ヤマハのオフロード競技用バイク最高峰「YZ450F」の2023年型は10年ぶりのリターンライダーでも乗れるのか? 

■フルチェンジの最新モデルをモトクロスコースで試乗

「YZ450F」といえば、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が全12機種ものラインアップを揃えるオフロード競技用モデルの中でも、最大排気量を誇るフラッグシップデルです。

ヤマハ・YZ450F試乗
ヤマハ・YZ450Fの2023モデル

国内のモトクロス競技はもちろん、アメリカで最も権威があるAMAスーパークロス/モトクロスなどで数々のタイトルを獲得している、いわばオフロード界のスーパースポーツ。レースはもちろん、クローズドコースでモトクロスを楽しんでいるライダーには、まさに憬れのマシンといえるでしょう。

そんなYZ450Fに、5年ぶりのフルモデルチェンジを受けた2023年モデルが登場しました。

新型は、エンジンやフレームを刷新したほか、車体を2.3kg軽量化。よりスリムでコンパクトなボディ、パワフルで扱いやすいエンジン特性などにより、トップライダーから休日にレースなどを楽しむエンジョイライダーまで、幅広いスキルのライダーに意のままの操縦感覚を提供できるマシンになったといいます。

では、実際に、どれほど軽く、どれほど乗りやすいマシンとなったのでしょうか? また、たとえば、筆者のように、モトクロス用マシンに乗るのが約10年ぶりというライダーでも、ある程度乗ることはできるのでしょうか?

ヤマハのメディア向け試乗会で、最高峰オフマシンYZ450Fに体当たりチャンレンジをしてきました。

●スリムな車体でコーナーでの前乗りも楽

YZ450Fは、モトクロスなどオフロード競技専用に作られた、通称「市販モトクロッサー」と呼ばれるマシンです。

ヤマハ・YZ450F試乗
ヤマハ・YZ450Fのリヤビュー

モトクロスとは、大きなジャンプやフープス(またはウォッシュボード)と呼ばれるコブが連続するセクションなどがある、未舗装路に作られた周回コースを豪快に走り、スピードを競う2輪レースのこと。

このマシンは、そうしたモトクロス競技用の市販マシンの中でも、最大排気量の449cc・4ストローク単気筒エンジンを搭載したハイパーモデルです。

ちなみに、YZ450Fは、前述のアメリカ「AMAモトクロス選手権」で2021年と2022年の2年連続でチャンピオンを獲得。さらに、スタジアムなどのインドアに作られた人口的セクションで競う「AMAスーパークロス」でも2022年の年間チャンピオンとなるなど、近年多くの世界的レースで活躍しているマシンです。

そんなYZ450Fに今回試乗したのは、宮城県のスポーツランドSUGOインターナショナルモトクロスコース。1周1500m〜1800mのコースにはジャンプスポットが13ヵ所もあり、全日本モトクロス選手権なども開催される本格的コースです。

ヤマハ・YZ450F試乗
坂道をノロノロ走っても太い低速トルクでしっかりと走る

筆者は、前述の通りモトクロスコースを走るのは約10年ぶり。しかも、以前乗っていたのは125ccの2ストローク単気筒エンジンを搭載する市販モトクロッサーでしたから、4ストの450ccマシンはほぼ初めて。果たして、YZ450Fをちゃんと操れるのか、乗る前からドキドキでした。

まず、マシンにまたがってみます。モトクロス競技用マシンですから、当然ながら前後サスペンションはあまり沈まず、足着きはシートからお尻を下にずらしてもつま先がツンツン。走る前から、立ちゴケをしないかの方が心配になります。

エンジン始動は、セルスターター方式ですからとっても楽です。特に、大排気量の単気筒マシンは、昔のモトクロッサーのようなキックスタート方式だと、エンジンをかけるだけでも一苦労。もし、走行中に転倒でもしてエンジンが停止してしまうと、なかなか再始動ができず、キック10連発などで体力を疲労することも多々ありましたから、セル方式はかなり安心できます。

ヤマハ・YZ450F試乗
シュラウドは左右幅を従来比で50mmナロー化

ギアを1速に入れて、クラッチミート。すると、低回転域から太いトルクが発生し、ずんっとマシンが進みます。マシンとコースに慣れるために、まずはゆっくりと1周します。

新型YZ450Fは、車体がかなりスリムでコンパクトなため、身長165cmと小柄な筆者でも、マシンを大きく感じることがなく、低速のコーナリングでもバランスを取るのが楽。

また、左右幅を従来比で50mmナロー化したシュラウドもかなりスリムで、コーナー旋回中に前乗りする際も、体の移動がスムーズにできるのも好印象でした。

●低回転からトルクフルで扱いやすい

アクセルをやや開けて少しだけペースを上げてみます。久しぶりのモトクロスコースは、やはりギャップや路面の凹凸、ジャンプなどに対する恐怖心を克服できず、なかなかアクセルを開けられません。

