アルカナよりキビキビ走るコンパクトなハイブリッドSUV【ルノー・キャプチャー E-TECHとは?】

■ルノー・キャプチャーとは:ルノーの2世代目SUV

コレオス
ルノー初のSUVとなるコレオス

ランドローバーやメルセデス・ベンツのゲレンデヴァーゲン(現Gクラス)などは古くから存在していたものの、欧州車のSUVは21世紀後半から登場してくるなど、比較的スタートが遅い傾向にあります。

ルノー初のSUVは2008年に登場したコレオスで、日本には2009年から導入されています。コレオスは2016年にフルモデルチェンジを受けます。

初代キャプチャー
デザイン的には現行モデルと共通性の多い初代キャプチャー

一方、ルノーの2作目のSUVであるキャプチャーは、2011年のジュネーヴショーでコンセプトカーを発表、続く東京モーターショーでも展示され話題をさらいました。キャプチャーの市販モデルは2013年に登場。日本仕様は2013年の東京モーターショーでも披露され、翌2014年から販売が始まります。

2019年にフルモデルチェンジを受け、現行モデルである2代目に移行。日本には2021年から導入が開始されます。

当初のモデルは1.3リットル4気筒に7ATを組み合わせたモデルのみでした。2022年8月には1.6リットル4気筒+モーターに4速×副変速機2速のドッグクラッチ式シーケンシャルATを組み合わせたハイブリッドモデルであるE-TECHハイブリッドを追加しています。

●キャプチャーの基本概要 パッケージング:CMF-Bプラットフォームを採用したコンパクトSUV

キャプチャーE-TECH外環
キャプチャーE-TECHのフロントスタイル

現行キャプチャーのプラットフォームは、ルノー、日産、三菱アライアンスで使われるCMF-Bと呼ばれるタイプです。CMF-Bはルノーでいえばルーテシア、日産だとジュークやノートにも使われている量産タイプで汎用性の高いプラットフォームです。

キャプチャーのホイールベースはこのCMF-Bプラットフォームになった際(つまり初代から2代目になった際)に2605mmから2640mmに延長されています。

同じCMF-Bプラットフォームを使うルーテシアのホイールベースは2585mm、アルカナは2720mmなので、CMF-Bプラットフォームがいかに汎用性の高いものであるかがわかるでしょう。

キャプチャーE-TECHプラットフォーム
キャプチャーE-TECHに採用されたCMF-Bプラットフォーム。リヤシート足下のフロアには何もないのがわかる

ボディタイプは4ドア+リヤハッチの5ドアSUVスタイルです。前述のようにホイールベースは35mmの延長です。ボディサイズは先代に比べて全長が95mmの延長、全幅が15mmの拡幅、全高は5mm高くなり、全長×全幅×全高は4230×1795×1590mmとなりました。

通常のエンジンモデルに比べてE-TECHはモーターが追加されるなどしますが、それらはボンネット内に収められています。唯一異なるのが、走行用のリチウムイオンバッテリーの搭載です。

キャプチャーE-TECHはリチウムイオンバッテリーをラゲッジルームフロア下に搭載します。このため、エンジンモデルでは536リットルを確保しているラゲッジルーム容量(定員乗車時)は440リットルに縮小しています。100リットル近くの縮小ですが、使い勝手には大きな影響を与えていないように感じます。

E-TECH化によってリヤシートのレッグスペースの減少などは発生していません。

●キャプチャーE-TECHの基本概要 メカニズム:ドッグクラッチを用いたオリジナル性の高いハイブリッドシステム

キャプチャーE-TECHエンジンルーム
キャプチャーE-TECHのエンジンルーム

新たに追加されたE-TECHグレードの最大の特徴はフルハイブリッドシステムのE-TECHの搭載です。日本では2022年2月に発表されたアルカが最初となるフルハイブリッドのE-TECHですが、フランスでの搭載順はルーテシア→キャプチャー→アルカナとなっています。

システム構成はアルカナと同じで、1.6リットルの4気筒自然吸気エンジンにモーターを組み合わせたもの。1.6リットルエンジンはH4Mと言われるタイプで、日産でいうところのHR16で、最高出力69馬力・最大トルク148Nmで、ルーテシアに搭載されるエンジンよりも少しスペックアップしています。これに36馬力・205Nmのメインモーターと15馬力・50Nmのサブモーターを組み合わせます。モーターのスペックは同一です。

E-TECHにはドッグクラッチ式のミッションが組み合わされます。ドッグクラッチ式とは、ギヤとギヤを直接噛み合わさせるクラッチのことで、普通のクルマに採用されている摩擦式クラッチは備えません。

