目次
■ベーシックモデルの安全デバイスの充実度は?
新車リアル試乗「アルト」の第3回目は、スズキセーフティサポートを採り上げます。
アルトAに与えられている安全デバイスは、何が揃っているのか?
アルトの中で最もベーシックなクルマだけに、興味をお持ちの方も少なくないと思います。
ではでは、バーッと見ていきましょう。
●アルト全体のスズキセーフティサポートは12項目
カタログの「予防安全」項にて説明されている、アルトの安全デバイス「スズキセーフティサポート」は次のとおり。
1.デュアルカメラブレーキサポート
2.誤発進抑制機能
3.車線逸脱警報機能
4.ふらつき警報機能
5.先行車発進お知らせ機能
6.ハイビームアシスト
7.標識認識機能
8.後退時ブレーキサポート
9.後方誤発進抑制機能
10.リヤパーキングセンサー
11.ヘッドアップディスプレイ
12.全方位モニター(全方位モニターカメラ装着車)
アルトのベーシックカーというキャラクターからか、アダプティブクルーズコントロール(ACC)の類はどの機種にもなく、オプションの用意さえありません。商用車ならともかく、最近の新型車では軽自動車を含めても少数例に属し、このへん、アルトがやはり街乗り主体であることと、ラインナップ中、主要モデルに違いなくても、その中心はもはやスペーシアやワゴンRシリーズにあるというスズキの認識が見え隠れするようです。
ただし、省かれているのはACCくらいのもので、アルトといえど、そしていちばん安いアルトAといえど、ACC以外の機能は他のスズキ軽並みに揃えられています。また、スズキセーフティサポートに属していませんが、逆に、少し前なら安モデルで省かれがちだったサイド&カーテンエアバッグは、アルトAも含め、全機種標準装備となっています。このへんも他の最新スズキ軽と足並みを揃えています。
例によって、これらデバイスについて、取扱説明書を元に解説します。
1.デュアルカメラブレーキサポート(DCBS:Dual Camera Brake Support)
ステレオカメラで前方車両、障害物、歩行者などの検知、警報を発して衝突回避を促したり、自動ブレーキ制御によって衝突時の被害軽減を図ります。
2.誤発進抑制機能
停車または徐行速度(車速で約10km/h以下)に於いて、車両前端から前に約4m以内に車両ないし障害物を検知したとき、アクセルペダルの急な踏み込みによるエンジン出力の上昇を最大約5秒間抑制させ、衝突時の被害軽減を図ります。
3.車線逸脱警報機能
約60km/h以上での走行時、ステレオカメラが左右区画線を検知、そのラインから自車が逸脱すると、メーター表示とブザーとで注意を促します。
4.ふらつき警報機能
同じく約60km/h以上での走行中、システムが車線内での車両の蛇行パターンまたは短時間内での車線逸脱警報の連続的作動を監視してふらつきと判断したとき、メーター表示とブザーとで注意を促します。
5.先行車発進お知らせ機能
「先行車から約10m以内に停止」「先行車が発進、約4m以上離れる」「それでも自車は停車を続ける」となったとき、マルチインフォメーションディスプレイ内の車両マーク点灯とブザー吹鳴で先行車発進を報知します。
6.ハイビームアシスト
ステレオカメラで捉えた先行車のライト、街路灯の明るさなど、車両前方の明暗状況を判断し、ヘッドライトのロー/ハイを自動切替します。
7.標識認識機能
走行中、ステレオカメラが捉えて認識した標識を、ヘッドアップディスプレイに表示し、ドライバーに知らせます。
8.後退時ブレーキサポート
シフトレバーがR、車速約10km/h以下での後退時、リヤバンパー内の超音波センサーで感知した車両後方の壁などの障害物との衝突を回避できないとシステムが判断したとき、自動で強いブレーキを働かせ、衝突の回避または衝突被害軽減を図ります。作動時はメーター表示とブザーが連続吹鳴します。
9.後方誤発進抑制機能
停車または徐行速度(車速で約10km/h以下)での後退中、車両後端から後ろ約3m以内に壁など障害物を検知したとき、アクセルペダルの急な踏み込みによるエンジン出力の上昇を最大約5秒間抑制させ、衝突時の被害軽減を図ります。
10.リヤパーキングセンサー
リヤバンパー内の超音波センサーで車両後方の障害物を検知します。シフトがRで停車中、または徐行時に壁などの障害物を検知すると、障害物との距離に応じて車内後方にあるブザーが鳴ります。また、全方位モニター装着車の場合、センサーの検知情報を画面に表示します。
11.ヘッドアップディスプレイ
現在車速やシフト位置などを、メーター上部にポップアップしたアクリルガラスにカラーで投影します。視線や焦点を運転視界に置いたまま、現在の車両情報が得られることを目的とするものです。
