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■プロローグ・トヨタ5ナンバーサイズミニバン、FF化までのあらまし
トヨタノア/ヴォクシーのルーツは、商用バン&トラックのライトエースとタウンエースを乗用仕立てにした、1970年代のライトエースワゴン/タウンエースワゴンです。
途中で加えたマスターエースサーフとの連合で、ライバルたる日産のサニー/チェリー/ダットサンバネットらとフルキャブオーバー型1BOX市場を賑わす時代が長く続きました。
変革の波を起こしたのは当のトヨタ。フルキャブ型の悩みだった衝突時の安全性や乗降のしにくさを、1990年の初代の親エスティマで、エンジンを75度寝かせてミッド搭載、ノーズ付きの先進&斬新セミキャブスタイル化で一挙解決を図ったのです。
90年代突入目前に、自動車の安全性向上の機運が高まると、日産はバネットをエンジン縦置きミッド搭載のまま前にノーズを設けたセミキャブ型・初代セレナ(91年・当時バネットセレナ)に置き換え、93年には三菱が、パジェロ譲りの駆動メカを用いたエンジンフロント縦置きのデリカスペースギアを発進。
95年にはマツダがボンゴフレンディを、初代セレナに似たメカレイアウトで送り出しました。これらライバルにトヨタが充てたのは、92年に追加した、幅を5ナンバー枠に収めた子エスティマ(ルシーダ/エミーナ)です。
いっぽうでトヨタは95年にセミキャブFR駆動のグランビアを発売していますが、その間もフルキャブ型に固執していたエース兄弟は、96年10月にようやくセミキャブFR駆動に転向、同時に「ライトエースノア」「タウンエースノア」に改名しました。
その少し前(96年5月)には、普通車フルキャブ経験のないホンダが初代ステップワゴンでいきなりFFを引っさげ、99年にはセレナもFF化…これら5ナンバーFFミニバン勢に挟まれたこの時期のトヨタは、おそらく2代目エスティマ(2000年)をFFで開発中だったはずで、ノア兄弟のセミキャブFF化はさらに後の2001年11月のことでした。
いまでこそ5ナンバーサイズミニバン市場を独走するノア/ヴォクシーですが、実はFF化の最後発組だったのです。このときに冠称を外し、当時のカローラ店向け「タウンエースノア」は「ノア」に、「ライトエースノア」だったネッツ店扱いモデルは「ヴォクシー」に改称。以降、「ノア/ヴォク」の愛称で親しまれ、現在に至ります。
ちなみに3代目にはもうひとつの兄弟車「エスクァイア」を加えることになるほど、その人気っぷりが伺えます。
あれから約20年を経た今年2022年1月13日、新型ノア/ヴォクシー登場。今回で4代目を数えることとなります。
●トータル11バリエーション。選択は装備表吟味を怠りなく!
