バスに見えて実は電車?排ガスを出さない電動車両「トロリーバス」の数少ない実存車体が川崎にあった

■川崎市の公園にひっそりと保存されている数少ない実存車体は変わった経歴の持ち主

神奈川県川崎市高津区の二子塚公園に1台のバスが保存されています。一見すると普通のバスに見えますが、実はトロリーバスなのです。

川崎市高津区の二子塚公園に保存されているトロリーバス

トロリーバスとは、道路の上に張った架線から集電した電力を使ってモーターを駆動して走行するバスのことです。車体に搭載された集電装置には主にトロリーポールが採用されていて、これがトロリーバスの語源。地元ではトロバスと呼ばれることもあったようです。

トロリーバスは日本では無軌条電車と呼ばれ、軌道法または鉄道事業法で定められた鉄道車両の一種です。

二子塚公園は閑静な住宅地の中にあります。トロリーバスには屋根が架けられています。ただ、数年前からトロリーバスは周囲を柵で囲まれています。

現在、トロリーバスは柵に囲まれています

保存されているのは、川崎市営トロリーバス100形104号です。川崎市営トロリーバスは日本で3番目、東日本では最初のトロリーバス路線で、1951〜1967年まで運行していました。

104号は川崎市営トロリーバスが廃止された後、二子地域が譲り受けてこの地に保存。すでに55年が経過しました。

川崎市営トロリーバス100形104号
更新後の車体前面には庇がついているのが分かります

100形は開業時に導入された車両ですが、104号はちょっと変わった経歴を持っていて、1950年に富士産業(→富士重工業→SUBARU)が試作して、名古屋市営トロリーバスの路線で試験走行をしています。試験終了後に富士産業に返却されて、1954年に改造して川崎にやって来ました。

川崎市営トロリーバス100形104号
後部にも庇がつき、リヤウインドウは連続窓となっています

なお、104号は101〜103号とともに1964年に富士重工業で車体更新をしています。車体はこの時期に製造されていたR13型と思われ、R13型の特徴である前後の庇や、連続窓となったリヤウインドウが確認できます。

トロリーバスの特徴となるトロリーポールは、残念ながら残っていません。車体後部に設置されていた、トロリーポールとつながった紐を巻き取るリトリーバーも取り外されているので、保存前に撤去したのかもしれません。

川崎市営トロリーバス100形104号
窓に貼ってある現役時代の写真

また、窓には現役時代のトロリーバスの写真を貼っています。

トロリーバスの最大のメリットは、排気ガスを出さないことと燃料費の節約ができることで、都市部では東京都・川崎市・横浜市・名古屋市・京都市・大阪市などに導入されました。都市部以外では、立山黒部アルペンルート上に関電トンネルトロリーバス・立山トンネルトロリーバスが導入されました。

川崎市営トロリーバス100形104号
上がリトリーバーの台座。その下のウインカーが矢印なのかユニーク

しかし、架線から集電するため走行できる場所が制限されるほか、鉄道車両扱いなので、大型二種免許だけでなく、動力車操縦免許も必要となるなど、デメリットも多くありました。そのため、1972年に廃止された横浜市を最後に、都市部のトロリーバスは姿を消しています。

関電トンネルトロリーバスも2018年で運行終了し、2019年から電気バスに切り換えられたので、現在日本で運行しているトロリーバスは立山トンネルトロリーバスだけとなっています。

●保存トロリーバスは国内に3台

運行中の立山トンネルトロリーバス以外に、国内で保存されているトロリーバスは、川崎市営トロリーバス100形104号以外に2台あります。

川崎市営トロリーバス100形104号
55年も佇んでいる川崎市営トロリーバス

1台は関電トンネルトロリーバス300形301号で、立山黒部アルペンルートにある扇沢駅近くの大町市扇沢総合案内センターで保存されていますが、ここは12月〜4月までは冬季閉鎖となります。

もう1台は大阪市営トロリーバス200型255号で、Osaka Metro森之宮検車場内で保存していますが、こちらも普段は非公開となっています。

川崎市営トロリーバス104号は状態こそ良好とは言えないものの、1年中いつでも気軽に見ることができるという点で貴重です。できれば柵を撤去して再整備してもらいたいものです。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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