12.全方位モニター(全方位モニターカメラ装着車)
フロント、サイド、リヤカメラを総動員し、車両周辺をモニター画面に中継して映し出します。
デバイス有無はあれど、ひとつひとつの内容は、先回のワゴンRスマイルと同じです。
ただ、ヘッドアップディスプレイ(HUD)や全方位モニターがつくのは、ハイブリッドXの一部に設けられた「全方位モニター付ディスプレイ装着車」、または対応する販社ナビ装着前提の「全方位モニター用カメラパッケージ装着車」に限られることに要注意…ということは、この全方位モニターとてハイブリッドXだけの工場オプションのようなものなのですが、この限定2車に限り、HUDがセット装着されます。上記「標識認識機能」はこのHUDに表示…すなわちこの「標識認識機能」もこの限定2車の専用品となるので、カタログ装備表をじっくり見て認識違いをされませぬ様、注意されたし。
他の3機種にもバックカメラのみですが装備リストにあり、これまた販社ナビに対応する「バックアイカメラ付ディスプレイオーディオ装着車」という工場オプション名で装備リストに用意されています。今回のアルトAも「バックアイカメラ付ディスプレイオーディオ」がオプション装着されていました。
もっとも、リヤカメラで充分というひとは、後付け品がいくらでも売られているカー用品店で安く選ぶ手もあります。
それにしても、この「●●●装着車」というオプション名称はやめたほうがいいのでは…カタログで装備名のところにあるのはおかしいぞ。
さて、スズキセーフティサポートを働かせるため、車両前側ではフロントガラス上方のステレオカメラ、後ろまわりではリヤバンパー内に収められた超音波センサーが用いられます。
今回のアルトで試すことができた機能はそう多くはありません。まず、過去の「リアル試乗」のクルマたちと異なり、そもそもアルトにはアダプティブクルーズコントロール(ACC)が全車ないこと、ブレーキ関連のデバイスは試すわけにはいかないこと、ヘッドアップディスプレイのあるハイブリッドXではないこと…このことから、今回解説できるのは4項目。ただし、ハイビームアシストと全方位モニターは後まわしにするのでここではたったの2項目となります。
では見ていきます。
●アルトAのスズキセーフティサポートを実践
1.車線逸脱警報機能
これは高速道路で試用。
60km/h以上での走行中、意図してタイヤを白線からはみ出させたら、即座にブザー警報を発し、ランプ点灯しました。ランプはメーター盤の隅のほうで「ポッ!」と灯るだけなので、点灯に気づかないひともいるかも知れません。
実は併せてわざとハンドルをぶらしたり、長い距離で左右白線に寄せるなどして不注意によるクルマのふらつきを再現させ、ふらつき警報を発動させようとしたのですが、そのような意図的な上っ面操作で警告するほど単純ではないらしく、クルマは無言を貫いていました。
他のメーカーのふらつき警報も同じなのですが、素人がおよびもしない、奥深いところにまで踏み込んでセンシング、警報有無を決めているようです。まるで、人間の裏の裏を読み取り、真犯人であるかないかをギリギリの段階で見極める、「太陽にほえろ!」の山さん(露口茂)みたい。はたしてスズキセーフティサポートの山さんは、ドライバーの注意力低下によるクルマの挙動のどの部分に目を光らせているのか? システム開発陣に尋ねたいところです。
2.先行車発進お知らせ機能
毎度いっているように、筆者はこれだけでもほしいと思っている機能。
これはタイミングの都合上、夜の実践になってしまいましたが、暗がりの中で先行車の発進を無視し、停車を続けていたらきちんと報知してくれました。
アルトにはいまどきのクルマに多い、高精細カラー液晶は未搭載なので、前項の車線逸脱警報も含め、どう警告するかと思っていたのですが、ブザー警告するとともに、メーター内でオレンジ色の警告ランプを点滅させるだけ…実にシンプルです。
車線逸脱(兼ふらつき)の警報ランプは、シンボルマークがラインをまたいだクルマの絵になっているからまだわかるのですが、先行車発進のランプは前なのか後ろなのかわからないクルマのマークが点滅するだけ。しかもマルチインフォメーションディスプレイの端で小さく灯るだけで、何の警告なのかが即座にわかりにくいのが難点といえば難点です。先行車発進お知らせだけは、後述する「システム一時停止」のように、「先行車発進」でも「早く行け」でも「こらっ!」でも何でもいいのですが、あらかじめ刻んだ文字を表示させるほうがわかりがいいように思います。
というわけで、スズキセーフティサポートの解説はここまでなのですが、今回は他の自動車メディアではお目にかからないであろう状態を経験できたのでお見せしましょう。
