「棚の下」にいないと「棚からぼたもち」は、ない。~両角岳彦のデータと観察で“読み解く”自動車競争【スーパーフォーミュラ2022年第6戦・富士スピードウェイ】

■フォーミュラカーでの「雨の予選」は先を取ること

ずいぶん早い梅雨明け宣言は出たけれど、7月3週目後半、富士スピードウェイは不安定な気象に包まれていました。通い慣れるとこの地はいかにも「山の天気」で、御殿場はもちろん、すぐ下の小山町が曇っていてもここの上空だけに雨雲が、あるいは霧が出ている、なんて経験を重ねることになります。この週末は気象予想も概ね当たって、土曜日は雨雲襲来。ちょうど午前のフリー走行1回目を前にしてコースの路面が濡れ始めました。そしてこのセッションが終わろうとする頃には雨足が強まり、1時間にあと5分を残して「路面悪化のため」赤旗。これで走行終了。

その後、昼前後には少し雨が弱くなったりもしたのですが、午後3時10分から予定されている予選の時間帯はほぼ間違いなく「雨」。そこで、レースコントロール(競技委員会)はQ1・2組の中で4、5台をふるい落とし、上位6台ずつ12台でQ2を競う、というノックアウト方式から、30分間の中で各車が記録したベストタイムの順に決勝スタート・ポジションを決める、いわゆる計時予選に変更したのでした。短い時間の中で1回だけのアタックランになるノックアウト方式は、フルウェット路面では先行するマシンが巻き上げる水煙で視界を遮られ、またアタック中に他車がアクシデントなどを起こしてセッションが中断されると(ウェット路面ではその可能性がグッと高まります)、予選結果として有効なラップタイムが出せずに終わる、というケースがこれまでにも何度もあったのを反映した判断です。

その予選が始まった時点では雨もかなり弱く、フルウェットとはいえ路面を覆う水膜もそんなに厚くないように見受けられました。ここで今のスーパーフォーミュラでは、一斉にコースインする状況では混乱を避けるためにピットガレージの並び順に沿って、ピットレーン出口に近いマシン/チームから出てゆくのが約束事。ここでピットガレージの割り当ては「前シーズンのチーム成績順」になっているので、今年はピット出口に最も近いのがチーム・インパル、そこからダンデライアン、MUGEN、ナカジマ…と並んでいます。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
2022年第6戦、予選が行われた土曜日は雨。この写真でよくわかるように水膜に覆われた路面をフォーミュラカーが走るとタイヤが水を巻き上げ、大きなダウンフォースを生む車体底面と周辺の気流に乗って後方に広がる。後続車にとっては「全面が霧」で隠された中を走ることになる。そんな中、先頭でコースインした19関口がベストタイムを記録

そこで、この日のウェット路面での予選30分間、先頭でコースインしていったのはインパルの関口雄飛。そこから約2分でいわゆるアウトラップを走り、そこから一気にフルアタックへ。この最初の計時周回のタイムは1分35秒951。その関口の18秒後に計測ラインを通過した小林可夢偉は、ここから最初の計時周回だったのですが、その周の後半、セクター3の上り・コーナー連続区間で挙動を乱してスピン、TGRスープラ・コーナーアウト側のバリアに旋転状態でぶつかってしまった。これで赤旗提示・走行中断。この中断はちょうど10分間だったのだけれども、メディアセンターのガラス窓越しに見ても降り続く雨が落ちる量は増え、マシンが走るとタイヤが巻き上げる水煙も明らかに濃くなっていました。

残り時間23分を設定しての走行再開だったが、ここからはもうラップタイムを縮めるのは難しくなってしまったわけ。誰よりも良いコンディションの計時1周目に“全集中”した関口には「さすが」と言うしかない一方で、すぐ後ろを走っていたチームメイトの平川亮を含めて、計時1周目、2周目と徐々にペースを上げていた多くのドライバーにとっては、ウェットタイヤを丁寧に暖めてから…と考えていたアタックが「不発」に終わる形になったのです。

