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■電動化なら内燃機関ではできない未体験の楽しさを探求できるはず!
●“YAMAHAのハンドリング”は数値化もされている!
今、バイク人気が再燃しています。バイク好きのかたは肌で感じているでしょうし、そうでないかたも薄々気づいてはいるんじゃないでしょうか?
そんなバイクの楽しさのひとつがコーナリングでしょう。「ハンドリングがいいとは何か?」を手始めに、バイクの楽しさとその未来を、ヤマハの2輪部門を統括する執行役員の西田豊士さんに聞いてみました。
――ヤマハ車は「ハンドリングがいい」といわれますが、「ハンドリングがいい」とはどういうことなのでしょうか?
確かにそう言われることはありますが、ヤマハのお客様に限らず、2輪にお乗りのかた全般に「ハンドリングといえばヤマハである」っていう共通認識があるかっていうと、ボクはそうではないんじゃないかなって思うんです。
自分の操作に対する反応が、自分が乗っているオートバイと違うものに乗ったら、「こんなの全然違う」って思うだろうし。どれが人間の感覚に一番近いんだっていうことを1人1人に問うたところで、その人それぞれの環境もあるし、歩んできたオートバイ人生もあるんで、それは違うよねっていうことになると思います。
ただ、ヤマハのハンドリングがどうやって生まれてるかっていうと、さまざまなシチュエーションで、ライダーがこういう判断をしてこういう操作を入れたんだったら、こういう応答を返すのがその操作に対して馴染みやすいんじゃないか…。安心感とか曲がっていく感じとか、総合的に一番人間の感覚に近いんじゃないか…。
っていう探求を、歴史的に進めたうえでオートバイを作ってるのが、ヤマハのハンドリングの正体だっていうふうに私は解釈してますし、特に、その作り込みを中心的に行っている走行実験のメンバーなんかはそう感じてると思います。
――そういうハンドリング特性は長年積み重ねてきた中で、ある程度集約されてきているものなんですか?
集約されてると思います。YZF-R1であれ、MTシリーズと呼ばれるスポーツバイクであれ、インドで売っているモデルであれ、スクーターであれ、全体としてやっぱり操作に対してそういう収斂した応答をしますね。
それは、そこへまとめていく人間たちが「こういう操作に対してはこういう応答だ」という教育を受けながら、受け継ぎながら、設計者と一緒になってその応答を作り込んでいってるので、そうなっていると思います。
――それは単なるフィーリングだけの問題じゃなくて数値化されたものがあるんでしょうか?
あります。舵のつきかたと、リーンをしていく角度とスピードです。ただ、数値化はできるんですけど、何がちょうどいいかっていうところ、リーンのスピードが速いか遅いかとか、舵がたくさんつくかつかないか、舵がつくスピードが速いか遅いかのちょうどいいところっていうのは、引き継いできた感覚と、お客様からの膨大なフィードバックとがベースになって、「こういうゾーンがよさそうだね」っていうところを整理しながらやっているという感じですかね。
そこはボクの中でも、この5年ぐらいでかなり整理がついてきて、膨大なデータを処理する技術や、言語化されてきた評価を数値に置き替えるデジタル技術が飛躍的に進んできました。
以前は計測1個やるにしても、そのデータを処理するのにしても、すごく時間がかかってたのが、今ではスピードが格段に上がってきています。
そういう技術の進化のおかげで、ヤマハ発動機が「良し」としているオートバイの応答というものは、こういうゾーンにあるというのが見えてきましたし、開発の際に膨大な作り込みの時間をかけて、そのゾーンに持っていくことをしなくてもすみます。こういうレイアウト、こういう慣性モーメントで…とスタートすると、もうある程度そのゾーンの中で仕事が始められるようになってきましたね。
●未来のバイクのハンドリングは進化するのか
――4輪車の場合はハンドルで曲げるわけですけども、バイクの場合はハンドル操作をしたり、タンクを押したり、ステップを踏んだり、いろいろなところからいろいろな入力をします。そういう操作は複合的に考えてるんですか? それとも入力の要素をバラバラに見ているんですか?
オートバイの反応を見るときは、ステアリングへの入力しか見ないです。ステップに入れる、タンクを押すといった、他の様々な入力は全部ノイズになるので、体重移動すらまずは見ないです。ステアリングに入れた力に対してどれだけステアリングが切れて、バイクがどれぐらいの速度で傾いていくかっていうのしか見ないと聞いています。
もちろんそこから、そのオートバイに合った乗り味を作り込んでいくところでは、いろいろな操作が入ったり、体重移動が入ってきたり、そのときにどう感じるか、タイヤから得られるフィーリングとか、そのときにぐっと旋回力が増すとか、みたいなところはやりますけどね。
プラットフォームと呼ばれるものだったり素性のところを作っていく、その評価をしていく段階では、見るのはもう手の入力だけです。
――バイクのそのハンドリングというのは、時代とともに進化するものなんですか。例えば未来のバイクは、そこが進化していくのでしょうか?
そうですねえ…。操作に対する、より人の感覚に近い、より人が欲しいと思っている応答をライダーのかたに返すっていう部分においては、まだ完璧に返せているわけではないので、そういう意味では進化はします。
でも、価値観が変わってしまうほどの進化となると、もう自動運転の世界でしょうね。傾きながら自動運転するっていう世界になると、もう操作もなにも無くなるので、まったく価値観が違う進化になるだろうなって思いますけど。
あとは、リーニングマルチホイール(トリシティ、NIKENのようなリーンさせて走る3輪以上の乗り物)の世界では、これまで2輪では体験したことのなかったようなフィーリングを与えるものとして、でも「これが本当は一番感覚と近かったんだ」「これが一番欲しいものだったんだ」っていうようなものが作っていけるかもしれません。
そういった探求を続けていくことは必要でしょうね。
●バイクってなにが楽しいんだろう?
