北米で大人気。KAWASAKIのオフロード4輪バギーが日本上陸

■KAWASAKI製オフロード4輪バギー「KRX1000」の魅力とは?

日本では見かけることがほぼないオフロード4輪バギー(SSV)ですが、2022年4月にパシフィコ横浜で開催された「Japan International Boat Show 2022」のKAWASAKIブースでひと際異彩を放っていたのが、オフロード四輪バギーのTERYX(テリックス)KRX1000でした。

Japan International Boat Show 2022で展示されていたTERYX KRX1000

ヨットやボートがメインのショーで、クルマはベントレーやフェラーリ、マクラーレンといった高級車のみですが、JET Skiに並んで展示されていたKRX1000は、その物珍しさからか多くの見物客を集めていました。

私はダカールラリーの現場でPORALISやcan-namといった北米ブランドのSSVは見慣れていましたし、PORALISやYAMAHAのSSVには乗ったことがありますが、KAWASAKIのSSVを見るのが初めてで、その作りのよさにまじまじと見入っていました。

これが日本で乗れたら楽しいのに…と思っていたところ、国内販売が決定し、メディア試乗会があるということでさっそく試乗に行ってきました。

●ATVとSSVは北米で大人気

TERYX KRX1000。前後のサスストロークの長さがすごい

SSVとは「Side by Side Vehicle」の略で、乗員が並列に並んでいる乗り物のこと。

用途やメーカーによりその呼び方が異なり、ROV(Recreational Off highway Vehicle)やUTV (Utility Task Vehicle)とも呼ばれます。

北米を中心に人気があり、クルマは100年に1度の大変革期ですが、北米のリサーチ会社はどこもSSVは、年105%以上で伸び続けていくと予測を出しています。

元々オフロードレジャーは、バイクから3輪、4輪のATV(All Terrain Vehicle)が流行り、こうしたバイクと同じライティング型に加え、SSVと呼ばれるクルマと同じように、運転席と助手席があり、ステアリングが円形のオフロード4輪バギーが登場。バイクメーカーはもちろん、水上バイクやスノーモービルを生産するメーカーも参入しています。

米国規格協会 (ANSI)で車両規格が定義され、アメリカの「POLARIS」「ARCTIC CAT」、水上バイクSea-Dooで知られるカナダのBRPが生産する「can-nam」、ジャパンブランドでは「YAMAHA」「HONDA」「KAWASAKI」などが主要ブランドです。

SSVはコンセプトとして大きく2つに分かれ、砂丘や平原、森の中などスポーツ走行が楽しめるタイプと、ハンティングからエクスペディション的な走りや農作業など働く乗り物として使うタイプがあります。

前車はFIAでT4カテゴリーが設立され、ダカールラリーをはじめFIAワールドカップクロスカントリーラリーに参戦できるベース車両になります。北米ではSCOREシリーズに参戦しています。

後車は農業や林業だけでなく、警察車両や湾岸警備隊車両そして軍用車両としても使用されています。どちらも信頼性、耐久性、悪路走破性の高さから、レジャーだけでなくワークホースとしても活躍しています。

●オフロードスポーツモデルのTERYX KRX1000は心沸き立つ走り

TERYX KRX1000。渡河性能も高い

各メーカーのオフロードスポーツモデルは、2~3気筒で約1,000ccエンジンを搭載していますが、トランスミッションに違いがあります。

YAMAHA YXZ1000Rはシーケンシャルシフトの5速でパドルシフトを採用し、操る楽しさがあり、HONDA TALON1000Rはビッグバイクにも搭載されるDCTでスムーズな加速感が楽しめます。

KAWASAKIのTERYX KRX1000は、POLARISやcan-namと同様にCVTを採用し、ドライビングをシンプルにし、より路面に集中しながら走れるようになっています。さらに自動遠心クラッチを組み合わせ、超低速から高速域までスムーズなコントロール性やベルトにやさしくなっています。

TERYX KRX1000

まずは、インストラクターのドライブによる同乗試乗でロックやモーグルを走ってもらうと、SSVならではのサスペンションストロークの長さのおかげで初期は柔らかく、ロックの段差でも姿勢を水平に保ち、軽々と登っていきます。