●悪天候下でのシステム停止時はこうなる
このアルトを拝借しての帰り道、突如の大雨に見舞われました。都内一般道でのことで、ワイパーを連続作動させても追っつかないくらいのどしゃ降りでしたが、このときいきなりブザーが吹鳴、スズキセーフティサポート関連のランプが一斉点灯するとともに、マルチ液晶には「システム一時停止」の表示が…クルマを壊したか、欠陥車でえらいことになったかと一瞬身構えたのですが、「システム…」の下に「視界」の文字も表示されていたので「ははぁ、大雨でカメラ視界が悪くなり、システムが作動停止したんだな。」とすぐに理解できました。しかし、一般的には「何が起きたんだ?」と、まずは不安になるのが普通だと思います。このようなときには写真のようなメーター表示になるので、アルト購入予備軍の方は参考にしてください。
あとで説明書を見たら、スズキセーフティサポートが「システム一時停止」するのは、次のようなときでした。
【システム一時停止】
・何らかの理由でスズキセーフティサポート関連のシステムが一時停止したとき。
・鉛バッテリー電圧が一時的に異常になったとき。
・ステレオカメラの自動調整が一時的に不十分になったとき。
【システム一時停止・温度】
・カメラ本体が低温または高温になったことでカメラ機能が一時停止したとき。
【システム一時停止・視界】 → 今回事例
・次の理由によるものと思われるカメラの視界不良で、カメラ機能が一時停止しているとき。
1.悪天候(大雨・吹雪・霧など)。
2.カメラ前部のフロントガラス外側の汚れ、油膜、雨滴などが付着。
3.前方からの強い光(逆光・対向車のライト光など)を受けている。
【システム一時停止・視界、くもり】
・カメラ前部のフロントガラスがくもっている、または凍り付いているとき。
システム一時停止のとき、またはシステム故障時には下記ランプが点灯または点滅または消灯し(写真参照)、以下の機能が停止します。
【システム一時停止時または故障時のメーター表示】
1.ハイビームアシスト警告灯:点灯(故障時・点灯)
2.デュアルカメラブレーキサポート作動表示灯:点灯(故障時・点灯)
3.後退時ブレーキサポート表示灯:点灯(故障時・点灯)
4.車線逸脱警報機能作動表示灯:点灯(故障時・点灯)
5.マスターウォーニング:点滅(故障時・消灯)
6.システム一時停止表示:点灯(故障時・消灯)
【このときに停止する機能】
・デュアルカメラブレーキサポート(DCBS)
・誤発進抑制機能
・車線逸脱警報機能
・ふらつき警報機能
・先行車発進お知らせ機能
・ハイビームアシスト
・標識認識機能
・後退時ブレーキサポート
・後方誤発進抑制機能
・リヤパーキングセンサー
つまり、HUDと全方位モニターを除く、スズキセーフティサポートのおおかたが機能停止することになります。
これまでの、このようなシステムのないクルマの頃なら、これら障害の多くは自分で適当に押しのけて運転していた程度のものですが、私たちがものともせずにしていたことでもシステムにとっては重大な障害または懸念事項であり、万一のことを考えて常に安全側に振り、大騒ぎしながら機能を停止するわけです。
そう頻繁に起こるとは思いませんが、それだけにいざ出くわすとあわてることに…きっちり取扱説明書を読んでおくようにしてください。
というわけで、短いですが、今回はここまで。
次回、「夜間走行ライト編」でお目にかかります。
(文・写真:山口尚志)
【試乗車主要諸元】
■スズキアルト A(3BA-HA37S型・2022(令和4)年型・2WD・CVT・シルキーシルバーメタリック)
●全長×全幅×全高:3395×1475×1525mm ●ホイールベース:2460mm ●トレッド 前/後:1295/1300mm ●最低地上高:150mm ●車両重量:680kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.4m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:R06A(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:658cc ●圧縮比:11.5 ●最高出力:46ps/6500rpm ●最大トルク:5.6kgm/4000rpm ●燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):25.2/23.0/26.0/25.8km/L ●JC08燃料消費率:29.4km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:94万3800円(消費税込み・除くディーラーオプション)