⚫︎決勝はドライ路面に。変わる路面の迷い道

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
スターティンググリッドへ向かうポールポジションの19関口。その後ろに2番手38坪井、1野尻が続いている。前の日は雨、この日朝のフリー走行は曇り空で路面は部分ウェット。でもこの時には青空が覗き(ちょっと低い層に雲が広がって入るが)、路面は完全に乾いている。微細なセットアップが合わせ込みにくい状況だったが

日曜日、富士スピードウェイ上空には雲が残っていましたが、雨は落ちて来ずに、午後の決勝レースはドライ路面での戦いになりました。朝のフリー走行の時間帯も雨は上がっていたのですが、路面には所々ウェットパッチが残っている状態から始まっての30分間。ドライタイヤでの走行は試せましたが、5時間後の決勝レースの路面とは異なる状況で、結局、誰もが暑さの中のドライ路面でのマシン・セッティングを確かめきれないまま、スタートに臨むことになりました。

それもあってか、スターティンググリッドに並んだ21台のウィング設定を観察すると、いつも以上に細かな差異が目につきました。ここ富士スピードウェイでは、長いストレートで追い越しの可能性に賭けるか、それとも上り勾配のタイトコーナーが続き、ラップタイムの45%を占める後半・セクター3と、100Rからヘアピンへと高速コーナーが続くセクター2の両方で、ダウンフォースでタイヤを路面に押し付ける方を優先するか、グリッド・ポジションによっても選択が分かれがちではあるのですが、それでも最近は「コーナー・セクション優先」の傾向が強まってきていた。でもこの日はリアウィングの迎角だけ見ても最小19°から最大25°まで2°刻みの固定位置、4パターンのバリエーションが見受けられたのです。あるいは直前の8分間ウォームアップでの挙動や運転感覚を少しでも改善しようという判断か、グリッド上でサスペンション機能要素の設定変更・組み直しに踏み切ったマシンも複数見かけました。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
スターティンググリッドに車両を並べた後、フォーメーションラップ3分前までの限られた時間の中でサスペンション調整などの作業を行ったチームが今回は複数あった。この写真は4フェネストラズ車。ここでの作業中、カバーなどで覆うのは規定違反で事後、訓戒処分を受けている(写真:筆者)

で、14時30分、予定どおりスタートに向けた1周のフォーメーションラップ開始。3分余りをかけて全車、スタート位置に付く…はずが、そこに向けてタイヤに「熱を入れる」べく直線でステアリングを大きく左右に振って蛇行を試みていた松下信治がスピンしてコース脇のグリーンゾーンにストップ。これでスタートディレイ。フォーメーションラップやり直しというのがこういう時の通常手順で、その分、レースは1周減算の40周・182.52kmになりました。ここで牽引されてピットレーンに出された松下車は全車がスタートした後からピットロードを出て行きましたが、フォーミュラカーのレースではオフィシャルの手を借りたところでレースから除外となるので、彼は「DNS(Did Not Start:スタートしなかった)」という扱いになりました。

⚫︎「表の関口」vs.「裏の野尻」

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
ポールポジションの19関口がスタートでもその位置を守って1コーナーへ。蹴り出しでちょっと滑った38坪井がその右後ろ、その外から1野尻が追い抜く動きに入っている。後方は密集状態。その中でいちばん内側にいる65大湯と逆にアウトからアプローチしている20平川、そして55三宅がこの後、接触する

仕切り直しのスタート。ポールシッターの関口は素直に先頭をキープして1コーナーへと入りましたが、すぐ右斜め後ろに位置した坪井翔は蹴り出し直後のホイールスピンが多かったようで最初の加速がやや鈍く、その外から野尻智紀が並びかけて1コーナーでは先手をとる…という展開の後方でアクシデント発生。グリッド中団から出た平川、大湯都史樹、三宅淳詞の3車が斜めに並ぶ状態で1コーナーの旋回に入る中、三宅のフロントが大湯の右リアタイヤを押し、これでスピン状態になった大湯車が大外から前に出かけていた平川車に接触、スピン状態に陥った平川車の前部に三宅車が交錯して、平川はその場でストップ。大湯と三宅もダメージを負ってピットへ。

