スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第5戦スポーツランドSUGOの「レース・フォーマット」

■SF今季第5戦は6月17日-18日の週末。4週前の優勝者は九州→フランス→仙台と転戦

スーパーフォーミュラ第4戦スポーツランドSUGO
こうしてピットガレージ内に搬入されたマシンはすでにチームの工場で基本となる各部・各輪のセットアップを調整済み。しかし現場でも刻々と微調整を進めるが、その時はタイヤと違って変形せず、粘着せず、正確なアライメント(各方向の角度など)が測れる「ダミーホイール」を装着する。

日本のモータースポーツ界のトップカテゴリー、スーパーフォーミュラ(SF)は、5月下旬のオートポリス戦から4週間の間隔、その間には富士24時間、さらに先週はル・マン24時間レースも開催…と、走り走らせる側にとってはもちろん、観る側にとってもぎっしり詰まったスケジュールの中、九州から本州を4分の3ほど縦断、仙台近郊のスポーツランドSUGOへと舞台を移して今年第5戦が開催されます。
オートポリス戦で優勝した平川亮は、6月はフランスへ渡り、トヨタGR010・8号車のドライバーとして彼自身にとっては、この世界で最も著名なレースでの総合優勝を手中に収め(ここSUGOで金曜日に行われた記者会見でもまだ「実感が湧かない…」と彼らしく言っていましたが)、そこからとんぼ返りする形でSF19のコックピットに収まります。トヨタ=GRのル・マンを含む世界耐久選手権参戦ではチームメイトの小林可夢偉も同じスケジュール。ル・マンのレース終了後は2人同乗、可夢偉選手の運転でパリに移動したそうです。

スーパーフォーミュラ第4戦スポーツランドSUGO
Team IMPULのピットでは黒の外装をまとう20号車が、ル・マン24時間レースを制覇して戻ってきた平川を待っている。その奥には僚友、関口の19号車が並ぶ。

彼らも含めた21名のドライバーたちが100分の1秒、いや一瞬一瞬では1000分の1秒単位の車両運動を競うスーパーフォーミュラ第5戦の舞台となるスポーツランドSUGOは、蔵王連山から太平洋に向かう本州東北部の山並みの中に広がるサーキット。前戦のオートポリスと同じように、山間地の斜面にレイアウトされているので、上り下りの勾配がコース各所にはっきりと現れているのが特徴。SUGOはとくにコース前半のタイトなセクションが上りで、ここでは回り込む動きの中で後輪がマシンを押し出す”トラクション”が重要。その先のバックストレッチは長く、しかも一気に下って最高速に達した先は鋭く曲がり込む右コーナーの「馬の背」。そこからすぐに左-左と2段階回り込む難しい「SPコーナー」が待っています。ここはコーナーを囲んで見下ろす形の観客席があり、おススメの観戦ポイントのひとつ。そこからさらに下りが続き、右にターンしはじめた先は”すり鉢”状の最終コーナー。旋回速度も高く、回り込む旋回の中でマシンとそれを操る人間には遠心力の一部が旋回内側に傾いた路面に向かって作用する、つまり下向きに押し付けられる「G」が加わる、日本のサーキットの中では珍しいコーナーです。そしてその先にはSUGO名物とも言える上り10%勾配のメインストレートが待っているので、この最終コーナーは縦Gを受けつつ横にも最大摩擦状態で踏ん張り、さらに駆動力もパワーユニットが絞り出せる最大限のものが加わり続けるという、タイヤにとって、とりわけ左リアタイヤに厳しいコーナリング〜脱出加速となる場所なのです。

スーパーフォーミュラ第4戦スポーツランドSUGO
スポーツランドSUGO インターナショナルレーシングコースの平面図(スポーツランドSUGOのHPより)

このスポーツランドSUGOもまた山間地ゆえに天候が変わりやすい。我々も何年か通い続ける中で雨、霧を何度も経験しています。しかも6月、2021年のスーパーフォーミュラ第4戦も同じ時期で土曜日の予選は雨の中でした。今年も東北地方に先日「梅雨入り宣言」が出ていますが、でも今週末の気象予想は「晴れ〜曇り」。ドライ路面の戦いになりそうです。そこで今回も、ここSUGOでのスーパーフォーミュラ第5戦がどんな「段取り」と「約束事」で戦われるかを整理しておきます。現地で、あるいはリモートでの観戦の”参考”にしていただければ、と。

