目次
■スバルは2030年に死亡交通事故ゼロを目指す
日本にAEB(衝突被害軽減ブレーキ)のトレンドを作ったのは、SUBARUの先進運転支援システム「アイサイト」といっていいでしょう。
アイサイトが量産モデルに採用されたのは2008年5月とかなり以前の話で、2022年6月にはグローバルでのアイサイト搭載車の販売台数が500万台を超えたといいます。
ちなみに、世界販売に占めるアイサイト搭載車の比率は約91%。もはや、アイサイトはスバルのコアテクノロジーであり、ユーザーからすればあって当たり前の機能となっています。
スバルの独自調査によれば、日本国内の事故件数調査ではアイサイト(ver.3)搭載車の追突事故発生率は0.06%と非常に低くなっています。アメリカIIHSの調査では、アイサイト搭載で負傷を伴う追突事故が85%低減される効果があるというレポートもあるほどです。
このように先進運転支援分野において経験豊富なスバルは「2030年にスバル車による死亡交通事故ゼロ」を目指しています。
もっとも死亡交通事故というのは様々なシチュエーションがありますから、仮にアイサイトによって自車の加害件数をゼロにしても、他車から当てられるケースもあります。おおよそのイメージでいえば、アイサイトを軸とした先進運転支援機能によって死亡交通事故の65%を削減し、残り35%は衝突安全ボディの進化やコネクティッド技術によって死者ゼロを目指すということです。
●ステレオカメラ×AI=SUBARU ASURA net
もちろん、現状のアイサイトでは完璧に死亡事故を避けるということはできません。目標達成のためには進化が必要です。
そうしたアプローチとしてAI(人工知能)をアイサイトに活用するということを研究していることが明らかとなりました。
現状においてアイサイトは基本的に路面を検出して、路面より上の物体を障害物として捉えるといった考え方で制御されているといいます。つまり、路面モデルの検出というのは、アイサイトにとって命綱ともいえる部分です。
しかし、雪道など白線が見えないシーンでは、走行可能な路面を把握するのは非常に難しい技術となります。
アイサイトの制御にAIを組み合わせることで、非常に難しいシチュエーションであっても走行可能な路面を認識することができるようになるわけです。
そして、AIと組み合わせることについて、アイサイトは非常に素性が良いのだといいます。
ご存知のように、スバル・アイサイトはステレオカメラをメインセンサーに使ったシステムです。左右の視差から対象物までの距離を測るというものですが、そのバックボーンとなっているのは画像解析処理技術といえます。
ステレオカメラで得た画像データをAIで処理して、従来のアイサイトに足すというのは、ミリ波レーダーで距離を測っているようなシステムにカメラ+AIによる処理を加えるのと比べると、シンプルかつ情報のズレも少なくて済むというメリットがあるというのです。
一般に車載システムというのは、消費電力などの制限がありますから、スーパーコンピュータのような処理はできません。シンプルなフローは車載にマッチしたアドバンテージがあります。
そんなステレオカメラ(アイサイト)×AIのシステムを、スバルは「SUBARU ASURA net」と名付けています。
●SUBARU Labでアイサイトは進化する
アイサイト×AIの開発拠点といえるのが、渋谷に居を構えるSUBARU Labです。同ラボの副所長を務める齋藤 徹さんによると「本社(恵比寿)から一駅しか離れていませんが、物理的に別の場所にすることに意味がある」といいます。なぜなら、アイサイトを進化させるには、これまでの自動車エンジニアが持つハードウェア的思考から、AIやCGといったソフトウェア的な思考が重視されるようになっているからです。
いずれにしても、ステレオカメラというスバルが培ってきた技術をAIによって発展させようというのがSUBARU Labの当面のプロジェクトといえます。
過去には、スバルはサプライヤーから単眼カメラやミリ波レーダーを調達して、独自システムの開発からは撤退するという噂もありましたが、スバルは徹底的にステレオカメラにこだわることを決めています。コロナ禍においてSUBARU Labを設立したことが、その心意気を示しています。
最新のアイサイトでは周辺検知のためにミリ波レーダーも併用していますし、ステレオカメラのほかに単眼カメラを追加するなど、複数のセンサーをフュージョンして安全性能を高めようとしています。ステレオカメラにこだわって、他社との協調領域について無視するというスタンスではありません。
協調領域といえば路車間通信や車車間通信による運転支援や事故防止なども期待したいところですが、そのあたりは業界全体での活動が必要なためスバルという小さな自動車メーカーができることはけっして多くはないようです。とはいえ、そうした協調領域のテクノロジーも積極的に活用することも死亡交通事故ゼロを目指すには重要といえるでしょう。