今回の「リアル試乗」には、ヴォクシーの最上級S-Z、それもあえてガソリンモデルを選びました。
いまどきの試乗記ならハイブリッドを選ぶのが順当なのでしょうが、ハイブリッド車の試乗記なんて掃いて捨てるほどあること、純粋なガソリンエンジンの最新技術を確かめられること、ガソリン車より30万円は高くなるハイブリッドモデルの車両価格に、購入段階でガソリン車か、ハイブリッド車かを迷う層は必ずいるだろうという理由からです。
前回のカローラクロス試乗に続き、期せずして同じトヨタ車となりました。
2020年5月、それまで4系列だったトヨタ販売網…トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店を統合し、1チャンネル体制がスタート。この時点では前後デザインを変えただけの兄弟車を廃止するという話が伝えられていましたが、せっかく定着した、オーソドックスなノアに対するクールなヴォクシーのイメージ&ネーミングを捨てきれなかったのか、結局は「ヴォクシー」も継続することにした模様です。このぶんだと、いまや特別仕様車だけになってしまっている「ヴェルファイア」も息を吹き返すかも知れません。
ヴォクシーの基本機種構成は、値段の安いS-Gと高いS-Zの2種。どちらも2列めがキャプテンシートとなる7人乗りが基本ですが、安いS-Gには2列目が3人がけのベンチシートとなる8人乗りも用意されます。
メカニズムとしては、S-G、S-Zそれぞれにガソリン、ハイブリッドが用意され、さらにそれぞれにFWD、4WDを用意。7人乗りは2×2×2で8種、S-Gの8人乗り2×2の4種、総計12バリエーションになるはずですが、ハイブリッド8人乗り4WD(E-Four)のS-Gが存在しないので、12-1のトータル11バリエーションとなっています。
機種を選ぶ際には装備表を、一時期の携帯電話やスマートホンの契約プラン選択と同じくらいじっくり見る必要があります。別にダマされそうな怪しい点があるわけではないのですが、S-G、S-Zの違いはもちろんのこと、同じ機種同士でもガソリン版とハイブリッド版とで異なる点が少なくなく、うっかりの思い込みで勘違いしたまま契約しかねない点もあるからです。例えばS-Zのガソリンとハイブリッドとでは、AC100V電源のような、ハイブリッドならではのデバイス有無はすぐわかるにしても、オプションの「トヨタチームメイト」の内容が一部異なる、センターコンソールの形状が変わるなど、おそらくはバッテリー搭載の影響と思われる違いがあります。
いまどきのクルマのことですから、ひとまず新しい3列シート車がほしいというひとは、安いS-Gを選んでもまちがいはないでしょう。ガソリン、ハイブリッド同士で多少異なる点はありますが、上位S-Zで標準またはオプションとなる品の多くはS-Gでも選ぶことができ、S-Gを選ぶと新車購入時に付けられないのは、17インチアルミ、ウエストラインのステンレスモール、先進ライト、薄暮灯、バックドアのイージークローザー、そしてカラーヘッドアップディスプレイ&デジタルルームミラー(ドライビングサポートパッケージ)くらいのものです(「くらい」といったけど、数えればけっこうあるな…)。
これらの前述装備も要り、かつ、最新&先進デバイスをも味わいたい向きはS-Zを選ぶべし。特に最新版Toyota Safety Senseの働きはいまのところ国産車の安全デバイスではいちばん進んでいるであろうという仕上がりで、これは別の項で解説するつもり。
車両本体価格は、S-Gが309万~366万円、S-Zが339万~396万円。同じ機種同士での比較で、ハイブリッドFFはガソリンFFの35万円高、ハイブリッド4WD(E-Four)はガソリン4WDの38万円高。おもしろいことに、2列めのシート形状・機能が異なるにもかかわらず、S-Gの7人乗りと8人乗りとで価格はまったく同じ。どの機種も価格の相違はパワートレーンや駆動方式に依存しているわけです。
●ノアよ、ヴォクシーよ、お前たちもか…
