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■軽商用バンホンダ「N-VAN」とスズキ「スペーシアベース」、試乗で分かった違いとは?
軽商用バンといえば、スズキ・エブリイやダイハツ・アトレーのようなMR駆動のキャブオーバータイプが一般的でした。しかし、最近になって軽乗用車のスーパーハイトワゴンをベースとしたホンダ・N-VAN、スズキ・スペーシアベースのような軽商用FFモデルが登場しています。
そこで今回は、多彩なシートアレンジが可能で、移動オフィスなどとしても利用できる軽商用バン、N-VANとスペーシアベースを試乗し、その実力を比べてみましょう。
●助手席までフラットに畳めて、モノを積む積載性能にこだわったホンダ「N-VAN」
軽乗用車をベースとした商用バンのパイオニアと言えば、2018年7月に登場したホンダ・N-VANです。
軽バンとしての機能性を追求した、ビジネスグレードからパーソナルユースを視野に入れた質感の高いインテリアや便利な装備、充実したカラーラインアップで個性を際立たせた「+スタイル」を設定し、幅広いニーズに応えています。
N-VANはスーパーハイトワゴンの人気モデルであるN-BOXのプラットフォームを最大限に活用しながら、軽バンに求められる広い積載スペースと積載作業の効率性を追求しているのが特徴です。
ホンダ独自の燃料タンクをフロントシート下に収めるセンタータンクレイアウトの採用によって、荷室の低床化を実現。高さのある荷物の積載にも対応できる空間を確保しています。
また、リアシートだけでなく、助手席にもダイブダウン機構を採用することで、助手席からリアシート、テールゲートまでフラットな床面の空間が最大の魅力でしょう。
そしてN-VAN最大の特徴は助手席側に軽バン初のセンターピラーレス仕様を採用。テールゲートに加えて、助手席側にも大きな開口部を設定することで、荷物の積載作業を効率良くスムーズに行うことを可能としています。
搭載するエンジンは、スタンダードモデルは自然吸気エンジンのみですが、パーソナルユースも視野に入れた+スタイルは、パワフルなターボエンジンを用意しています。これにより、長時間移動をする場合でも快適性を追求したスムーズな加速を実現しています。
運転支援システムは、ホンダの軽バンとしては初となる先進の安全運転システム「ホンダセンシング」を全グレードに標準装備。衝突軽減ブレーキ(CMBS)をはじめとした8つの機能に加えて、後方誤発進抑制機能、ならびにオートハイビームも採用するなど充実しています。
2021年2月にN-VANは一部改良実施。+スタイルクールが絶版となり、標準モデルのGとL、そして+スタイルファンの3グレードとなりました。
また、これまでGとLの自然吸気エンジン搭載車に設定されていた6速MTを、+スタイルファンにも拡大。そして、先進の安全運転支援システム「ホンダセンシング」の全グレード標準装備に加えて、G、Lグレードにもオートライト/オートハイビーム機能を追加し、安全性を向上させています。
N-VAN+スタイルを試乗して感じるのは、標準装着されている145/80R12というタイヤの性能です。商用モデル向けのタイヤということもあり、タイヤ剛性も低いうえ、カーブを曲がる際の安定感は物足らないです。
しかも、+スタイルは全高1,945mmと高いので、ロール量はかなり大きめとなります。以前、14インチのタイヤを装着したN-VANに乗ったことがありますが、安定感は雲泥の差で、N-BOXと変わらない走行安定性を発揮しました。N-VANをパーソナルユースとして使うのであれば、タイヤのインチアップをお勧めします。
それでも、N-VANは助手席までフラットになり、助手席側のスライドドアはセンターピラーレス仕様とすることで、広大な荷室空間、そして荷物の出し入れができる場所を多くしているところは高く評価できます。車中泊もラクラクこなせそうです。
●人が様々な作業ができるように工夫された広い車内が特徴のスズキ「スペーシアベース」
一方、軽乗用車のスペーシアをベースとした軽バン、スペーシアベースは、2022年8月に登場しました。
「遊びに仕事に空間自由自在。新しい使い方を実現する軽商用バン」をコンセプトに、商用車の積載性や広い荷室空間、使い勝手のよさと、乗用車のデザインや快適性、運転のしやすさを融合したモデルに仕立てています。
スペーシアベースは、隙間のないフルフラットなフロアと低く抑えた荷室開口地上高による、使いやすく荷物が出し入れしやすい荷室空間と、ベース車であるスペーシアと同等の乗り降りしやすいシート高や乗り心地のよいフロントシートによる、快適な前席空間を両立しているのが特徴です。
また、全車標準装備のマルチボードを使い、車中泊やワーケーションなど、目的に合わせて室内空間を自由にアレンジできるのは魅力の一つです。
インテリアでは、乗用モデルのスペーシアではサーキュレーターが設置されていた場所にオーバーヘッドシェルフをはじめ、リアクォーターポケット、フロアコンソールトレーなど多彩な収納スペースを設置。
そのほか、ユーティリティーナットやLEDルームランプ、運転席&助手席シートヒーター、助手席シートバックテーブル、防汚タイプラゲッジフロア、USB電源ソケット(タイプA/タイプC) を採用し、利便性の高い室内空間を実現しています。
安全装備では、夜間の歩行者も検知するデュアルカメラブレーキサポートなどを搭載する「スズキセーフティサポート」を全車に標準装備。上級グレードのXFには、全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロール(ACC)を採用しています。
スペーシアベースの外観デザインは、マイナーチェンジ前のスペーシアカスタムとほぼ同じですが、リアのクオーターガラスが埋められているところが特徴と言えます。
スペーシアベースの乗り味は、乗用モデルのスペーシアとほとんど変わりません。車高は高いですが、無駄な揺れは少なく、乗員に安心感を提供してくれます。
それは、スペーシアベースが14インチのラジアルタイヤを装着していることが大きいです。この点を見てもN-VANと比べるとスペーシアベースのほうがパーソナルユースを意識した仕様になっていると言えるでしょう。
『もし、もっとビジネスユースな軽バンが欲しいのであれば、スズキにはエブリイというモデルがあるので、そちらを選んでください』という、スズキの車種ラインアップの充実さが、このような割り切りができたと考えられます。
N-VANは、ダイブダウンする助手席&リアシートによるフラットな床面の広大な荷室が特徴でしたが、スペーシアベースは、リアシートを畳んだり、付属のボードを使ったりすることで、まるで移動オフィスのように使うことができるように工夫されています。
軽バンとしては、人が利用するための室内空間を確保しているのが、スペーシアベース。荷物が利用するための空間を確保しているのがN-VANと、それぞれ目的が明確に分かれていると言えます。
乗用モデルであるスーパーハイトワゴンベースの軽バンであるN-VANとスペーシアベース。コンセプトは同じですが、室内の使用目的は大きく分かれており、ユーザーも自分の使い方に合わせて選べるようになったのはメリットでしょう。
(文・写真:萩原 文博)