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■日本が世界に誇れる「果物」をカワイイ機械で効率的に
日本の果物はそりゃーもう世界レベルで美味しく、高付加価値のある産業だと思います。フルーツと言うよりスイーツに近いでしょう。海外のスーパーなどで果物を買って食べると、安いんだけどちっとも甘くなくてがっかりした経験ある人もいるんじゃないでしょうか。
しかし、日本の農業界、果樹園も御多分に漏れず、人手不足や高齢化、後継者不足に悩みどころがあるようです。
そんな果樹園の苦労を少しでも和らげようと、ヤマハ発動機が「乗り物」で解決案を提案しています。それが、この「果樹園作業支援自動走行車『Auto Guided Orchard Support Vehicles』」です。
●それいけ「カジュエンマン」は女性がデザイン
そのかたっ苦しい名前とは裏腹に、見た目はなんともカワイイ「果樹園作業支援自動走行車『Auto Guided Orchard Support Vehicles』」。アンパンマンのキャラクターに登場しても良さそうです。「カジュエンマン」とか…。
というわけで、発表された名称「果樹園作業支援自動走行車『Auto Guided Orchard Support Vehicles』」があまりにも長いので、本稿ではこの「果樹園作業支援自動走行車『Auto Guided Orchard Support Vehicles』」のことを以下「カジュエンマン」と表記させていただきます、勝手ながら。
さて、カジュエンマンのデザインはやはりというかなるほどというか、女性デザイナーであるクリエイティブ本部プロダクトデザイン部の武石真理さんが手掛けていました。
武石さんによると、「働く機械というより、人と共に生きる生き物っぽくデザインしました。カラーに関しても、これまでの農業機械などは赤や青などビビッドなカラーで目立たせるのが目的でしたけど、今回は目立つのではなく共生していくイメージで、自然にも溶け込むことを考えて、地面を走るものはグリーン、空を飛ぶものはブルーとしました」。
確かに、人懐っこい表情が汲み取れる顔つきに、アースカラーと言われるような淡いカラーリングの組み合わせには、ゴツくカドカドしい農機具とは違った親しみやすさがあります。これが観光農園にあれば、めちゃ人気者になると思います。
ちなみに、車体のベースとなっているのは、全国シェアナンバーワンのYAMAHA電動ゴルフカートが車両としての基本ベース。ゴルフカートは、電動車両としてヤマハランドカーとして、公共交通困難地区などで公道を走る実証実験なども各地で行っています。なので、信頼性などは間違いなしです。
そのようなコンセプトでデザインされたカジュエンマンは、小型特殊車両のナンバー取得を前提としており、自宅から耕作地までは、多くのトラクターのように自分で運転し、乗っていける前提です。
●果樹園に着くとカジュエンマンの本領発揮!
さて、果樹園に着くと、運転者は作業者に変わります。カジュエンマンは、果樹園内を決められたコースを自動走行することが可能です。そのためにフロントのコーナー部には、周囲の状況を読み取るためのLiDARが左右それぞれに搭載されています。自動運転にはいまのところLiDARは欠かせないセンサーだと言われています。
左側にある運転席はくるりと90度回転し、果樹に対して向き合います。そこに腰掛けたまま作業が可能なわけです。高さに関してはリフトが上下し、隣の樹へ作業を移るときもそのままカジュエンマンが進んでくれます。
例えば、脚立などを用いて作業を行うと、1本の樹への作業を終えると、脚立を降りて隣の樹へ歩いていき、脚立を立てて上がって…という難しいわけではないけど何度もやるにはもどかしいような移動が、カジュエンマンを使うことで安全にスムーズにラクに隣の樹へ移動できるわけです。
こうしたパターンで行う剪定、摘果、収穫などの人が乗り込んで手作業で行うものだけでなく、農薬散布など人が近づかずとも自動走行により運行可能ですし、逆に人が作業している近くに追従してくれる運行も可能になります。
●ヤマハ発動機の技術が合わさってカジュエンマンはできた
文章で書くと、ワリと今どきの技術なら実現可能なんじゃない?とも感じますが、そう簡単なわけではありません。
ヤマハ発動機の長年に渡って培ってきた、農業用無人ヘリコプターの自動操縦に関するノウハウ。これまた長年手掛け、日本中のゴルファーに使われ続けてきたゴルフカートの信頼性。また、それをベースにしたランドカーによる各種モビリティ実証実験、自動運行による経験が生きて可能としています。
カジュエンマンは、一般ユーザーが普段あまり目にしていないヤマハ発動機の活動あってこそできたものと言えます。
さらに、このカジュエンマンは、ただ「農家にこういうのがあったらなんとなく便利そうだ」として車両だけ開発されたわけではありません。実証実験として、実際の果樹園で試用され、そのために果樹の形も、隣の樹同士を繋ぎ、Y字型に育てることで、作業がしやすい高さと形にし、なおかつ実を収穫するまでの期間を短くできる「省力樹形」としての研究も同時に行われてきました。
こういった、ここでの通称カジュエンマンなど「機械」と「省力樹形」を導入することで、様々な作業時間は4〜5割削減できる結果としています。
日本の農業を守るため、ヤマハ発動機ではこの他にもドローンや無人ヘリで農業の省力化、高品質化、そして農業ノウハウの流出を防ぐ開発や活動を行っています。
こうしたヤマハの活動と、大きく円安が進んでいる現在、日本の付加価値の高い農産物で、輸出の高収益化やインバウンド効果が生まれ、日本の農業がスマートで大きな夢のある産業となっていくことも十分可能ではないかと感じました。
(文・写真:クリッカー編集長 小林 和久)
【関連リンク】
ヤマハ発動機無人システム WEB サイト https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/
SDGsムービー Field-Born(フィールドボーン)Vol. 5 「父と娘と、農業と」https://global.yamaha-motor.com/jp/stories/field-born/005/