冒頭文を読んで「おや?」と思った方は流し読みをせず、ひと文字ひと文字にきっちり目を配っている方です。「5ナンバーサイズミニバン」と書きましたが、正確には元・5ナンバーサイズミニバンとするべきで、ノア/ヴォクシーも今回からいよいよ5ナンバーサイズ枠(全長4700mm以下、全幅1700mm以下、全高2000mm以下)を超えて3ナンバーサイズに踏み込むこととなりました。アルファード(とヴェルファイア)やエルグランドといった車幅1850mm組があるからこそノア/ヴォクシーら良心的5ナンバーサイズ勢の存在価値が光っていたわけで、新型ユーザー予備軍の中に旧型の1695mm幅をありがたがる、筆者のような5ナンバーサイズ信仰層がいたとしたら落胆するひともいるでしょう。
結論からいうと、今回走ったシチュエーションの中に、新型の拡幅35mmで困った点は、3ナンバーアレルギーの筆者でさえありませんでした。35mmていどなら許容範囲。クルマの3ナンバー化で筆者が恐れているのは、今回の3ナンバー化を機に、先々5代目、6代目と進むにつれてタガが外れたようにサイズが肥大化しやしないかということです。モデルチェンジを重ねるにおよび、いつしかアルファードを超えるようなことがあっては困るわけで、筆者は3ナンバー化以後もモデルチェンジを繰り返すたび、20mm、30mmと小刻みに拡幅を続け、気づいたら車幅1800mm超のクルマばかりになってしまっていたということも、クルマの売れ行き不振を招いている理由のひとつだと思っています。
外形寸法は、全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm…先代初期型に対して全長は同じ、全高は70mmアップ、車幅は35mmプラス、全長と全高は従来の5ナンバーサイズにとどまっており、先々は心配なものの、今回はこのサイズで扱いにくい点は一切なかったことはさきに述べました。2代目までは全体的にぷくっと膨らんだスタイリングでしたが、先代からは平面基調のスリムなボディになり、新型もその路線を継承、スッキリしたスタイリングに仕上がっています。
筆者はいつでも最低地上高、というよりもサイドシルやバンパー裾と路面の距離の短さを気にしているのですが、コンビニエンスの駐車場へ入るときの車道との段差、駐車スペースへの前向き駐車時のタイヤ止めブロックとの関係を思うと、フロントバンパー下の高さは不足ではないかと思っています。今回からバンパー下高さの計測も加えたのですが、そのクリアランスたるや、筆者実測で197mm。これでもカタログ上の最低地上高(140mm)よりも、前席・後席サイドシル(166mm、188mm)よりも大きいのですが、場所によってはせっかくの新しいクルマを「ガリッ!」とこする可能性が…これは車庫入れ性の項で触れていきます。
外観を見てみると、オーソドックス路線のノア、クール志向のヴォクシーという区分けは今回も継続しています。実はノアの顔にも「新スタンダードデザイン」「エアロモデル」の2種あるのですが、「スタンダード」の顔だって初期のノアからするとずいぶんいかつい顔になっています。今回のヴォクシーもデザイナーがやりたいだけやったかのようなデカい顔。この種の顔を見るにつけ、「下品」「こういうクルマに近づきたくない」「デザイナーは何を考えているのか」など、特にYahooクルマ関連記事の下のコメントに出てきますが、当のトヨタデザイナーとてそんなものは100も承知で気にしてはいないでしょう。筆者にいわせればデザイナーだって下品で大口開けたような造形よりは、品格あるデザインをしたいはずで、ならばとおとなしやかな顔にしたらしたで、「没個性的になった」「いまひとつ存在感が」の評が挙がり、たちまち売れ行きにブレーキがかかるに違いない…何だかんだいいながらも、いまの日本ではこのような顔にしなければ売れない市場構成になっているのです。
ただ、筆者は今回のヴォクシーは下品とは思っておらず、大口を開けているようには見えますが、フード下両端の細いランプの効果との合わせ技で、なかなか精悍な顔をしていると思っています。人間でいえば、昔はひたすらワルの道を突っ走っていたけど、人生を重ねていくうちにワルっぷりも薄れ、だんだんキリッとした大人になった感じ…いるでしょ? スーツでビシッとキメて、いっけん顔つきも優しそうだけど、よ~く見ると目だけは鋭く、眉毛だけは剃っていて「このひとこう見えて昔はワルだったんだろうなあ…」と思いたくなるひと。これはこれでひとつの魅力で、ここが今回ヴォクシーを選んだ理由。ふだんデザインなどどうでもいいと思っている筆者がこのような感想を持つことはめったになく、少し前だったらまちがいなくノアを選んでいたでしょう。