この事故現場はすぐにクリアされ、3周目に入る直線では6番手を走るS.フェネストラズが前の周にオーバーテイク・システム(OTS)を使った後、100秒間の作動不可時間になっていたのに対して、直後の山本尚貴はOTSを発動させて1コーナーでは外に並びかけるところまで迫りました。ここは何とか前をキープしたフェネストラズが道幅をフルに使ってディフェンスする中、そのリアエンドと山本車のノーズが接触。フェネストラズ車は一気に旋転状態に陥って、グリーンを突っ切り外側のタイヤバリア+ガードレールに激しくクラッシュ。モノコックとエンジン+トランスアクスルのリアセクションが分離する(モノコック背面4点でボルト締結されています)というシリアスなアクシデントになりました。ここでセーフティカー(SC)導入。

このSC先導走行は7周回・18分間続き、そこから戦闘再開となったのですが、この10周目を終わったところで野尻と大津弘樹がマシンをピットレーンに向けました。SFのレースで義務付けられているタイヤ交換を、その規定の最少周回数を消化したところで済ませてしまおう、という戦略です。とくに2番手を走っていた野尻としては、そのまま関口を追走していても、タイヤ交換のタイミングを合わされてしまうよりもここでフレッシュなタイヤに履き替えてペースを上げ、関口との相対位置関係を変化させようという狙い。これはスタート前から想定していたプラン(のひとつ)だったようです。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
タイヤ交換義務消化の最小周回である10周を走ったところで1野尻がピットに飛び込んだ。予選3位、決勝をスタートして先頭の関口を追う状況からの展開変化を狙った作戦

これで、コース上を走る車群の先頭を走る「表のトップ」は関口。でも、この後どこかでタイヤ交換のピットストップが必須。そこからおよそ40秒離れて、すでにタイヤ交換を済ませたグループの「裏のトップ」野尻。この両者のギャップを観察しつつ、全車が(と言ってもすでに3車がレースを退き、2車が大きく遅れている状況ですが)タイヤ交換義務を消化し終わった時にどんな並びになるかを考えつつ見守る、という感染態勢になったわけです。

⚫︎ピットストップに潜む陥穽

スーパーフォーミュラで富士スピードウェイを走る中で、ピットロードを制限速度の60km/hで走り、途中で一度、停止・発進を行なった時、メインストレートを駆け抜けて行くのに対して失う時間はおよそ28~30秒。そこで止まってタイヤ交換を行うのに必要な時間は、今の「1輪を1人で変える」規則下では7~8秒。さらに冷えた状態で走り出したタイヤが十分なグリップを発揮するまでにロスする時間が1秒あまり…。ということで、SFのレースでタイヤ交換義務を消化する時に、コースを走る車両に対して遅れるロスタイムは最小で38秒、現実的には40秒かもう少し、と考えておく必要があります。

11周目に野尻がコースに戻った時、関口とのギャップは44秒。関口としては少なくともこの差はキープして行きたい。逆に野尻としてはフレッシュなタイヤが発揮するグリップの高さを活かしてラップタイムを詰め、関口のマージンを40秒以下に削りたい。同時に残り30周・140km弱を走り切るためには、この2セット目のタイヤをできるだけ傷めないように走らないといけない。野尻はそれが巧みなドライバーの1人ではありますが。

こうした2人の狙いどころに対して、まずは野尻が5周で約2秒、関口との差を縮めます。しかし、そこで3周目のアクシデントに対するペナルティとして課されたピットスルー(コースを離れてピットロードを通過すること)を消化した山本が、野尻の目前に戻ってきました。その後ろを走ることになって、野尻のペースが少しだけ鈍る。この状況が7周にわたって続きました。それもあって、また1セット目のタイヤでもSC先導走行が終わった10周目から速いペースでトップを堅持した関口は、レース距離の半分を過ぎても野尻に42秒ほどの差をつけていました。そして自らのペースがじわりと落ち始めた25周完了でピットへ。静止時間5.3秒という驚速のタイヤ交換で、ピットロードから本コースに戻った時に野尻はまだメインストレートの半ば。十分な余裕を持って前を行くことができた…はずでした。ところがその関口がセクター3の上りセクションに差し掛かったところで突然スピン、コース上にストップ。右リアタイヤが外れたのです。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
25周を終えてトップの19関口がピットへ。先頭を争う野尻の前で戻れる時間差はある。ジャッキアップ〜4輪交換〜ジャッキダウンに要した時間は5.3秒。他より1秒ほども早かったのだが…

