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■マツダ新社長は北米で辣腕をふるった「営業系」
マツダ株式会社は2023年3月17日、新役員人事内定について発表を行ないました。
発表によると、2023年6月開催予定の第157回定時株主総会の日をもって、5年間代表取締役社長兼CEOを務めた丸本 明氏が退任し、現取締役専務執行役員の毛籠勝弘(もろ まさひろ)氏が新社長へ就任することに。
同時に組織改革も遂行し、カーボンニュートラル・資源循環戦略部を新設するなど、2023年4月1日付けで新組織体制へ移行することも明らかになりました。
マツダの経営トップ交替は、5年ぶりです。
……と冷静に書いておりますが、このニュースが飛び込んできた瞬間、「きゃーーーモロさんが!社長に!」とひとり飛び跳ねてしまいました。
たいへん個人的な話で恐縮ですが、不肖三代、新卒で入社した先は他ならぬマツダでした。最初の所属部署では毛籠さんの御姿をしばしば見かけることがあり、そのスマートな立ち振る舞い、爽やかな風貌はもとより、いうまでもなく仕事をばりばりこなすトップランナーとしての姿勢がキラキラとひときわ輝いてみえました。
「あの方のまわりだけオーラが違う!」と仕事のかたわらで視線を奪われる日々。しかも英語を流ちょうに使いこなすうえ、常にすこぶる柔和なムードに包まれているという……新入社員のわたしとってはまさに「憧れの上司」を象徴する存在だったのです。
社長交代にともなう記者会見に登壇された毛籠さんの柔らかな笑顔は、あの頃とほとんど変わりのないようにわたしには見えました。
●アメリカを「最も利益をあげる市場」に変革した功労者
山本健一氏以来となる開発畑出身の経営トップとして、2018年6月に第16代マツダ社長に就任した丸本 明氏。シャシー設計のエンジニアや新型車開発のリーダーなどを務めた後、1999年には同社史上最年少の41歳で取締役に抜擢されています。以来、欧州での開発・生産担当やプラットフォーム・プログラム開発推進、経営企画・商品戦略・商品収益管理担当など、幅広い領域においてリーダーシップを発揮してきました。
その丸本氏からバトンを受け取ることになるのが、新社長の毛籠勝弘氏です。
毛籠さんは1960年11月8日生まれの62歳。京都産業大学法学部で国際政治学を専攻していたそうで、「卒業論文は『非核地域の拡大』について。広島と関係のあるテーマに取り組んでいたのも、何かの縁なのかもしれません」と社長交代に関する記者会見で語っていました。
現在は専務としてサステナビリティ・管理領域統括担当と同時に、コミュニケーション・広報・渉外も担当する役員であることから、我々のようなメディア界隈にも毛籠氏と面識のある人間は少なくありません。そんな私たちが持っている毛籠さんのイメージといえば、やはり「海外をフィールドに営業の辣腕をふるってきた人物」というものです。
2002年にグローバルマーケティング本部長に就いた毛籠さんは、2004年にマツダモーターヨーロッパGmbH副社長に着任。2016〜2019年はマツダモーターオブアメリカの社長兼CEOとして、北米市場におけるマツダのブランド価値浸透に力を注いできました。まさしく、アメリカをマツダにとって「最も利益をあげる市場」に変革した功労者です。
●「新体制について頭の体操をしておいてくれないか」
丸本氏は、毛籠氏にバトンを譲ろうと考えた理由について問われると「マツダのなかには個性的で有能な役員が多くいるが、会社全体を俯瞰し、将来を見据えた考え方・発言をする」姿勢に着目したと回答。また、広報や渉外を担当する役員であったことから、「このように先行きが不透明な時代にこそ、内外のコミュニケーションに長けていることが大切」と考えたそうです。
アメリカでビジネスの構造改革に取り組んできた毛籠氏は、「現地で、政治や経済、文化、法律、州ごとの違い、販売ネットワークについてなど、様々なことに精通することができました。これは自分にとっての財産」と説明。まずは、来季を見据えたふたつの目標として、「経営を成長軌道にのせていくためのドライバーとなるのが、ラージ商品群の展開。これを成功裡に導いていきたい。これがひとつめ。もうひとつが、将来的に経営効率をより高めるため、サプライチェーン含めて全社的な原価低減に取り組んでいくこと。そうしてカーボンニュートラル達成に向けた布石をうっていきます」と語っています。
ちなみに、丸本氏から社長交代の打診があったのはいつ頃か、との記者からの問いに対して、毛籠氏は「昨年(2022年)の年末が迫った頃、定例の一対一ミーティングで社長から『新体制について頭の体操をしておいてくれないか』と言われました。意外だったし、覚悟ができておらず、正月中頭を悩ませました」と煩悶の時期があったことを述懐。
つづけて毛籠氏は、同じく営業系の社長としてマツダの再建に尽力した山内孝氏の存在に言及。当時“新米役員”としてその苦労する姿を側で見ていた毛籠氏は、「(山内さんの)覚悟というか、そういったものを実感していた。わたしもこれまでの時間の中で、徐々に覚悟を決めてこの席に今ついています」とバトンを受け取った今の心境について説明しました。
●意識してきた言葉は「和魂洋才」
丸本氏が社長に在籍した5年間は、多くの苦難が自動車業界、および社会を困惑させました。一番大変だったことは?との記者の質問に対し、丸本氏は「(社長に就任して)10日目、西日本豪雨で被災し、正常な操業に戻すまで2ヵ月を要しました。非常に大変でした。しかし、やはり2020年2月、新型コロナウイルスのパンデミックに端を発した様々な環境変化が一番です」と説明したうえで、それでも成果を出してくることができたのは、販売店や取引先、サプライヤーなど関係各社の支援があったからこそだと、深く感謝の気持ちを表しました。
丸本氏のリーダーシップのもと、経営改革に注力し、収益を生み出すことのできる構造をつくりあげてきたマツダ。その地盤を引き継ぎ、「全力で実力を発揮できる風土へ、さらにいっそう改革していく」ことを目指す、と語る新社長の毛籠氏は「全員野球で、総力戦でやっていきたい」と意気込みました。
ちなみに、グローバルを舞台に長らく仕事をしてきた毛籠氏が、常々意識してきたのが「和洋魂才」の言葉。「日本人固有の精神をもって西洋伝来の学問・知識を取捨・活用するという行き方」を指す四文字熟語です。日本人としての考え、アイデンティティをしっかりもったうえで、グローバルプレイヤーとして活躍する。その視点をもった毛籠氏が、マツダをどのような世界企業に育てていくのか。この先の動向から目が離せそうもありません。
……そして、いまや新入社員時代の初々しさの欠片もなくなってしまった三代ですが、いまも変わらぬキラキラした「憧れのモロさん」のリーダーシップ像に、そしてマツダらしく魅力的な新たな商品群へ、おおいに期待を寄せていく所存です。
(文:三代やよい)