ただ、バンパー幅いっぱいに広げたブラック部の輪郭は、角や斜めの部分以外は定規で引いた線のようで単調。これでも充分大きな顔をしていますが、もう少し練り込んでほしかったと思います。そうはいっても、あと2~3年も経てばこの顔すらおとなしく見えるようになり、いずれまた別の迫力フェイスを出してくるに違いありません。この傾向はまだしばらく続くでしょう。
そのフロントバンパー、パッと見には確かに開口部が大きく、バンパーとしての役割に疑問を抱きそうになりますが、よく見ると口が開いているのはごくわずかで、開口部に見えるほとんどの部分はブラック塗装してあるだけ。ナンバープレート左右や開口部両端の網目模様部はふさがっています。むしろ疑問なのはヘッドライトがバンパー内に据えられていることで、衝撃を受けるのが本分のバンパー内にヘッドライトを仕込んだら、バンパーが衝撃を受けたときに光軸まで狂ってしまわないか。このへん、いまのデリカD:5や、かつての日産ジュークにも抱いていた共通する疑問で、バンパーを外してもランプ筐体は車体に残るのでしょうが、最初に顔を見たときに心配した点でした。
そのランプをバンパー内に移した効果ではありますが、フード直下には細いスリットの両脇に収まった車幅灯がキリッとした表情を生み出しています。バンパー内のライトのタテヨコの違いはあっても、フロントサイドに立つと、全体的にはどこかデリカD:5を彷彿させますが…
三角窓を拡大。フロントピラーにホンダフィットほどの工夫はありませんが、全体的に細くしようと努めた形跡があるのと、フロントガラス&両脇ピラーが遠いため、実質的に細くなった効果があります。ピラーが太いのは困りますが、ドライバーの目から遠い近いによって変わってくるものでもあります。
ピラーが遠いということはインストルメントパネル(以下インパネ)の奥行きもあるというわけで、ついでにフードの可視範囲も小さいことから、自車のおおよその幅、先端をつかむまでには慣れが必要です。
●広大なガラス面積で開放的なインテリア
いいと思ったのはフロント視界。筆者などは、ガラスは大きければ大きいほどいいと思っていて、透明のボディができないかと思っているくらいなのですが、ヴォクシーのフロントガラスは下方までよく伸びていて、上半身が前方にさらけ出しになったような感覚を抱くほど開けた視界になっています。乗った直後は、筆者でさえ、ジェットコースターの先頭席に座ったときにも似た怖さをほんのわずかに覚えたくらいですが、5~10分走っているうちに慣れました。慣れちまえばこっちのもの、逆に他のクルマに乗り換えたら普通のクルマでさえ視界がせまく感じるかも知れません。着座高さに対してサイドガラス下端が低いのも○でした。
筆者はひと頃のホンダ車のような、「メーター以外はすべてトレイ」というインパネがいいと思っており(全体が低く抑えられて広く感じられるため)、ヴォクシーのインパネもトレイ状になっていて大いに気に入ったのですが、運転席から見ると写真で見たときほどの開放感はありません。メーターコラム左と一体の大きなナビ画面が、助手席側からやってくるトレイを塞いでいるからです。ディスプレイオーディオを標準化する流れである以上、誰がどう造形してもこのようになるのでしょうが、もしこのモニターがなかったら相当開放的な見てくれになったことでしょう。
そのトレイ部手前と向こう部分は、かなりやわらかいパッドで覆われています。
それにしても、よくぞこのような造形にしてくれたものよ! というのも、助手席エアバッグが常識になって以来、便利なトレイタイプは姿を消し、ヘンにボリュームのあるインパネしかなくなった時期が長く続いたからです。助手席側トレイも単なる平面になっているわけではなく、かなり深くえぐった底にもの置きを設置。それだけではなく、上面部には最初気づかなかったふた付きのボックスまで設けるなど、助手席エアバッグとの両立に苦労したと思われる工夫がありました。
ナビ下に空調吹出口、その手前のコンソールにはシフトレバー、その右には電動パーキングやドライブモード選択などのスイッチが並んでいます。先進安全デバイスなど、いったんONにしたらしっぱなしという機能はメーター内ディスプレイで行うため、先進機能満載のクルマの割にはスイッチの数はうまく抑え込んでいます。このへん、先回のカローラクロスと同じでした。