ヤマハ・YZ450F試乗
ヤマハ・YZ450Fの新設計エンジン

ですが、そんな筆者の乗り方にも、YZ450Fは十分に応えてくれます。低回転から中回転域のトルクが太いため、アクセルをあまり開けないまま坂を登っても、エンストなどせず十分にトコトコと走ってくれるのです。筆者が昔乗っていた、2ストロークのモトクロッサーでは考えられないほどの扱いやすさですね。

それでいて、ストレートなどで思い切ってアクセルをひねってみると、猛烈なダッシュ力をみせて異次元の加速を披露。みるみる速度をアップし、大排気量のモトクロッサーであることを思い出させてくれます。低回転域から高回転域まで、幅広い対応力を持つエンジンの特性には脱帽です。

ヤマハ・YZ450F試乗
ヤマハ・YZ450Fが採用する新型エンジンのパーツ群

ちなみに、新型では、エンジンを新設計し、吸気経路を徹底的に見直し、ピストン、ボディーシリンダー、クランクアッセンブリー、ドライサンプ潤滑など、多岐にわたって新フィーチャーを投入。

これらの相乗効果により、レブリミットが500r/minアップした上に、最高出力も約5%向上しているそうです。

また、ピストンやクランクアッセンブリーを新設計するなどで、エンジン単体を1.1kg軽量化。トラクションコントロールも新投入することで、路面状況に応じ安定した走行性能を発揮するといいます。

残念ながら、筆者のスローペースでは、コーナー立ち上がりなどでトラクションコントロールの効果までは今回実感できませんでした。でも、上級者などがハイスピードでコーナー旋回するときや、雨などのウェット路面では、かなり強い味方になるでしょうね。

●装備重量109kgの車体で軽快に走れる

新設計のバイラテラルビーム・フレームを採用した車体は、全体で2.3kgの軽量化が施されたこともあり、とっても軽いイメージです。コーナー進入時などで車体をバンクさせる際など、軽快で素直な倒し込み感覚を味わえます。

ヤマハ・YZ450F試乗
軽い車体はコーナーでも軽快

ちなみに、YZ450の装備重量は109kgで、国内メーカーの450cc市販モトクロッサー中で最軽量です。特に、ハードなモトクロス競技では、車体の軽さはかなりの武器になります。

ライダーの疲労軽減はもちろん、レーンチェンジ時の俊敏性に貢献するなど、ライダーが自在にマシンを操るためには重要なファクターですから、これは大きいですね。

ヤマハ・YZ450F試乗
フロントサスペンションには、工具不要で圧減衰調整できる手回し圧減衰アジャスタを新設

また、減衰特性のセッティングを見直したという前後サスペンションは、バンプ吸収性能を向上させたことで、大きなギャップを乗り越えるときや、ジャンプの着地などでも安定感が抜群。それでいて、ストレートなどでも、路面のうねりや凹凸などにもきちんと対応し動いてくれるため、硬すぎる感じもなし。絶妙なセッティングだといえます。

また、コーナー脱出時などに後輪のトラクションをつかみやすいため、どんな路面状況でも高い操縦安定性を発揮してくれます。

ちなみに、新型YZ450Fのフロントフォークには、工具不要で圧減衰調整できる手回し圧減衰アジャスタを新採用しています。セッティング変更などが手早く簡単にできるのは、レースに出ているライダーにとっては、かなり利便性が高いといえるでしょう。

ほかにも、セッティング関連では、CCU(コミュニケーションコントロールユニット)を搭載することで、スマートフォンに入れた専用アプリ「パワーチューナー」を使ったエンジンのセットアップが可能なことも注目点です。

機能には、「スムース」から「アグレッシブ」までの7段階を一軸バーで調整できるシンプルチューニングのほか、ライダー自身によるマップ作成も可能。また、トラクションコントロールやスタート時にウイリーなどを防ぐローンチコントロールの設定もできます。

ヤマハ・YZ450F試乗
専用アプリ「パワーチューナー」。「スムース」から「アグレッシブ」までの7段階を一軸バーで調整できるシンプルチューニングを採用

さらに、サスペンションやエンジンのセッティングをアドバイスしてくれるFAQ方式のセットアップガイドもあることで、誰でも自分の乗り方や状況に応じたマシン設定を可能としてくれます。

●人とマシンが一体となるマシン作り

おっかなビックリながら、なんと30分の走行枠を無事に完走。久々にモトクロスコースを走るのは、自分が思っていたよりもハードルが高く、ちょっと情けない走りでしたけれど。

ヤマハ・YZ450F試乗
リヤサスの絶妙セッティングでトラクションもかけやすい

でも、YZ450Fが、トップライダーだけでなく、筆者のようなリターンライダーでも十分に扱いやすく、懐が深いバイクであることは十分に実感できました。

さすが「ハンドリングのヤマハ」。車体はもちろん、エンジン特性に至るまで、どんなスキルのライダーが乗っても、人とマシンが一体となるための扱いやすさや軽さを追求していることが、結果的に数々のレースでの高い実績に繫がっていることが伺えます。

なお、YZ450Fの価格(税込)は115万5000円。「ヤマハオフロードコンペティションモデル正規取扱店」で、2022年9月13日(火)から12月25日(日)までの期間限定で予約受付中です(発売日は2022年11月30日)。

(文:平塚直樹、写真:小林和久)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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