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■K11マーチがSR311フェアレディに変身
●コンセプトは若者が走って楽しく!
モダンなデザイン、と聞いてどんなものをイメージしますか?
デザインイメージはともかく、モダンは「今風の」とか「最先端な」という単語に置き換えることができそうな気がします。
日産京都自動車大学校(以下、京都校)の学生が考えたこの車両、ベースはK11マーチカブリオレ、そして目指したのはSR311フェアレディであるのは見てわかります。
なぜ、SR311フェアレディなのか?
ベース車となるK11マーチカブリオレを見たとき、ACコブラのようにできないかと考えたものの、ふと出会ったSR311フェアレディを見て「これだ!」と感じ、その名も「I’m MARCH」の開発は始まります。Z世代の学生たちは、我々から見てレトロなフェアレディをモダンと感じたといいます。
京都校のカスタマイズは1年かけて行われ、新車開発のようにターゲットカスタマーを想定、コンセプトを決めて車両製作に取り掛かるそうですが、I’m MARCHの場合、ターゲットカスタマーは「自分たち」。自分たちのような若者が、乗って楽しめる、運転して楽しいを実現するためのクルマとして開発されたそうです。
今となっては貴重なK11マーチをベースとすることは決まっていたが、それをSR311フェアレディ風にするのは至難の業。たまたまネットで出会ったFRP製のボディパーツを入手することが出来、FRPパーツのフロントフェンダー、ボンネット、リヤフェンダー、トランクなどがベースのマーチに融合させることが出来た。この辺は2年時までに習得した、板金や塗装の技術が存分に発揮されるところ。
意外にも、ランプ類は、旧車ながらもSR311フェアレディの純正パーツが日産からいまだに販売されていたので、それらを躊躇なく装着し、カスタマイズの要となる「らしさ」がぐっと引き立てられることとなりました。
ボディカラーは迷ったところだそうですが、1人の女子学生の意見で「海辺を走って気持ち良さそうな」水色が最後の決め手になりました。貴重な女子の意見、強し!
次に、オープンカーで気持ちよく走らせる事が可能になりましたが、楽しく走らせるための要素として、ぜひともマニュアルミッションを搭載したいと考えます。そこで、別のK11マーチのエンジン+マニュアルトランスミッションを移植。見事MT仕様とすることが出来たわけです。
さて、I’m MARCHには、レカロシート、RAYSのホイールなど、最高級のパーツ類が装着されています。それもどう見ても新品。学生が用意するにしては高すぎるのでは?と思って聞いてみると、これらはメーカーからの提供品で、それぞれ企画書を提出し、学生の制作に同意を得て、商品を提供して頂いてるとのこと。将来、社会に出て、プロジェクトを進める上で企画書の提出は必須事項。一足先に学生時代に経験しているのは大変いいことですね。
トランク上にはひときわ大きなカーボンリヤウイングが鎮座しますが、これもC-WESTの提供品。ただし、企画書を提出したところ、「じゃあ、ただ提供するのでなく、自分たちで作ってみる?」との申し出をもらい、自分たちで製作したとのこと。カーボンパーツの製作はそれまで学校でのカリキュラムには含まれないので、思わずいい経験になったようです。
そして、この「I’m MARCH」は大阪オートメッセ2023に出展、東京オーロサロン2023へ出展されたフェアレディZをSUV化したような「Fairlady X」とともに、ナンバーを取得しているのも特徴です。公道走行可能となる前提でのカスタマイズだったので。随分大掛かりな改造が施されていますが大丈夫だったようです。これも実習の一環ですね。
●学生フォーミュラにエントリー
もう一つの京都校の特徴は、学生フォーミュラに参戦していること。
学生フォーミュラは、学生自らがイチから製作したフォーミュラマシンで、様々な課題をクリアしつつ、タイムを競い合うものです。
課題の中には、単にラップタイムを縮めることや、様々なレギュレーションをクリアするだけではありません。自分たちのカートを用いてビジネスとして成立させる施策なども発表し、ポイントとして評価対象とされています。
京都校の学生フォーミュラはまだまだエントリーも少なく、戦い方も未知数のEVカテゴリーにエントリーしており、まさに手探りでの進化が年度ごとに果たされてきました。
初年度など、エントリーするための準備だけで「よくここまで来ましたね」と運営側から言われたほど、大会にエントリーして走らせるまですら困難な道程だそうです。
2022年度の大会では動的審査に進めませんでしたが、電気車検及び機械車検には合格し、動的審査にあと一歩のところまで進めました。ちなみに、電気車検の流れを解説すると、
<電気車検の流れ>
EV-0:基本電気技術検査
基本装備と絶縁状態の検査を実施する。これに合格すると機械車検を受験できる。
EV-1:高電圧システムOFF検査
高圧システム「OFF」の状態で車両の電気的安全を確認する。
使用部品や回路の安全性を説明できる資料を見せながら検査員の
質問に答える。
EV-2:高電圧システム「ON」の状態で車両の起動を含め安全を確認する。
高電圧回路の電気回路構成を検査する。
使用部品や回路の安全性を説明できる資料を見せながら検査員の
質問に答える。
EV―3:レインテスト
水をシャワー装置で車両にかけるレインテストを実施する。
シャワー噴射を2分間、シャワー停止後2分間の間にIMD動作(シャットダウン)しないこと。
上記4つの検査に合格しないことには、動的審査に進めません。
国家資格の勉強と両立させるため、学生フォーミュラへのチャレンジは学生個々によっても様々で、やむを得ず途中断念する学生も中にはいます。
けれど、彼らはその困難を乗り越え、学生時代の思い出づくりと、クルマづくりを同時にこなし、卒業します。その経験と精神は後輩に受け継がれ、少しずつ成績や順位を伸ばし、結果を残していく、それが伝統になるのでしょう。
●明るくてノリがいいのも京都校の特徴
そのような京都校ですが、川嶋校長に学校についてのお話をお聞きしました。
――京都校の特徴、他の日産自動車大学校との違いなど教えて下さい。
まず、違うのは、関西にあるというので、明るくてノリがよくて熱いのが一番の特徴かもしれませんね(笑)。
――確かに、学生さんの集合写真を撮らせてもらっているとき、そう感じました!(笑) 学校のカリキュラムなどでの特徴はいかがでしょう?
