーの各モデルは、いずれもフォルクスワーゲンらしいスタイリングとなっていましたが、EV的な差別化も多分に感じさせるものでした。

コンセプトカー「ID.2all」は、明らかにゴルフやポロといったフォルクスワーゲン・ブランドのアイコン的定番モデルをモチーフにしていると感じます。

言い方を変えると、エンジン車がなくなりEVが当たり前になったときのスタンダードなスタイリングを表現している、といえるかもしれません。

そんなID.2allは、コンセプトカーでありながら、2025年からの量産を考慮したデザインというのも注目でしょう。

キャッチフレーズとして「ゴルフと同じくらい広く、ポロと同じくらい手頃な価格」といった表現もありますが、販売目標価格は2万5000ユーロ(約350万円)というのもEVの普及期を意識していると感じます。

●前輪駆動のMEB Entryプラットフォームを初採用

一充電航続距離はWLTPモードで約450kmとアナウンスされる。最高出力は166kWと十分以上にパワフルだ。
一充電航続距離はWLTPモードで約450kmとアナウンスされる。最高出力は166kWと十分以上にパワフルだ。

そうした低価格は、ID.2allから採用された新世代のEVプラットフォーム「MEB Entry」によるところが大きいといえそうです。

ID.ファミリーとしては初の前輪駆動プラットフォームとなりますが、最高出力は166kW(226PS)とかなりパワフルとなっています。それでいて、一充電航続距離は450kmと実用上の不満なしといえるスペックとなっていますから、ID.2allはヒット間違いなしといえるでしょう。

気になるボディサイズは、全長4050mm・全幅1812mm・全高1530mm・ホイールベース2600mmと発表されています。このスペックであれば、機械式駐車場のほとんどに対応しますから、日本に導入されれば受け入れられるといえそうです。

●VWはEVシフトで利益率を上げている!

エンジン車でいえばゴルフのサイズ感で、ポロの価格感を目指しているという。
エンジン車でいえばゴルフのサイズ感で、ポロの価格感を目指しているという。

フォルクスワーゲンが、ID.2allのような普及モデルのEVを開発している背景には、世界的なEVシフトの加速があります。とくにEVシフトの進んでいる欧州マーケットにおいては、2030年にはフォルクスワーゲン・ブランドの80%がEVになると予測されています。

その上で注目すべきなのは、フォルクスワーゲンの生産体制もEVシフトに対応しており、EVによって稼ぐ体質に変更していると想像される点です。

フォルクスワーゲン・グループではなく、フォルクスワーゲンの乗用モデルに絞って数字を見ると、2022年の販売台数はEVの約33万台を含んだ全体としては約460万台で、2021年比で約30万台(6.8%)も減っています。

しかし、売上高は約740億ユーロ(前年比+8.7%)、営業利益は26億ユーロ(同+22.5%)、営業利益率は3.6%(同+0.4ポイント)と、財務的にはポジティブな結果となっています。

フォルクスワーゲンのEVデザインスタディとして発表された「ID. 2all 」は量産前提のEV。
フォルクスワーゲンのEVデザインスタディとして発表された「ID. 2all 」は量産前提のEV。

この数字だけで結論を出すのは早計かもしれませんが、フォルクスワーゲンの生産体制はEVシフトに対応しており、EVのシェア拡大に合わせて儲かる体質に改善されていると考えられます。

新しいコンパクトEVであるID.2allを、2万5000ユーロというリーズナブルな価格でリリースするというのも、けっして普及のために無理をしているのではなく、十分に採算できる価格設定なのでしょう。

もはやEVを作れるのか、売れるのかというフェイズは終わっています。これからの自動車メーカーは、普及価格帯のEVを生産販売してシェアを広げつつ、どれだけ利益率を高めることができるのかを、株主や市場に問われる時代になっているといえそうです。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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