クルマでサイズ的に近いスズキ・ジムニーであれば、路面の凸部でサスペンションが押し返され、ボディが多少上下左右に動き、タイヤも時に空転しながら登っていきます。TERYX KRX1000は4輪が路面にしっかり接地し、低速でもスリップすることなく登っていきます。

私がドライブしてロックの波状路のような路面をサブトランスファーをLモードで走ると、ボディが水平に走り、パワーステアリングなので多少キックバックがあっても気にせず走れます。

そしてフラットダートをHモードにして加速するとリヤにトラクションがかかり、一気に加速していきます。エンジンもピックアップがよく、オフロードバイクをライディングしているようで楽しいです。

TERYX KRX1000に試乗。ウェアもグリーンで合わせてきました

サスペンションストロークはフロント472mm、リヤ536mmあり、きっと高速で波状路を走ったり、ギャップでジャンプしたときも、気にせずアクセルを踏んで行けるポテンシャルを秘めています。

これはレンジローバーやメルセデス・ベンツGクラス、ランドクルーザー、ジープなど、高級SUVでは体験できないオフロードでの優位性です。

●4シーターのTERYX4、6シーターのMULEは冒険心をくすぐる

TERYX4 S LE(左)とMULE PRO-FXT EPS(右)

オフロードスポーツモデルで4シーターのTERYX4 S LEは、KRX1000が31インチタイヤに対し、27インチタイヤでホイールトラベル量もフロント272mm、リヤ254mmとおとなしめですが、乗降性がよく、4座ともバケットシートになっていて走りも十分楽しめます。

きっと同乗者は、アミューズメントパークのアトラクションに乗っているかのような興奮が沸き上がってくると思います。しかもレールがなくドライバーの意のまま、フリーハンドで走るので予測がつかず、なおさらかと。

そして、ワークホースとして利用されるMULEは、最大積載重量453kgと軽トラックより荷物が詰めて、デフロック装備でぬかるんだ悪路もものともせず走破できる、牧場や農園、林業など大自然の元で仕事をするかたの強い味方になるUTVです。

世界的にこの需要は高く、ハンティングなどでは獲物をそのまま荷台に載せてきて、荷台も洗い流せて便利だと人気です。

荷台を大きくとったフロントベンチシートの3名乗車のMULE PRO-FX EPSと、アップライト式リヤベンチシートで最大6名乗車が可能なMULE PRO-FXT EPSがラインナップされています。今回は6名乗車に乗りましたが、急坂の下りもエンジンブレーキが利き、誰でも気軽にオフロードを走れます。

●ジャパンブランドを日本発売する意義

北米で生産されるSSVは、一部輸入会社が日本に輸入して販売していますが、今回、KAWASAKIがメーカーとして日本で発売することは大きな意義があります。

TERYXKRX
TERYXKRX

海外で大人気のジャパンブランドのSSVが日本で乗れないのはとても残念でしたが、今回KAWASAKIは販路拡大ではなく、日本で少しずつ知っていただきファンを増やし、SSVの文化を日本でも広めていきたいとのことです。

そしてSSVオーナーからすれば、メーカー販売だから純正部品供給まで確実にサポートしてくれるので、北米生産車でありながら国産車同様の安心感があります。

現状、国内ではナンバー登録不可で販売されるので、近くにオフロードコースや私有地の山などがあったらぜひ欲しい1台です。

大分のオートポリスインターナショナルレーシングコース内に「オートポリス・オフロード・バギー・ヴィレッジ」がオープンし、TERYX4 S LEやMULEが有料で運転体験や同乗体験できるので、乗ってみたいかたはぜひ行ってみてください。

(文:寺田 昌弘/写真:大井 敏裕)

この記事の著者

寺田 昌弘 近影

寺田 昌弘

1968年東京生まれ。獨協大学外国語学部卒業後、DNP(大日本印刷)入社。営業表彰を受け独立し、NPO医療支援活動のためサハラ砂漠へ。ダカールラリー6回参戦をはじめ、北米大陸横断、南米大陸縦断、オーストラリア大陸縦断など5大陸を走り、太平洋、インド洋などヨットで航海。
その現場で撮影、体感したことを執筆。都市から砂漠、南国の島々まで世界52ヶ国を旅し、世界の道をよく知る。愛車はランドクルーザー。日本スポーツプレス協会会員。
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