取り組みとしての特徴のひとつは、やはりカスタマイズ科でしょうか。先輩たちのカスタマイズ車両の仕上がりも年々レベルが上がってきていて、希望する学生も増えてきています。
私自身が日産自動車で新車開発を手掛けてきましたので、それに近いようなことを学生にもやってもらおうと思い、その開発車両のターゲットカスターはどんな人物なのか、単なる性別や年令だけでなく、どのような家族構成で趣味はなにかなどから始まり、その人に向けたクルマのコンセプトはなんなのかをプレゼンしてもらいます。
それからスケジュールを引かせます。ゴールとなるショーへの出展から逆算して、いつまでになにをやらなければならないのかを決めてもらいます。
そうして、カスタマイズのベース車が決まり、コンセプトに沿ったカスタマイズを進めていく。完成したら、東京オートサロンや大阪オートメッセに出展して、会場で説明員としてお客様に説明する。そこが成長の集大成と思ってみています。
――学生さんにはどのようなアドバイスをされるんでしょうか? 例えばダメ出しなどはするんでしょうか?
悩んでいるところを引き出していくようなアドバイスをします。
日産本体から現役のデザイナーに来てもらいアドバイスをしてもらうんですけど、学生が「何色がいいですか?」って質問したんですね(笑)。それに対してデザイナーは、「コンセプトは何だっけ?」「カスタマーユーザーはどんな人だっけ?」と原点に帰ってもらうようなアドバイスをしますね。学生はすぐ答えを聞きたがるんですが、それは自分で考えてもらうよう促しますね。
――学生フォーミュラに参戦しているのも京都校のもうひとつ特徴ですね。
学生フォーミュラは、卒業研究のテーマのひとつとして取り組んでいます。3年の後半からの選択になりますが、学生フォーミュラはかなりの知識を持って取り組まなければならないもので、カスタマイズ科の活動よりもっと濃縮したもので、学生の成長が著しい。
――そうしたチャレンジを経て、育てる学生像は?
それら2つに共通するのは、コミュニケーション能力の醸成ですね。カスタマイズでも学生フォーミュラでもそうですけど、かなりの人数で動くわけですから、そのベクトルが合っていかないと活動ができていかないわけで、そのリーダーはどうやって引っ張っていくのか、リーダーでなくても自分の役割分担を考えてチームを高みに持っていくのか考えますので、経験した学生たちはメキメキ成長しますよ。
卒業して、就職した先でも、チームワークは必ず大事になりますので、その点は違ってきますよ。
――就職先はやはり、日産系販売会社が多いのですね。
例えば学生フォーミュラを経験し日産自動車の開発に入る人もいますし、その他の販売会社や企業に入る人も中にはいますが、やはり多くの卒業生が日産系販売会社にメカニックとして就職します。もちろん、その仕事を一生続ける人もいますし、途中でセールスに移る人もいます。京都校の卒業生の中には、京都日産の経営のナンバー2になっている人もいます。
●広くて設備の整った実習場が特徴!
甲子園球場と同じくらいの広さの大きな実習場を持つ京都校は、日産系販売会社の車体整備全国大会も開かれるほどだそうです。その京都校では、2年間で整備士国家資格2級を取得することはもちろん、その上の上級課程へ進むとすれば「自ら考え、自ら学び、自分のものにする」のコンセプトの元、自分が持ち込んだ車両を整備はもちろん、板金塗装での修理や合法範囲のカスタマイズもできるといいます。
さらに、詳しいことはまだ書けませんが、川嶋校長は、学生のためにできる新しいことを積極的に始めようとしています。
日本の基幹産業である自動車産業を支えている大きな柱のひとつがメカニック、自動車整備士です。それが少子化の影響も含め、成り手が減っているのです。
国家レベルの問題ともいえるこの難問を、なんとか食い止めようという川嶋校長の取り組みが、直接近々大きく影響していくことでしょう。京都校にはその効果が一番最初に現れてくるのではないか、と感じました。
(文・写真:小林 和久)
●日産京都自動車大学校
〒613-0033 京都府久世郡久御山町林27-6
https://www.nissan-gakuen.ac.jp/kyoto/
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