ギヤボックスの構造はツインクラッチのそれと似ていて、1-3速用のシャフトと2-4速用のシャフトがあります。つまり、ギヤボックスは4速です。さらにモーター側に2速の変速装置を備えます。

4×2で8速変速かと思いきや、それがちょっと違います。モーター側2速が副変速機のような役割だとニュートラルでは走らないのですが、E-TECHではモーターを使わない組み合わせも存在します。同時にEVモードではギヤボックス側を使わないので、5×3で15通りの組み合わせが存在します。モーター側もエンジン側もニュートラルでは走れないので、1通りを引いて14、さらに似たギヤ比の組み合わせが2通りあり、それは使わないのでさらに2を引いて12通りのギヤ比の組み合わせが存在します。

E-TECHシステム
E-TECHシステムの要となるのは、2つのモーターとドッグクラッチ

キャプチャーとアルカナのギヤ比構成は同一です。キャプチャー&アルカナとルーテシアはギヤ比構成が異なり、最終減速比はキャプチャー&アルカナが4.928でルーテシアが4.214と高く(重く)なります。逆に1速はキャプチャー&アルカナが2.197でルーテシアが2.409とルーテシアのほうが低い(軽い)数値です。

1速のオーバーオールギヤ比はアルカナが10.823、キャプチャー&アルカナが10.152であまり変わりません。モーター側のギヤ比はキャプチャー&アルカナが2.260、ルーテシアが2.478でルーテシアのほうが低く(軽く)設定されています。

ルーテシアはアルカナに比べて160kg軽いのでギヤ比構成を変えた(変える必要があった)のでしょうが、キャプチャーは変えませんでした。しかし重量はアルカナよりも50kgほど軽くなっています。

●キャプチャーのデザイン:前後フェンダーを大きく膨らませたマッシブなボディ

キャプチャーE-TECH リヤスタイル
マッシブなボディを纏うキャプチャーE-TECH

キャプチャーのデザインは、SUVらしい5ドアハッチバックの基本に忠実なものですが、各所にさまざまなテイストが付け加えられています。

パネル構成は単純ではなく、前後フェンダーを大きく膨らませてボリューム感をアップ。前後ドアもドアハンドルのラインを膨らませたうえで、センター部を絞り、アンダー部のブラックアウトする部分も山なりの造形としています。そこに真っ直ぐなクロームのラインを入れたことで、サイドビューはとくに抑揚にあふれたものとなっています。

サイドの膨らみはほ乳類の大腿骨のごとく、中心が絞られ、両端が膨らんだもので非常に力強さを感じます。また、ボンネットも前方に向かって緩やかに下がる配置で、フラットなボンネットがふえている最近の傾向とは異なる感じを受けます。

ルノーの菱形エンブレムをセンターに配し、ボンネットをW型にカットしたデザインはすっかりルノーの顔として定着しました。そのうえで、さらに特徴づけるのがCシェイプのデイタイムライト。このCシェイプデザインは、リヤコンビネーションランプにも採用されています。

前後共にスキッドプレート風のアンダーガードを装着。フロントはグリルまわりにクロームパーツを、リヤはフェンダーから回り込んだ部分の下部にクロームパーツをあしらいます。クロームの使い方に嫌みがないところも秀逸です。

フロントシートはサイドサポート性のよさそうなスポーティな形状が与えられています。リヤシートはフォールディング性を重視しているものの、クッション、シートバックともにわずかながらに凹面とすることでホールド性も確保されています。

インパネまわりのデザインはコンサバながら、ATセレクターやそのベース部分も本国仕様とは異なるデザイン。本国仕様よりもスタイリッシュに仕上げているところは、日本での魅力アップをねらっている様子がうかがえます。

●キャプチャーE-TECHの走り:同じシステムのアルカナよりキビキビ感のある走り

キャプチャーE-TECH フロントスタイル2
キビキビした走りが気持ちいいキャプチャーE-TECH

パワートレイン系はアルカナと同じということもあり、走りにその差は大きく感じることはありません。アルカナよりSUV色が強いキャプチャーですが、全高は10mmしか差がないのでさほどヒップポイントも変わらず、走りのフィールは思いのほか引き締まったものとなっています。

ハンドリングの感覚はアルカナよりもシャープなものを感じます。ステアリングを切ったときのクルマの動きが、アルカナがスーッとだとすれば、キャプチャーはスッという感覚です。動きそのものが若干シャープに味付けされている印象ですが、ステアリング操作に対して過敏だということではありません。

