目次
■ロータリーエンジンがかえってきた
マツダのアイデンティともいえる「ロータリーエンジン」が復活するという期待を込めた噂は何年も前から流れていました。
筆者も2012年にロータリーエンジン復活に期待するコラムを書いていますが、それくらい長期にわたって新しいロータリーエンジンの登場は期待されていたといえます。
ロータリーエンジンを想定したスポーツカーのコンセプトモデルや、発電用のコンパクトなロータリーエンジンが公に展示されるなど開発がつづいていることは示されていたことも、ロータリーエンジン復活への期待を高めてきました。
そして、ついに新型ロータリーエンジンが帰ってきました。
日本では東京オートサロンで盛り上がる1月13日、マツダが『ロータリーエンジンを発電機として使用するプラグインハイブリッドモデル「 MX-30 e-SKYACTIV R-EV(エムエックス サーティー イースカイアクティブ アールイーブイ)」をブリュッセルモーターショー で初公開』したのです。
ご存知のように、MX-30はマツダとしてはRX-8以来の観音開きドアを持つスタイリッシュなクロスオーバーSUV。バッテリーの電力だけで走る純EVのバリエーションも用意している、マツダの電動化を象徴するモデルです。
その新バリエーションとして、新型ロータリーエンジンを積んだ電動車が発表されたというわけです。
●レンジエクステンダーではなくプラグインハイブリッドになった
エンジン車も用意されるMX-30では、EVバージョンでもモーターはフロントに搭載して、前輪を駆動します。今回、発表されたロータリーエンジン搭載車は、モーターと同じフロントベイの中にロータリーエンジンを積んでいます。
そしてロータリーエンジンは発電専用で、駆動はモーターだけで行う、いわゆるシリーズ型ハイブリッドであることも明らかになりました。なお、駆動用バッテリーは外部充電に対応した仕様になっている模様です。
今回の発表以前には「バッテリー走行メインでエンジンでの走行距離は短めのレンジエクステンダー仕様になる」という評判もありましたが、実際にはバッテリーによるEV航続距離は85km程度で、基本的にはロータリーエンジンで発電した電力によって走行するということになりそうです。
MX-30 e-SKYACTIV R-EVは、ロータリーエンジンを発電用に活用するシリーズ型のプラグインハイブリッド車ということになります。
●トロコイドの形状は新規で、ローターは厚い?
現時点ではMX-30が搭載する新型ロータリーエンジンについての情報はほとんど出ていません。イメージCGからシングルローターで、発電用モーターに直結しているであろうことは想像できますが、エンジンスペックなどは不明です。
しかし、とても重要な情報がマツダのニュースリリースには書かれていました。エンジン型式は「8C」になるというのです。
マツダのロータリーエンジンは、最初の数字が排気量、後ろのアルファベットはローターの移動する軌跡といえるトロコイド形状のバリエーションを示しているといえます。
たとえば、最初の量産ロータリーエンジンとしてコスモスポーツに搭載されたものは「10A」となっていますし、RX-8のロータリーエンジンは「13B」でした。2ローターエンジンの13Bは排気量が1308ccです。
トロコイド形状については、10Aと13Bで同一といえますが、じつは異なるトロコイド形状の13Aというロータリーエンジンを、わずかながら量産したことがあります。13Aと異なるトロコイド形状だから13Bになったといえます。
歴代ロータリーエンジンの違いをざっとまとめると、10A、12A、13B(いずれも2ローター)、20B(3ローター)といった市販エンジンからル・マンを制したR26B(4ローター)などのレーシングエンジンまで歴代ロータリーのトロコイド形状は偏心量=15mm、創成半径=105mmで共通。
10A、12A、13Bの各ロータリーエンジンにおける排気量の違いはローターの厚み(60、70、80mm)によるものだったといえます。
この規則性からすると、新しいロータリーエンジンは約800ccの排気量で、トロコイド形状が新しくなっていることが予想されます。シングルローターですから、ローターの厚みは80mm以上はありそうです。
新型ロータリーエンジンの排気量で思い出すのが、2007年の東京モーターショーに展示された直噴仕様の次世代ロータリーエンジン「16X」という熱心なファンも少なくないでしょう。2ローターで1600ccという排気量は、まさにシングルローター仕様にすれば800cc級になります。単なる偶然とは思えません。
はたして、真相が明らかになるかはわかりませんが、新開発ロータリーエンジン「8C」がどのようなバックボーンから生み出されてきたのか、15年越しの開発ストーリーはあるのか、おおいに注目したいと思います。