目次
■アウトドアユースを意識した、多彩なユースフルストレージ
リアル試乗・アトレーの第9回目にして、まだしつこくつづく、ユーティリティ編の3回目。
最後の最後までよろしくお付き合いのほどを。
●収容スペース
・オーバーヘッドシェルフ
いつもならインストルメントのトレイあたりから始めるところですが、今回はいきなりアタマの上から。
前席頭上には棚が横いっぱいに拡がっています。名付けてオーバーヘッドシェルフ。
写真では間違えて(ごめん!)両脇2か所にカタログを載せるにとどめていますが、実際には両脇、中央と、3か所に分けて使うことができます。
下から手で押せばしなりはしますがけっこうがっちりした造りで、1か所あたりの耐荷重が0.5kg(取扱説明書より)なんて、謙遜が過ぎるんじゃないのと思うほど。
先代にもあったようですが、使いでは新型のほうが上でしょう。なぜなら先代では前席頭上あたりからフロントガラス上辺にかけてスラントしていたルーフを新型ではフラットにしたから…つまりシェルフ側から見ると空間の天地が増えたわけですな。
・アッパートレイ
メーターバイザーとディスプレイオーディオの間の隙間を目ざとく見つけ、トレイ状に造形。このクルマは9インチディスプレイがつくため、オープン状になっていますが、オーディオレスor6.8インチディスプレイ車はその上縁を右から延びてきたメーターバイザーに合わせたため、その間のスペースもバイザーに覆われた「運転席左側ポケット」になります(それが本来の姿)。
・助手席トレイ&フック(非格納式)
向こう側に下がるテーパー状にして、置いたものを落ちにくくしているのが工夫といえば工夫。
左側には0.3kg(=300g)という数字がかわいい、ささやかなフックがあります。助手席のひとがビニール袋を引っ掛けてごみ入れに使うのにちょうどいいでしょう。
・センタートレイ
助手席トレイよりは薄型のトレイがセンターにあります。
カタログでは例としてスマートホン置き場にしていますが、ほかに手帳など、薄手のものを置くのに適切です。
・インパネセンターポケット
オートエアコン付車だけに許されたポケット。というのも、マニュアルエアコン車はシフトレバー左のスペースを上から下までコントロールパネルが占領しているため、ポケット設置の余地がないのです。
・グローブボックス
容量はほどほど。車検証や、分厚くなった取扱説明書、別冊のディスプレイオーディオ説明書を収めた車検証入れを入れたらあとは何が入るかなといった程度のものでした。
まあ、最近のクルマのグローブボックスはみな同じようなものです。
・フック(格納式)
ひととおりの写真を撮ったあと、あれ、こんなところにもあったのと資料を見て気づいたフック。運転姿勢ではちっとも見えなかった! 助手席乗員真正面、グローブボックス直上、インパネ手前の下向き面に格納されているからなのでした。
耐荷重は、さきの300gフックの10倍上をゆく3kgときたもんだ。非格納式よりも回転する可動式のほうが丈夫なのがふしぎ。
・コンソールトレイ
前席はいまどきならベンチ(風)シートにするところ、セパレート化。そのシート間に細長~いトレイを用意しました。
カタログではサングラスを置いていますが、その形状から小さな手まわり品や細長いものを置くのが適しているでしょう。コンパクトデジタルカメラ、折りたたみ傘、折りたたむ前の携帯電話、懐中電灯、千歳飴…ほかに何かあるかな。筆者はデジタルカメラを一時的に置いていましたが、走るとゴトゴトするので、気になるひとはすべり止めマットでも敷きましょう。
・アームレストポケット
…と、勝手に命名しましたが、実はドア内張り項で載せた写真と同じものです。
こんな細い場所、筆者なら何も入れませんが、あえて入れるとしたら、セルフスタンドでの給油時に使う軍手をくしゃくしゃに丸めて入れるかな。ドア開で地面に落としたときでも気にならないものを入れるのが無難です。
・ドアポケット(フロントドア)
荷室拡大のうれしい副作用でドアが乗員から離れた(と思う)ことを活かし(たと思う)、割と厚みのあるポケットになっています。
背高グルマでドア天地が豊かであるおかげでスピーカーとポケットを2階建て配置にできたため、ドア長さがそのままポケット長さになっている点も見過ごしてはなりません。いいぞいいぞ!
