インドにおける小型モビリティ電動化にホンダとヴァレオが強力タッグ【週刊クルマのミライ】

■車体はAtul、電動パワートレインはValeo、バッテリーはHonda

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「autorickshaw(オートリクシャ)」はインドで3輪タクシーとして普及している

世界的な自動車テクノロジーのトレンドは、じつは自動車メーカーではなくメガサプライヤーが生んでいるという見方もあります。

そんなメガサプライヤーの一角を占めるヴァレオが、インドでホンダや現地企業と電動化を加速するための覚書に署名したという発表がありました。

具体的には、ヴァレオ+Atul Greentech Private Limited+Honda Powerpack Energy Private Limitedの3社による覚書です。Atul Greentech Private Limited(以下、Atul社)というのは、現地においてautorickshaw(オートリクシャ)と呼ばれる3輪タクシーを製造しているメーカーです。

今回の電動化におけるスキームというのは、大きくわけると車体はAtul社、バッテリーはホンダ、電動パワートレインと制御系をヴァレオが担当するというスキームになっています。けっしてホンダの車両にヴァレオの電動パワートレインが搭載されるというわけではありません。

そして、ホンダのバッテリーというのは交換型バッテリーです。オートリクシャに交換型バッテリーを採用するというアイデアについては、すでに日本でも発表されていますが、その普及においてポイントとなる電動パワートレインを担当するパートナーが定まったという風に捉えることもできるでしょう。

では、ホンダの交換型バッテリーとは、どのようなものでしょうか。

●モバイルパワーパックの電力量は約1.5kWh。オートリクシャには4個使用

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ホンダの二輪向け交換型バッテリーを利用できるよう改良したオートリクシャ。

ホンダがインドで電動オートリクシャに、同社が開発した交換型バッテリー「モバイルパワーパック」を活用するというプランを発表したのは2021年10月で、ここで紹介している写真はその発表に際に撮ったものですが、見ての通りプロトタイプではオートリクシャの後ろに4個のモバイルパワーパックを搭載する構成となっています。

ちなみに、ホンダ・モバイルパワーパックの最大電力量は1494Whと発表されていますので、4個を積むということは約6kWhのバッテリーを積んだ電動車両ということになります。

このバッテリーパックは、原付二種相当の電動スクーターで2個搭載を想定しているので、それと比べると倍の搭載量となりますが、日本で発売されている軽EVのバッテリー総電力量が20kWhですから、タクシーとして考えると心もとないという印象も受けます。

とはいえ、ヴァレオが担当するという電動パワートレインの素性を考えると、これだけのバッテリーを積んでいれば十分という風にもいえそうです。

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ヴァレオの48V電動パワートレインシステムは、ISGを流用したもので、コンパクトかつローコストなのが特徴。

電動パワートレインの具体的なスペックについて触れられていませんが、オートリクシャに使われるのは「48V電動パワートレインシステム」ということが明らかになっています。ヴァレオの48V電動パワートレインといえば、ISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)を応用したベルト駆動のユニットが思い浮かびます。

その出力は定格9kW、最大13.5kWというものですから、四輪の電動化で考えるほどの電力消費量はありません。6kWhのバッテリーを積んでいれば、十分に稼働できると考えられます。

この48V電動パワートレインは、空冷式となっているのもポイントです。オートリクシャのようなモビリティにおいて冷却系を持たせるというのはコスト面、車体設計面でハードルが上がります。空冷であれば、従来の車体設計をそれほど変えずに電動化ができるでしょうし、エンジン車からのコンバージョンについても対応しやすいと期待できるからです。

●充電の待ち時間が不要なのは交換型バッテリー最大のメリット

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ホンダが二輪をメインターゲットに開発、規格化を進めている交換型バッテリーのバッテリーステーション

冷却系が不要なのはバッテリーも同様です。それは交換型バッテリーの弱点ともいえますが、ホンダ・モバイルパワーパックはそもそも交換型として開発されていますので、パッシブでの冷却で十分に運用できることは織り込み済みといえます。

なにより、交換型バッテリーというのはバッテリー温度が急上昇する急速充電をせずに済むため、ユーザーレベルでは温度管理をそれほど意識しなくて済む電動化ソリューションといえます。

さらにいえば、電気が減ってきたら、バッテリー交換ステーションに立ちよって、満充電のモバイルパワーパックと交換するだけで済みますから、電欠から満充電状態にするまでに要する時間においてもメリットがあります。

もっとも、こうした方式が可能なモビリティとしては、オートリクシャのあたりが最大サイズとなるでしょう。それは交換に必要な手間と体力に関わる課題があるためです。

人間が交換することを考えると、バッテリーパック単体の重量は10kg前後が上限と思われます(ホンダ・モバイルパワーパックの単体重量は10.3kg)。10kgの交換型バッテリー4個を同時に換えるというのは、おそらく手間を考えると限界でしょうし、これより多くなると液体燃料を給油したほうが短時間で済むとなるでしょう。

そうです、充電済みバッテリーを交換するというソリューションは、そこそこ小さめの電動モビリティにおいてはメリットが多くあるのです。

四輪のような大きなバッテリーになると、交換型では避けられない冷却系の課題が出てきますし、バッテリーパック単体の重量が増えることで交換システムが大がかりになるというウィークポイントも生まれてきます。

オートリクシャに交換型バッテリーを使えるからといって容易に四輪には応用できない、それが現時点での技術的な壁といえるかもしれません。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也

山本晋也 近影
日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。