次世代セダンは「リフトアップ」。新型「クラウン クロスオーバー」が起こしたデザインの革新【特別インタビュー】

■若手とベテランがタッグを組んだ新解釈デザイン

クラウン・メイン
リフトアップをキーワードにSUVの要素を取り込んだ新時代のセダン像

「革新と挑戦」のDNAを受け継ぎ、4つのバリエーションを持って登場した新型「クラウン」。その第1弾である「クロスオーバー」の斬新なエクステリアの秘密はどこにあるのか? デザイン全体を統括した宮崎氏に話を聞きました。

●セダンという存在を一から考え直す

── まず始めに、新型クラウンのデザイン上のコンセプトについて教えてください。

「新型はこのクロスオーバーから開発が始まったのですが、実はそれ以前に、近年不振が続く『セダン』をもう一度考え直してみようというプロジェクトがありました。今、若年層を中心にSUVが人気ですが、ではこれから求められるセダン像はどうあるべきか。そこで出てきたのがLUS(リフトアップセダン)という発想で、視界がよく、乗り降りもしやすいクルマですね」

クラウン・スケッチ
造形のテーマがよくわかるスケッチ。大径タイヤの存在感も見て取れる

── 最初から特別なキーワードを設定したわけではなかったのですか?

「特別な言葉ではなく、FRから4WDへの移行を想起させる大径タイヤを中心に、美しくスタイリッシュで、乗れば中は広いという意図ですね。そうした議論を進めているタイミングで、豊田章男社長からクラウンをフルモデルチェンジするという指示が出され、それならばこの方向で行こうと」

── パッケージとしても、SUVではなく、あくまでトランクを持つセダンとしましたね。

「はい。これまでのユーザーにも満足して欲しいし、やはりクーペでもないだろうと。1540mmという全高はSUVとセダンのちょうど中間で、もちろん立体駐車場も意識したものです。これはフロントで630mm、リアで610mmというヒップポイントなど、モックアップで徹底的に使いやすさを考えた結果でもあります。これ以上高いと『のぼる』感覚になってしまうんですね」

クラウン・フロント
キーンルックとアンダープライオリティの見本のような表情はグローバルモデルの証

── フロントは「キーンルック」に「アンダープライオリティ」と、トヨタを代表するような構成ですが、クラウンとしての個性をどう考えましたか?

「新型はグローバルモデルですから、やはりトヨタ車としての認知が必要で、キーンルックはそのための表現手段です。また、アッパーグリルのハンマーヘッド形状は4車種で考え方を統一させていて、順次、表現を進化させることで個性が生まれるのではないかと考えています」

── 組木のような文様が施されたロアグリルは、少々平面的なのが気になります。

「ここは機能的に開口の必要がなく、逆に穴があると空力性能が悪くなってしまう。そこで、1枚のパネルにしていて、この文様は強度を持たせる役割があります。また一方で、今回は新しい王冠マークを始め、2次元の平面的な表現、見せ方を意識していて、ロアグリルはその一環でもあるんですね」

●「ハイコントラスト」という新しい表現

クラウン・サイド
ショルダー面の変化がよくわかるサイドビュー。フロンへ向けて解放された面が前進感を生んでいる

── 新型は「キャラクターラインに頼らない面」が特徴とされていますが、ショルダー面はリアフェンダーへ向けて強いラインに変化しますね。

「はい。丸い面から強い凸形に変化することで、ボディが急に浮き出してくるイメージを狙ったものです。実は、私たちの中では『ハイコントラスト』と称し、少し前から社内で取り組んでいる表現なんです。現行の『ハリアー』から始めたのですが、イメージとしては『オロイド』的な形状の変化です」

── サイドシル上部のプロテクターはSUVらしさの表現を狙ったものですか?

「それもありますが、今回、バイトーン仕様についてはボディを『シェル』と『コア』の2層構造と捉えていて、そのコアの一部がサイドに露出しているイメージです。リアパネルではコアを大きく露出させていますが、その延長部分が見えているという意図です。ちなみに、リアのコア部はオーバーハングを短く見せる効果もあるんですよ」

── ということは、今回バイトーンはエクステリア側からの提案だった?

「エクステリアというか、プロジェクトチーフとして提案させてもらいました。バイトーンについてはもうひとつ、『RS』では2色のカラーリングをインテリアにも連続させているので、是非実車で見て欲しいです」

クラウン・リア
リアパネルは「コア」部が露出していて、ボディの2層構造がよくわかる

── 最後に。今回、クラウンの大変革を行ったことで、今後のトヨタデザインに何か影響があると感じましたか?

「はい。従来はデザイナー個人の能力がクローズアップされていましたが、今では海外のスタジオとも常時オンラインでつながっていますし、よりチームとしての仕事へ変化していると思えます。新型はクラウンにしがらみを感じない20~30代の若手に自由に描いてもらったのですが、ベテランがフォローしつつ、やはりチームで進めることができた。今回は、その点でも豊田社長の『掛け声』が大きく影響したと思います」

── 世代を越えた開発体制の定着ですね。本日はありがとうございました。

クラウン・デザイナー【語る人】
トヨタ自動車株式会社
Mid-size Vehicle Company MSデザイン部
プロジェクトチーフデザイナー
宮崎 満則氏

(インタビュー:すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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