⚫︎「SC」を利してピットストップで失う時間を削る

この時点でタイヤ交換義務未消化だったのは、坪井、笹原右京、宮田莉朋、佐藤蓮の4車。言うまでもなく、SC先導走行でペースが落ちた中でピットストップすれば、本コースを走る車両群に対して失う時間が減ります。関口車のアクシデント発生直後、自身の26周目を終わろうとしていた坪井がピットロードに滑り込みました。その直後に「SC」ボード提示。これによって全コース追い越し禁止となります。

タイヤ交換を終え、ピットロードを60km/hで走り、出口手前で速度制限解除となってフル加速する坪井。一方、ストレートを駆け抜けてくる野尻。この2車がほとんど同時にピットロードと本コースの合流点と定義される第2SCラインを通過したのですが、その瞬間、坪井車の方がほんのわずか前。これで野尻は坪井を追い抜くことはできず、背後に回ります。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
関口のアクシデントを見て「SCが入る」と瞬時に予測したチームは38坪井をピットに呼び戻し、タイヤ交換義務を消化。コースへと送り出す。この先で暫定トップの野尻をスレスレでかわしたのだったが…

一方、この時には坪井、野尻に先行していた笹原、少し離れて宮田、佐藤の3車はその27周目を完了したところでピットへ。坪井はまだSCが直前に現れていないにも関わらずこの1周を遅めペースで走り、アウトラップとしては10秒ほど遅い2分12秒を費やした。その結果、3車の中で先頭にいた笹原がピットアウトしてきた時、坪井が先導する集団はまだストレートの半ば、10秒近く離れた場所を走っていた。そこから加速してきた坪井、野尻は第2SCライン到達時点で何とか宮田の前には出られたのですが。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
各車が26周目を終えるところで「SC」ボード提示。その瞬間にはストレートを通過していた15笹原は27周を終えてピットに滑り込み、タイヤ交換。これが勝負の綾を生んだ

これでコース上の全車がタイヤ交換を終えて、笹原-坪井-野尻-宮田-牧野任祐…という隊列が、笹原の前で先導を始めたSCの後方に形作られたのでした。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
40周レースの26周目を終わるところで今戦2度目のセーフティカー導入。その後方に隊列が整ったところで15笹原が先頭に

このSC先導走行は10分間で終了、31周目に入るところから(実質的にはその手前の直線に出てくるあたりから駆け引きが演じられるのですが)残り10周の競争再開となりました。その最初の直線で、野尻がOTSを作動させつつ、当然のようにディフェンスのためにOTSを撃ち返す坪井に並びかけ、1コーナーでは並走で進入するまでに迫りました。しかしそのターンインで若干アウトにはらみ、このアタックは成功せず。タイヤの走行履歴では坪井の方が15周・70km近くも少ない状況で、野尻としてはこれ以上の仕掛けは難しそう。逆にそこから背後の宮田に迫られて、33周目に入るストレートではOTSを「撃ち合い」つつ、1コーナーで野尻がぎりぎり押さえ込むのに成功、という厳しい戦いが続きます。

