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■カーボンニュートラルにはCO2を利用する視点も重要
菅首相だった時代に、日本政府として「2050年カーボンニュートラル」を目標として掲げました。日本の自動車メーカーは、それに追随するように同様の目標を掲げています。
国産メーカーのリーダー的存在であるトヨタも、当然のように2050年カーボンニュートラルを目標としています。
カーボンニュートラルというと、CO2を排出しないというイメージが強く、自動車業界においては電気自動車や燃料電池車といったゼロエミッション車ありきの目標という風にも捉えられがちですが、トヨタのアプローチはそんな単純なものではありません。
カーボンニュートラルというのは、二酸化炭素の実質排出量をゼロにすると言い換えることもできます。つまりCO2を吸収するよう植物を植えることもアプローチのひとつといえますし、CO2を回収して貯蔵すればニュートラルになるともいえます。
さらに回収したCO2を再利用する手法が確立できれば、これまで邪魔者扱いされてきたCO2は資源となり得ます。
CO2を資源として利用するヒントとなるのは、植物がカーボンニュートラルに貢献するという仕組みです。つまり「光合成」です。
●人工光合成で生み出すギ酸は燃料電池で利用できる
トヨタグループの共同出資により設立された企業研究所、豊田中央研究所は人工光合成の研究においても豊富な実績を誇ります。
すでに人工光合成システムに『MORLIE』という名前も与え、実用化に向けてグイグイ進化させているのです。
そのアプローチは、太陽光によってCO2から有用な物質を生成しようというもの。
植物の光合成は、CO2と水を原料に酸素とブドウ糖やデンプンを生成させます。それに対し『MORLIE』の基本原理は、水の酸化反応とCO2の還元反応を行う電極を組み合わせ、常温常圧で有機物(ギ酸)を合成するというもの。半導体と分子触媒を用いた方式で、大型化も可能なのは魅力といえます。
ギ酸というのは、漢字で蟻酸と書くようにアリが有する液体の有機物として知られています。化学式は「HCOOH」。沸点は101℃で、常温では液体として存在します。
含有量はそれほど多くはありませんが水素を含んでいますので、水素社会を目指す際に重要な水素を溜めたり、保存しておくためのキャリアとして期待できるポテンシャルを持っています。
ギ酸を使った燃料電池についての研究も進んでおり、2021年11月にはジェイテクトがギ酸利用の燃料電池(50W級)の実験機を開発したという発表もありました。多くの課題はありますが、ギ酸を直接使う燃料電池の車載が可能となれば、この人工光合成はモビリティを走らせる燃料を生み出すビジネスとして発展する可能性があるわけです。
●豊田中央研究所のMORLIEは実用レベルの効率を誇る
実用化における重要なファクターが変換効率でしょう。自然の光合成に劣るような効率では話になりませんし、むしろ植栽を進めたほうがCO2削減効果は大きいとなってしまうからです。
豊田中央研究所が、太陽光・水・CO2のみで反応するスタンドアロンの人工光合成の仕組みを生み出した2011年には、太陽光変換効率は0.04%でした。植物の効率3%前後と言われていますから、この段階では効率的にはお話にならないレベルだったといえます。
しかし、驚くほどのスピードで人工光合成技術は進化します。2015年には4.6%の高効率となり、植物のそれを超えました。
2021年には36cmサイズのセルにて、7.2%へと効率をアップ。さらに2022年には100cmサイズへと大型化することで10.5%という高い効率を達成しています。
太陽光発電の変換効率が15~20%程度であることを考えると人工光合成よりも、発電に利用したほうが筋がいいようにも思えますが、電気というのは溜めておくことが難しいという特性があります。
発電した電気をバッテリーに溜めたり、いったん水素に変換して保存しておくということのロスやコストを考えると、ダイレクトにギ酸にできる人工光合成『MORLIE』はトータルでは十分に実用的といえるでしょう。
もっとも、豊田中央研究所に聞いたところによると、今回は技術の実証を行ったものであり、2030年代の実用化技術の確立を目標に取り組んでいる、ということです。変換効率の進化と同じく、スピード感をもって実用化への技術開発が進むことを期待したいものです。