・ドリンクホルダー
最大4人乗り商用車ゆえ、最低限+アルファの数だけ揃っています。
まずはインパネ両脇のカップホルダーでふたつ。さきのフロントドアポケット先端にボトルホルダーが左右でふたつ、そしてスライドドア前方にふたつ…合計2+2+2=で6つです。4人乗りには充分でしょう。
・デッキサイドポケット
荷室サイドのトリムに大きなポケットを左右に設置。口が広いので、上から無造作に放り込める形をしていて使用性がよさそうです。荷室が広いぶん、ちらばりがちな小間物を何でもかんでもつっこんでおけばいいという良さがあります。
・シートバックポケット
助手席側のみで、運転席側にはありません。助手席側だけのクルマが多いのはコストがかかるのかな。それとも運転席からなら助手席側にしか手が届かないからかな。できれば運転席側にもあったほうがいいでしょう。ここではアトレーカタログを入れていますが、バインダー、雑誌、地図帳などをどうぞ。
●トランクルーム
荷室まわりは純粋なバンのハイゼットカーゴと差別化。カーゴが簡便なトリムにしてとにかく荷室容量を最優先しているのに対し、こちらアトレーは立体成型トリムで乗用仕立てにしています。ホイールハウスの凹凸を隠すほどなので、カーゴほどの荷室幅はないはずですが、そのぶん内側が平らになり、というよりも、後述のラゲージボードや棚などを設置できるようにするために平面化。アウトドアユース、DIY改造ユースへの想定に重点を置いた荷室になっています。
いまのエブリイワゴンが乗用で立派なリヤシートであるにもかかわらず、倒せば完全フラットな荷室にできたのに対し、先代アトレーワゴンはわずかな傾斜を隠しきれずにいました。
よほど悔しかったのでしょう、新型では、操作法はそのままに、薄いシートで完全フラット化…バンなら避けられないシートの薄肉化は、着座感が低下すると同時にフラット荷室への近道にもなるわけですが、これがアトレーのワゴンからバンへの格下げ感をかき消す保護色にもなっています。
先々代では、バックドアを閉めたときのダンパー(ガスステー)が室内側にありましたが、先代は閉めたバックドアとクオーターピラーの外側に移りました。荷室を2本の棒に邪魔されることなく隅々まで使えるようにするためです。今回はふたたび室内に…ボディサイドもバックドアも起こし、さらに開口部を拡げたためにダンパーを置くフトコロがなくなったのでしょう。このへん、致し方ありません。
・マルチフックとユースフルナット
車両にはマルチフックが2個付属されています。荷室全体全17か所(デッキバンは4か所)にボルト仕込みの取り付け穴があり、試乗車ではフックがすでにクオーターピラーについていました。フックは、2個で足りなければ販社で追加購入も可能です。使い方はあなた次第!
・デッキサイドトリム
デッキサイドトリムには他にも仕掛けがあり、見れば妙な溝が上下に2本…これは販社オプションの「ラゲージボード」を挿しこみ、収納棚や作業台として使えるようにするためのスリット。どう使うかというとですね…(次項につづく。)
・ラゲージボード
(前項からのつづき)ラゲージボードは、サイドトリムスリットにこのように差し込み、荷室を上下に分けて使うわけです。
上段高さが430mmで、下段高さが303mm。どちらも、荷を置くにもクルマの外からちょっとした作業台に使うのにもなかなかいい高さだと思います。
あれこれ望むとキリがありませんが、車庫入れ後にこの上に置いた荷を取りだすとき、バックドアにガラスハッチがあるとなおいいと思いました。後ろの壁なりクルマなりにギリギリ近づいて停めても上半分だけなら開けられ、荷に手が届く…このラゲージボードの存在がますます意味を持つようになるというものです。
前後2分割ですが、まったく同じ形状のものです。長辺の片側がカーブしています。上から下に差し替えるのに引き出したとき、くるりとまわさなきゃならないじゃないのと思ったのですが、実はバックドアを閉めたときのバックドア内側トリムのカーブと合わせるためなのだとわかりました。
・ヘッドレスト収納箇所
左右トリム上には穴ぼこがふたつずつ。これはリヤシートのヘッドレストの差し込み穴です。リヤシートをたたむときにどうぞというのでしょうが、ヘッドレストがやたらでかく、後方視界のじゃまになるので、後席にひとは乗らないと決め打ちできるなら、常時ヘッドレスト置き場として使ってもいいでしょう。でも、クオーターガラスからの視界がふさがるか…まあ、それぞれ考えて使ってください。
・バックドアストラップハンド
バックドアを閉めるときに引くためのいわばハンドル。当然デッキバンにはありません。
身長152cmのひなのさんでも楽々手が届く高さにまでぶら下がっており、何だかバックドアを閉めるのに楽しそうな表情をしています。
・バックドアのゼロポイント
バックドアは2本のダンパーによって軽く上がり、支えられます。開けるとき、手を放してもスーッと上がり始める角度があれば、閉めるときにはあるところで手を放しても自重で下がり始める角度もある…ということは、どのクルマにも、上がりも下がりもしない停止角度が開閉軌跡内のどこかに必ず存在するわけです。