改めてデータを見ると、この終盤10周では先頭を走る笹原のペースが他よりも一段と速く、着実にリードを保持。野尻の攻めを退けた坪井だけがそれとほぼ同等のラップタイムを続けて、でも差は詰まらず…という状況だったことが確認できます。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
2022年第6戦で上位10位までに入った各車と、P.P.から先頭を走っていた19関口の毎周のラップタイムをプロットしたグラフ。関口は1度目のSC先導走行終了直後から一気にペースアップ。そこでタイヤ交換した1野尻は先が長いこともあって抑え気味だが同じように速いペースで走り出したが、17周目からちょっと落ちるのはドライブスルー・ペナルティから戻った64山本が前に入ってきたため。これが勝負の綾になった可能性もあったのだが。15笹原、38坪井、37宮田はタイヤ交換を後に回して、この中盤を関口、野尻と同等のタイムで走り続けたことが、2回目のSCで幸運を引き寄せることにつながった
スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
優勝した15笹原を基準に、各車が毎周どのくらいの時間差で走っていたかを整理したグラフ。各周の順位とその時のタイムギャップが同時に確認できる。トップを走っていた19関口の折れ線はピットインした25周目で切れ、そこから出て次の周を走りきれなかったことを示している。線が大きく下がっているのはピットストップした周回。10周目に1野尻が入り、他にも6車が早めのタイヤ交換作戦を選択、しかし関口のアクシデント処理のSC導入で、そこまで”引っ張った”15笹原を含む4車がポジションをゲインしている

⚫︎ドライバーとエンジニア、それぞれに味わう「初勝利

かくして、野尻と同じチームMUGENの笹原が、スーパーフォーミュラで初めての優勝を手中に収めたのでした。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
SC導入で流れを引き寄せトップに立った15笹原右京が40周を走り切ってチェッカードフラッグを受ける

チームとしては昨年までの実質的には野尻1台の運営から、今シーズンは2台エントリーに体制を拡大。その2台目のドライバーとして加入したのが笹原でした。コンセント同じ富士スピードウェイで4月初めに行われた開幕戦では、その新規体制でポールポジションを獲得したものの、決勝レースではスタート時にエンジンストール。翌日の第2戦でもスタートに失敗したのですが、チームによれば、2台体制での参戦を決めて笹原車を組み立てるのに十分な時間がなく、細部の機能や動作機構の微調整が十分ではなかった、とのこと。

そんな事情を明かしてくれる小池智彦エンジニアも、昨年までは野尻車のデータ整理やセッティング、戦略などをサポートする「セカンド」の立場。今シーズンから“一本立ち”のトラック・エンジニアとして15号車と笹原右京を担当しています。というわけで、彼にとってもこれが「エジジニア初勝利」。そこでレース後にちょっと話を聞いてみました。

スーパーフォーミュラ第6戦富士スピードウェイ
トップでチェッカードフラッグを受け、表彰台下に戻ったマシンから降りた笹原右京に小池エンジニアとチームスタッフが駆け寄って祝福

「1号車とデータをフルに共有しながら、参考になるところは移植したり、色々やってきています。とはいえ、ドライバーとエンジニアの両方にとって、なかなか納得するところまで行かなくて…。

前回のSUGOでも、もうひとつしっくり来なかったので、今回は色々考えてやってきました。(ずっと雨、ウェット路面が続いてやっとドライに近づいた)今朝のフリー走行では、かなり走行履歴のあるユーズドタイヤを履いていたので1周のラップタイムとしてはあまり速いのが出ていないのですが、部分部分で見ればかなりイケるかなと思ってました。

決勝では、自分たちができることに集中する、という方向で、アドバイザーの武藤(英紀)さんにも「そこはもう手を入れないでいいんじゃないの」など助言をいただいて臨みました。序盤のペースは良かった、速すぎるかな、ぐらいで、これならばタイヤ交換は後まで引っ張ろうと。チームとしては野尻さんを優先してピットストップを決める約束なので、野尻さんが最短の10周で入らなければ、あそこで入れた可能性もありますが。

あの(関口車擱座による)セーフティカーはちょっとヤバいかな、という状況で…。というのは「SC」が出た時には(笹原が)ピットロード入口を通り過ぎてしまっていて、そこですぐに入れることができなかった。でも次の周になって、そこまでSCに”つかまらず”に来て(隊列ができて前後のタイム差がなくなることなく)ピットに入れることができました。1周前に入って野尻さんの前に出た坪井選手が、そのアウトラップをかなりゆっくり走ったこともあって、十分余裕を持って前に出ることができたのもラッキーでした。

戦略がうまく機能した、ともいえますが、『展開に恵まれた』に尽きます。こんな勝ち方もあるんだな、と。次は速さで、『力でねじ伏せる』ような勝ち方をしてみたいです」。

(文:両角 岳彦/写真:JRP(特記以外))

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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