――次は、ハンドリングにかぎらず、根源的な質問なんですけど、バイクって何が楽しいんでしょうかね?
…私たち、バイクに乗ってることが楽しいって思わないお客様に向けても商品、作ってますので…(笑)。
『今日そこまで行かないと仕事できない』というかたに、快適に便利に移動できる道具も含めて商品を提供してますので、楽しさだけではバイクを語れないんですけど、“さまざまなシーンで人生が豊かになるもの”だとは思っています。
例えば、それは仕事にありつけるっていう部分でもそうですし、その仕事に行くまでの移動を快適に、渋滞に巻き込まれずに快適に移動するっていうこともあるかもしれません。
趣味の世界で友だちと一緒にツーリング行くのもいいし、誰もいない山の中、4輪車で入っていけないような山の中、森の中に1人で入っていけるシーンもあります。それからレースもあれば、ひとりで大陸横断の旅に出るっていうのもあるでしょう。
いろんなシーンがあるんで、根源的にバイクの楽しさって何ですか?っていわれると、それらを総合して「人生を豊かにするものだ」ってまずお答えします。
少し絞り込んでスポーツバイクの楽しさって何ですか?って聞かれても、まだ振れ幅がありますし…。けれどひとつは、クルマにはない、やっぱりリーンするっていう三次元的な動きがすごく楽しいという点ですかね。4輪車と最大に違うのは、傾くってことがありますかね。
――その部分は将来的にも変わらない部分でしょうか?
ただ、そこに電動が加わってくると、カーボンニュートラルの切り口だけではなく、使う側の価値観として、実は喜ばれるかもしれないと思うのは“静かさ”かなと思いますね。音のない価値観は、今後もっともっと大きくなると思います。
通勤時間帯のタイやベトナム、インドネシアの路地裏に行っていただいて、そこを行き交うスクーターのやかましさ…。特に、帰りって仕事から帰るタイミングがまちまちじゃないですか、いつまでたってもオートバイが路地裏を行き交っているときに、子どもも路地裏で遊んでいる。ちょっと入ったところでおばあちゃんたちが座ってる。
そんなところの車両が全部電動に変わったら、この人たちにはすごく静かな夜が訪れるんだろうなとか。
それにいろんなシーン、山の中、森の中でも。私も弊社のスポーツタイプの電動アシスト自転車で山中によく入るんですけど、音がないと、本来そこにあるべきものというか、昔から変わらずにそこに存在しているものをすごく感じられます。電動バイクで森の中をいろんな音を聞きながらゆっくり走るような、新しい楽しみもきっとできるはずです。
静かだっていうことの価値はもっとクローズアップされるべきだなって、電動化に関して思いますね。個人的な意見ですけど。
●電動バイクなら、内燃機関には不可能な楽しさが探求できる
――そのようにパワーユニットが電動化しても、ハンドリングっていうのは目指すところは不変ですか?
いや、変わると思います。内燃機関が電動に変わっただけの単なる置き換えのものだったら、「そんなに急いで代えなくたっていいじゃない」ってなっちゃうんで。
やっぱりパワートレインが電動になるなら、どういうものを提供するともっと人間の感覚に近く、気持ちいいと思ってもらえるのかなっていう、その入り口から探求してったほうが、きっと楽しいだろうなって思います。
特に、趣味の領域の商品では、内燃機関のときにできなかった、もっとお客様が欲しいと思うものを、あるいはまったく違うもの、お客様が欲しいと思ってたかどうかは別として、「こんな体験したことない」っていうような乗り味の探求から入ったほうがいいんだろうなと思ってます。
――もうやってらっしゃる?
うーん…やってたりやってなかったり(笑)…私が夢見てワーワー騒いでるだけだったり。
――そうすると、電動化の乗り味を追求するとハンドリングはどう変わりますかね?
ボクは、電動の応答性の良さを生かすんだったら、オールホイールドライブだと思います。
それをもっと活かせるのは、リーニングマルチホイールだと思います。電動のレスポンスの良さを使った、道路環境とかライダーのデマンドに即応できるオールホイールドライブといったあたりに、新しいその可能性があると思うんですよね。
そういうのを考えるとなんかワクワクするなと思って。
それを、私がやれっていうとつまらないんで、商品になるかどうかわかんないけど、ぜひやってみたいと思うような、お客さんに面白いと思ってもらえるような提案車を、情熱のある若いエンジニアが有志で作ってみて、みんなに「どうよ!?」っていって「いいねこれ!」となって、「ぜひお客さんにも体感して欲しいよね!」っていうような流れを作っていく取り組みをしたいですね。
そういうことができるように、その下地を作った組織全体のところもちゃんと評価しながらですね。
実はこのインタビューのとき、西田さんはもう少し具体的に未来の電動バイクのアイディアを語ってくれました。それは記事にできない内容だったんですが「乗ってみたい!」「体験してみたい!」と思わせるものでした。
カーボンニュートラルへの取り組みから、バイクにも電動化のプレッシャーがかかっているご時世ですが、やむを得ず内燃機関を電動に置き換えるというだけではなく、新しい価値を創造してやろうというヤマハ発動機のスピリットを感じました。未来が楽しみですね!
(文:まめ蔵/写真:水川 尚由・ヤマハ発動機)
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