アトレーの場合は、つり合う停止角度は筆者実測で、鉛直から約15度のところでした。これをゼロポイントといいます。ユーザーには何の関係もない、だからどうしたといわれればそれまでのことですが、知識として。
また、バックドアを支えるのに初めてガス式ステーを用いたのは、初代日産フェアレディZ(S30)でした。これも知識として。
●整備性
・エンジンルーム
説明書では「エンジン点検口」と称しています。
前席バックレストをいったん解除していっぱいに前に倒し、フックを外してシートごと後ろにひっくり返すとエンジンがこんにちは。
見慣れぬ目には、室内にエンジンが顔を出しているのは異様で、この状態でエンジンをかけたら音が鳴り響いて恐怖心すら抱きます。それでいて走ればよくあの程度の音量ですんだもんだと感心。音はいいとして、夏の炎天下でのエンジン熱の室内侵入の度合いとクーラーの効きはどうなのか、興味があります。
オイル点検のレベルゲージは右側(運転席側)、オイル給油口、バッテリーは助手席側に。
・フードの中
フロントフードの中には、ウォッシャータンクに冷却液、クーラーガスの低圧、高圧の配管など、ユーザーに日常点検が必要な要素がところ狭しに詰まっています。
ランプユニットが奥行きのほとんどを占領していますが、LEDライト車の電球ウインカーにしろ、ハロゲンライト車の各電球にしろ、このままではライト裏に手が入りません。各電球交換時は、ライトごと本体を外すのだと。前輪ホイールアーチにかかった裏のボルトとクリップを外し、バンパーをめくった裏のボルトも外すなど、電球ひとつ交換するにも作業はずいぶん大がかりに…筆者はデザイン優先でランプ交換が自前でしにくいのは嫌いですが、この種のクルマばかりは構造上仕方ないでしょう。
・スペアタイヤ
タイヤの質が上がり、パンクの率は減ったというものの、JAFの出動理由の第2位はパンクで、高速道路では1位なのだそうで。確率が低いのか高いのかわからなくなりますが、処置が面倒、処置後も確認が必要になる応急処置セット嫌いな筆者としては、スペアタイヤ賛成派です。
アトレーは元来商用車ということがあるでしょう。リヤ荷台フロア裏にスペアタイヤが固定されています。
・工具置き場
そのための工具は、リヤシート右下に設置。樹脂カバーを外すとジャッキ、ジャッキハンドル、ホイールナットレンチが収容固定されています。
●その他
・雨どい
モヒカンルーフ化でルーフとルーフサイドの継ぎ目を雨どい代わりにしたり、ドア開口部上のウェザーストリップに一体化してヒドン式(隠す)にするなどで、いまのクルマからは、昔のクルマにはあった雨どいがなくなりました。いずれも見映え向上、空気抵抗低減のためですが、雨どいよりもその効果は落ちます。雨上がりの日にドアを開けるとやはりルーフ上から雨水がバシャッ…
で、アトレー。ルーフサイドには、昔流儀の雨どいが前から後ろまで設けられています。
まさに「ザ・雨どい」!
だからといって、街乗りはもちろん、高速路でも風切り音が耳をつくことは一切ありませんでした。
というわけで、3回に渡ってのユーティリティ編はこれでおしまい。
また次回です。
(文・写真:山口尚志〔身長176cm〕 フェアレディZ写真:中野幸次 モデル:城戸ひなの〔身長152cm〕)
【試乗車主要諸元】
■ダイハツアトレー RS〔3BD-S710V型・2021(令和3)年12月型・4WD・CVT・レーザーブルークリスタルシャイン〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1890mm ●ホイールベース:2450mm ●トレッド 前/後:1305/1300mm ●最低地上高:160mm ●車両重量:1020kg ●乗車定員:2名(4名) ●最小回転半径:4.2m ●タイヤサイズ:145/80R12 80/78N LT ●エンジン:KF型(水冷直列3気筒DOHC・インタークーラーターボ) ●総排気量:658cc ●圧縮比:9.0 ●最高出力:64ps/5700rpm ●最大トルク:9.3kgm/2800rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:38L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):14.7/13.3/15.7/14.7km/L ●JC08燃料消費率:19.0km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トレーリングリンク車軸式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:182万6000円(消費税込み・除く、メーカーオプション/ディーラーオプション)