目次
■最新の排気ガス規制に適合させつつ戦闘力をアップ
イタリアのバイクブランド「ドゥカティ」は、2022年10月14日、2023年ニューモデルを公開する「ドゥカティ・ワールド・プレミア」において、新型の「パニガーレV4R」を発表しました。
市販車ベースのマシンで争う世界最高峰レース「WSBK(スーパーバイク世界選手権)」に参戦するために開発されたパニガーレV4Rは、ドゥカティのスーパースポーツ「パニガーレV4シリーズ」のなかでも、最もレーシングマシンに近いといえる存在です。
新型では、エンジンを最新の欧州排気ガス規制「ユーロ5」に対応させながらも、各部に最新の技術を活かしたアップデートを敢行。
また、空力パーツや電子制御などにも2輪最高峰レースの「MotoGP」やWSBKで培った最新テクノロジーを採用することで、より戦闘力をアップしています。
しかもこのマシン、サーキット専用のマフラーとオイルを使えば、最高出力240.5psを発揮するといいますから、驚き。まさに最もMotoGPマシンに近い市販車と呼べるスペックです。
●エンジンは最新テクノロジーが満載
パニガーレV4Rは、スーパースポーツのパニガーレV4シリーズをベースに、WSBK参戦用マシンとして開発された、ハイポテンシャルなスーパースポーツです。
ドゥカティがデスモセディチ・ストラダーレRエンジンと呼ぶパワートレインは、元々の排気量1103ccをWSBKのレギュレーションに合わせて998ccへ変更。一方、最高出力はベース車が215.5psなのに対し、先代モデルでは221psにアップさせ、より戦闘力をアップさせています。
また、ドゥカティのMotoGPマシンなどからフィードバックされた空力パーツや電子制御などを採用。まさに、公道を走れるレーシングマシンとも呼べる仕様です。
新型では、まず、エンジンを最新の欧州排気ガス規制「ユーロ5」へ適合させています。そのため、最高出力は218psと若干ダウンしていますが、前述の通り、サーキット用のチタン製レーシングエキゾーストと、シェルと共同開発したエンジンオイルを使うことで、最高出力を240.5psにアップさせることが可能。
レブリミットは1万6500rpm(6速ギア)に設定され、同排気量のスーパースポーツのなかでも、高回転域を多用するサーキット走行において卓越した走りを実現します。
加えて、高精度な「ガンドリル」加工が施されたチタニウム製コネクティングロッドも装備。ロッドに沿って縦方向に穴(直径1.6mm)が開けられた仕様とすることで、ヘッドからクランクケース底部に至るオイル経路が拡張され、サーキットの限界走行時における潤滑性と信頼性が向上しています。
さらに、ピストンには、MotoGPやフォーミュラ1で使用されているDLC(ダイヤモンドライク・カーボン)コーティングも量産エンジンとして初採用し、ピストンとライナー間の摩擦を削減。また、5g(重量の2%に相当)の軽量化も実現することで、慣性の減少や信頼性の向上にも貢献します。
ほかにもWSBK参戦マシンと同じギア比の採用や、新開発の乾式クラッチを装備するなど、細部に渡るアップデートが満載です。
●電子制御やサスペンションも改良
電子制御では、2022年および2023年モデルのパニガーレV4にすでに導入されている最新バージョンのエレクトロニクスを採用。
新しい「トラックEVO」メーターパネル・ディスプレイを搭載し、各ギア専用のキャリブレーションを備えたエンジン・マッピング、ドゥカティ・トラクション・コントロールおよびライド・バイ・ワイヤ・システムの改良、そしてエンジン・ブレーキ・コントロールEVO2ストラテジーの装備など、電装系を細かくアップデートしています。
また、「フル」「ハイ」「ミディアム」「ロー」の4つのモードから選べるパワーモードは、パニガーレV4R用エンジン向けに専用のキャリブレーションを実施。サーキットにおけるパフォーマンスがさらに向上しています。
足まわりでは、フロントにオーリンズ製NPX25/30加圧式フォークを装備。先代モデルと比べ、ストローク量を5mm増加させています。
リヤには、中心間距離が312mmから316mmに増加したオーリンズ製TTX36ショックアブソーバーをセット。スイングアームの標準ピボット位置を1mm引き上げるなどで、リヤの高さを20mm増加させ、重心をより高く設定し、コーナー進入時や切り返し時の俊敏性も向上させています。
●空力ウイングはコンパクトで薄い形状へ変更
そして、空力パーツのアップデート。フロントカウルに装着された新形状の2エレメント・ウィング(メイン+フラップ)は、従来と同様のダウンフォース性能を発揮しながらも、よりコンパクトで薄くすることで、空気抵抗の低減を実現させています。
エンジン冷却性を改善するフェアリング下部のエクストラクターは、WSBKのレギュレーションに準拠したものに変更されています。
ちなみに、新型パニガーレV4Rには、チタン製レーシングエキゾーストとカーボンファイバー製オープンクラッチカバーを標準装備する「レーシング・コンフィギュレーション」と、ミラーとライセンスプレート脱着キットを標準装備する「スタンダード・コンフィギュレーション」といった2つのバージョンが設定されています。
価格や国内の導入時期などはまだ未発表ですが、スーパースポーツ好きはもちろん、サーキット走行や市販車ベースのレースに参戦するライダーには、かなり注目のモデルであることは間違いなしです。実物のフォルムや走りを、早く見てみたいですね。
(文:平塚 直樹)