■「やくもブロンズ」カラーを纏った車体
JR西日本は10月20日(木)に、岡山〜出雲市間を運行している特急「やくも」用の新型車両・273系のデザインを発表しました。
デザインコンセプトは「沿線の風景に自然に映える車体、山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」。車体カラーは「山陰本線・伯備線沿線の自然・景観・文化・歴史を尊び、お客様と交感する色」として、鬱金色・黄金色・銅色・赤銅色をイメージした「やくもブロンズ」を採用。
シンボルマークはモダンに八雲立つ伝統を継承しています。
インテリアデザインのカラーは、グリーン車と普通車で分けています。
グリーン車は明るく広がりを感じられる黄色をベースとして、シート生地には富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をイメージした「積石亀甲」模様をあしらっています。
普通車は、沿線の山々をイメージした緑色がベース。シート生地には古来から神事に用いられ、人を守る魔除けの意味がある「麻の葉」模様をあしらい、沿線の自然・風土を演出しました。
273系では、グループ向け座席を新たに設定。大きな窓から車窓が楽しめ、大型テーブルを挟んで向かい合わせに配置したボックスシートは、フラットにすることも可能。
緩やかな仕切りで適度なプライベート空間を提供し、くつろぎを演出しています。
全座席にコンセントを設置し、車内Wi-Fiや大型荷物スペースも設置。そのほか、車椅子スペースを拡大し、多目的室を設置するなど、バリアフリー設備を充実させています。
なお、273系のデザイン監修は株式会社イチバンセンのデザイナー・川西泰之氏と、近畿車輛株式会社デザイン部が担当。川西氏は、JR西日本の観光車両「WEST EXPRESS 銀河」のデザイン監修も行っています。
●新開発、車上型の制御付自然振り子装置を搭載
「やくも」が走る伯備線は、急カーブが連続する路線です。そのため、現行の381系は自然振り子装置を搭載していて、カーブ区間では車体を最大5度傾けてコーナリングスピードをアップしています。
381系の自然振り子装置はパッシブ式で、カーブ区間に入って遠心力が発生してから車体が傾く振り子遅れによって、乗客が感じる遠心力に変動があり、乗り心地が悪化するという問題がありました。
そのため、伯備線以外の路線ではカーブの手前から予め車体を傾けて、乗客が感じる遠心力の変化を小さくする制御付自然振り子装置を採用しています。この方式では、遠心力が発生しない状態でも車体を強制的に傾けるため、台車に振り子シリンダーを装備しています。
カーブの手前で正確に車体を傾けるため、車両にはカーブまでの距離やカーブの大きさなどの線路マップをインストールしたデータベースを搭載しています。
列車の走行位置は速度センサーから検出しますが、空転(スリップ)や滑走(ブレーキロック)による誤差を補正するため、線路に設置しているATS(自動列車停止装置)の地上子を検出して、絶対位置補正をしながら走っています。
制御付自然振り子装置は、精度の高い振り子制御ができますが、ATS地上子とカーブの位置関係をデータベースに入力する必要があり、管理に手間がかかるのが難点でした。
そこで「やくも」用の273系は、JR西日本と鉄道総合技術研究所、川崎車両が共同で新開発した、車上型の制御付自然振り子装置を搭載しました。
その仕組みについてプレスリリースでは、「車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合し、適切なタイミングで車体を傾斜させる」とのこと。2020年に鉄道総合技術研究所が発表した、新しい振り子システムがベースであると思われます。
この方式は、車両のデータベースに記憶させたマップ曲線データと、ジャイロセンサーおよび速度センサーの情報で生成した走行曲線データを照らし合わせながら走行し、両方のデータが一致する箇所を見つけることで走行位置を特定。カーブに対してスムーズに車体を傾ける仕組みとなっています。
メリットは、ATS地上子などの地上設備を管理する手間を省くことができるほか、車両のデータ管理も従来よりも簡便になるそうです。
273系は、2024年春以降に営業運転を開始する予定。4両編成11本を導入して、現行の381系を置き換えます。
(ぬまっち)