その原因はどこにあるのか? 諸元を探ってみると、面白いことに気付きました。

アルカナの前/後トレッドは1550/1560mmで、リヤが10mmワイドとなる設定ですが、キャプチャーは1555/1540mmでフロントが15mmワイドになる設定です。つまり、アルカナがリヤが踏ん張る設定なのに対し、キャプチャーはリヤが回り込んできやすい設定とみてとれます。

キャプチャーE-TECHタイヤ
タイヤはグッドイヤーのエフィシェントグリップが装着されていました

タイヤはともに215/55R18で同サイズですが、キャプチャーはクムホのエクスタHS51、キャプチャーはグッドイヤーのエフィシェントグリップパフォーマンスでした。どちらも似た性格のタイヤですが、その差もあるのかもしれません。

キャプチャーE-TECHモーター
モーター2つを組み合わせるのは複雑なようだが、構造はさほど複雑ではない

キャプチャーE-TECHは、ほかのE-TECHシリーズと同様にモーターで同期してドッグクラッチを断続することで変速するシステムです。同期せずにドッグクラッチを繋ぐと大きなショックを伴いますが、同期されていることでショックは皆無です。

通常のATよりもずっとスムーズな変速を行い走りの様子は、まるでCVTのようですが、ギヤ同士が完全に噛み合っているのでCVTで感じるラバーフィールは存在しません(といっても現代のCVTのラバーフィールはほとんどありません)。

一方でCVTの無段階変速はつまらないので、MTのシフトチェンジのように断続感を求めるユーザーも多く、CVTにステップ変速というモードを組み込むこともあります。

E-TECHはそうしたステップ変速もしなければ、マニュアルモードで変速することもできません。これを不服とする人もいるでしょうが、EVもそうした変速はしないし、ATは変速ショックがないことを目指して開発を進めてきた歴史がありますし、MTの運転でも変速ショックが少ないほど“上手”だと言われます。

走行モードはエコ、スポーツ、マイセンスの3種がありますが、下り坂などではもっと積極的にエンジンブレーキが使えるBモード的なモードも欲しいところです。

●キャプチャーE-TECHのラインアップと価格:E-TECHシステムの値段は約50万円

キャプチャーカラーバリエーション
キャプチャーシリーズのカラーバリエーション。ノワールエトワール・メタリックの1トーンはキャプチャーE-TECHの専用色で新色

キャプチャーE-TECHは、標準タイプとランバーサポート付き電動レザーシートが装備されるレザーパックが用意されます。標準タイプの価格は374万円、レザーパックは15万円高となります。

ガソリンエンジンモデルは標準タイプと同じくランバーサポート付き電動レザーシートなどが追加になるテックパックの2タイプで標準タイプが319万円、テックパックが23万円高の342万円となります。

標準タイプ同士での価格を比較すると、E-TECHが55万円高、E-TECHレザーパックとテックパックだと47万円の価格差となります。

●キャプチャーE-TECHのまとめ:信頼性の予測ができないが

キャプチャーE-TECH フロントスタイル3
フェンダーに対して、ボンネットを持ち上げているのも印象な部分

キャプチャーE-TECHの購入を戸惑う要因のひとつは、E-TECHの信頼性にあるでしょう。今まで市場では評価されてこなかった新しいテクノロジーなので、その信頼性は未知のものです。

一方、システムをじっくり見てみるとけっこう頑丈そうにも見えます。何しろクラッチがないシステムなので、クラッチプレートが摩耗するという心配はありません。標準タイプのキャプチャーはデュアルクラッチ式のATなので、クラッチが摩耗しやすい日本での使い方では、メンテナンス費用がかさむ可能性も考えられます。

キャプチャーE-TECH リヤスタイル2
スキッドプレート風のリヤアンダーガードが力強い

そう考えると、50万円程度の価格アップでメンテナンスが楽な(と決まったわけではありませんが)E-TECHは、キャプチャーを買う時に選んでいいシステムだと言えます。新しいシステムは初期にトラブルが発生することもありますが、新しいだけに対処もしっかりとしていることでしょう。

今後、クルマはEVへ向かっていくはずですが、すべてのクルマがEVに向かうとは考えにくいものです。そうしたなかで登場してくる、こうした新しいアプローチに触れることができるタイミングにいる私たちは、クルマの歴史の転換期を見られることになり、それを実感できる大きなチャンスでもあります。

このチャンスをしっかりと肌で感じるのは、この時代を生きた感覚を味わうことができるはずです。

(文・写真:諸星 陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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