メーターは、先回のカローラクロスと基本は同じで、裏側の基盤も共通のものでしょう。アナログ、デジタルが切替可能な速度計を表示する7インチのディスプレイを正面に、その左に回転計、右には上下に燃料計と水温計をレイアウト。速度計は見やすいアナログ表示にて使っていましたが、このへんはお好みに応じて使うべし。カローラクロスで撮り忘れたデジタル表示のメーター写真も載せておきます。
本当はこの種のクルマこそ、2代目まで起用していたセンターメーターが合うと思うし、筆者もセンターメーター賛成派なのですが、なかなか支持が得られないようで…
●走り
ガソリン版ヴォクシーに搭載されるエンジンはM20A-FKS型1本で、最高出力170PS、最大トルク20.6kgmをひねり出す直噴D4-S仕様。クルマがクルマで、1670kgもの重量級ですが、パワーウエイトレシオで見れば9.8kg/psとごく一般の乗用車並み。出足や加速は1500c級の乗用車かそれ以上のフィールで、1.7t弱の重さを感じさせません。
ハイブリッドではないガソリンエンジンですから、アクセルを踏み込めばダイレクトに回転が上昇し、CVTも呼応。適度なギヤ…ではなく、プーリーが適切な変速比を選んでいく。発進からトルクフルなドライバビリティは、低回転から湧くトルクをうまく増幅するCVTとの相乗効果です。街乗り低中速から高速走行、山間道…どのシーンでもエンジンとCVTはうまく協業しています。
いまやどのクルマも仕上がりがよくなり、そのクルマならではの印象を記すのが難しくなっているのですが、その意味ではヴォクシーも特筆すべき点は見当たりませんでした。
そのCVTは、シフトレバーをゲート右に寄せ、レバーの前後でシフトアップ/ダウンするタイプの10速のマニュアルシフト付き(10速シーケンシャルシフトマチック。)。ハンドル向こうのパドルシフトによるクルマもありますが、筆者はレバー派。とはいえ、実際にどれほどのひとが普段使いしているのか疑問に思うのですが、山道の下り坂でセレクティブにエンジンブレーキを効かせたいときには有効で、下り坂ではクルマ任せにせず、積極的に使いたいところです。
100km/h時の単なるDでのエンジン回転は1800rpm、マニュアルモード10速めでは2000rpmでした。他のシフト、80km/h時での回転数は写真の中の表にまとめましたのでごらんください。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤがトーションビーム式で、タイヤのせいもあるのでしょうが、少々コツコツ感を抱かせる乗り味。エンジンの静粛性は高いのですが、空間が大きいことによる共鳴か、ロードノイズがわずかに耳につきました。これはヴォクシーと同じサスペンションなのに、乗り味が格段に良く、ハイブリッドであることを差し引いても音が静かだった、前回のカローラクロスの記憶が自然と比較対象になってしまっている影響です。この点、ヴォクシーには誠に気の毒なのですが、カローラクロスを知らなければこれらについて気にすることはないでしょう。
カローラクロスとは逆に、背高の箱型形状にもかかわらず、少なくとも筆者が乗っている限りは、高速道路で風切り音が聞こえなかったのは感心したところです。
カローラクロスといえば、おもしろかったのは、ヴォクシーに乗っているほとんどの間、どこかまだカローラクロスに乗っているように錯覚したことです。全高も着座位置も高いヴォクシーなら、高速路での車線変更、山間道でのカーブ進入では揺れやロール(横傾き)は大きいはずなのに、その度合いはカローラクロス並み。低重心化は最近の国産車の傾向ですが、ヴォクシーでもそれを目指していたのならそのねらいは成功していると見ていいでしょう。カローラクロスの次にヴォクシーを採り上げたゆえに得られた感触でした。
トヨタ車のパワーステアリングのセッティングは、ポピュラーモデルについてはこれでいこうと決め打ちしているのかも知れません。感触はやはりカローラクロスと同じで、適度な反力を持ちながらも軽く、初めから終わりまで実になめらかにまわせます。ハンドルは反力があることを前提に軽ければ軽いほどいいと思っている筆者でさえ、もうちょい反力があってもいいと思うほど軽いものでした。
駐車場スタート時は軽く、車道に出て速度上昇するにつれて重くなることがよくわかる車速感応式ですが、高速走行時にはもう少し重くしてもいいのではないか…ハンドルの重い軽いの感じ方、好みはひとそれぞれですが、油圧式ではない、せっかくの電気モーター式なのですから、そろそろ3段階くらいでアシスト量を選べる可変式が出てきてもいい頃だと思っています。
ハンドルの回転数は筆者目測で、左に1回転+190度、右に1回転+185度ほど。合計2回転+15度といったところで、個体差なのか、左右でわずかに異なっていました。
ハンドルを右いっぱいに切ったときのタイヤ切れ角は写真のとおりで、最小回転半径は5.5m。205mm幅タイヤ、ホイールベース2850mmのクルマとしては順当なところでしょう。ハンドル径は、筆者にはやや小さめに感じる、直径365mmでした(筆者実測)。もうちょい大きくてもいいかな。
シートはS-Zが合成皮革とファブリックのコンビネーション。ファブリック部はつるつるしたもので、座り直しのしやすいものでした。上下調整は全体のリフトのみにとどまるシンプルなものですが、その調整範囲が大きいのはいいことです。前後シートの着座高さなどは写真内の数値をごらんください。
前席シートのスライド量は不足気味かも知れません。というのも、身長176cmの筆者は手足の長さのバランスが悪く、身長に対して足が長いため(自慢じゃないよ! クルマを選ぶときには切実な問題となるのだ)、どのクルマもスライド位置は後ろ寄りで使うことになるのですが、ブレーキペダルに合わせて決まった場所は、自ずとスライド最後端位置になりました。さらなるノッポはこのあたり、見落とさないようにしたいところです。
やはりあったほうがいいと思うのは肘掛け。前席にはセンター側に1本ずつ、2列めのキャプテンシートにはそれぞれ両腕用がついています。不思議なのは好みの角度で固定できるのが2列めだけである点。きっちりした姿勢で座る運転席こそ水平固定してほしいのに、前席用を下ろしたときの角度は、背もたれのリクライニング角度で決まってしまいます。
2列めの座面は前端から下に向かってシート下を覆うようになっていますが、これは座面横のレバーを操作するとばね仕掛けで浮上するオットマン。無段で調整でき、膝から先を休めるのにありがたい装置。
3列目が1、2列めに対して小さめなのは仕方ないでしょう。左右跳ね上げ機構を入れるとなると、座面や、特に背もたれが小さくなるのもやむなし。そもそも筆者は3列目までも1~2列めと同等のシートサイズ、空間が必要なら、いまのアルファードでも足りないと思っています。それでも背もたれにはリクライニング機構が入っており、完全に冷遇されているわけではありません。
次回はToyota Safety Senseについて解説。最新版だけになかなかのものでした。
それでは!
(文・写真:山口尚志 モデル:Mai)
【試乗車主要諸元】
■トヨタヴォクシー S-Z (6BA-MZRA90W-BPXRH型・2022(令和4)年型・2WD・ガソリン・自動無段変速機・ホワイトパールクリスタルシャイン)
●全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm ●ホイールベース:2850mm ●トレッド 前/後:1500/1515mm ●最低地上高:140mm ●車両重量:1640kg ●乗車定員:7名 ●最小回転半径:5.5m ●タイヤサイズ:205/55R17 ●エンジン:M20A-FKS(水冷直列4気筒DOHC) ●総排気量:1986cc ●圧縮比:- ●最高出力:170ps/6600rpm ●最大トルク:20.6kgm/4900rpm ●燃料供給装置:D-4S(筒内噴射+ポート燃料噴射) ●燃料タンク容量:52L(無鉛レギュラー) ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):15.0/11.4/15.3/16.9km/L ●JC08燃料消費率:- ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:339.0万円(消費税込み・除くメーカー/ディーラーオプション)