●スーパーフォーミュラ 2022年第5戦 スポーツランドSUGO「レース・フォーマット」

スーパーフォーミュラ第4戦スポーツランドSUGO
金曜日のピットガレージでは各車各様にマシンとピット内設備の準備が進められている。55号車はエンジンカウルを外し、車載のデータロガーとノートPCを接続して何やらデータチェック中。

・レース距離:190.09km (スポーツランドSUGO インターナショナルレーシングコース 3.586570km×53周)
・最大レース時間:70分 中断時間を含む最大総レース時間:120分
・タイムスケジュール:土曜日/午後2時00分〜公式予選、日曜日/午後2時30分〜決勝レース
・予選方式:ノックアウト予選方式

⚫︎2グループ(A組・B組)に分かれて走行する公式予選Q1、そのそれぞれ上位6台・計12台が進出して競われる公式予選Q2の2セッションで実施される。
⚫︎公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。そこから10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行。
⚫︎公式予選Q1のグループ分けは、第4戦決勝終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
⚫︎Q1の組分け(車番のみ記すと…) A組:3,6,7,15,20,37,39,50,53,64(10車) B組:1,4,5,12,14,18,19,36,38,55,65(11車)
⚫︎Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
⚫︎Q2の結果順に予選1~12位が決定する。

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック、ウエット1スペック

ドライタイヤは、設計、構造・素材などについては、2019年2スペックあった中の「ソフト」が2019年以降使用されてきましたが、今季に向けてリアタイヤのみショルダー部の断面形状(プロファイル)がちょっと「ラウンド・ショルダー」に変更されている。これによって、コーナリングに入る最初の「過渡的な運動」で、リアタイヤに「体重を乗せていく」中から摩擦力が立ち上がるプロセスが穏やかになるはずだが、ドライバーにとっては「踏ん張り」が現れるが遅れる、という感触につながります。基本的なサイズが変わらず、もちろん骨格(カーカス)構造も、トレッド・コンパウンドも変わっていないので、一気に「体重を預けて」旋回に入ってしまえば、グリップレベルは変わっていない。でも踏ん張り始めるところの過渡特性の変化を敏感に感じ取っているドライバーもいる、とのこと。

それ以上に、レース展開への影響が大きそうなのは、デグラデーション(タイヤの消耗によってラップタイムが低下する、その変化)の現れ方。ここまでドライ路面で決勝レースが行われた3戦(富士、富士、オートポリス)では「去年までのタイヤよりでデグラデーション傾向が現れるのが早い」という傾向が見えてきています。つまり、70〜100kmほど走ったところでラップタイムの落ち込みが現れる、ようです。

●決勝中のタイヤ交換義務:あり

⚫︎スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
⚫︎先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること(スポーツランドSUGOの第1SCラインは最終コーナーからの上り直線、ピットロード分岐で道幅が広がり始める少し手前に引かれた白線。ちなみに第2SCラインは今年また変更されたピットロード出口(後述)レーンが本コースと合流する交差部の路側両側に引かれた白線)。
⚫︎タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
⚫︎レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合は、交換義務の対象として認められる。
⚫︎レースが(42周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
⚫︎決勝レースをウエットタイヤを装着してスタートした場合、およびスタート後にドライタイヤからウエットタイヤに交換した場合は、このタイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウエットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行った時に限られる。

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて

・ピットレーン速度制限:60km/h
・ピットレーン走行+停止発進によるロスタイムは…
SUGOは一昨年のシーズン後からピットビルとピットレーンの改修に着手。2期に分けた工事が今年シーズンを前に完成しました。これでピットロードの走行レーン、作業レーンともに拡幅されて、少なくとも参加台数21台のスーパーフォーミュラの決勝レースにおけるピットストップでは混雑、交錯は避けられそうです。同時にピットロードの出口側も、1-2ko〜ナーの内側をタイトに回り込むところは変わらないものの、その先で本コースに合流するレイアウトを変更。これが昨年は、3コーナーの外側にまでピットロードを延長して、コーナー立ち上がり部に外から合流する形にしたのですが、ドライバーのヘルメット脇まで衝撃吸収構造体が盛り上がっている今日のフォーミュラマシンでは横後ろを向いて本コースを走ってくる車両を確かめることができず、かなり走りにくくなっていました。そこで今年は合流点を手前の3コーナー入口側に再変更。ここで「レース・フォーマット」検討としての問題は、ピットレーンを時速60km/hで走行し、途中に停止・発進が入った走行と本コースを駆け抜けたる場合の時間差がどのくらいあるか。これが「走ってみないとわからない」状況です。昨年は28〜29秒あったと推算されるので、この新しい出口レイアウトだともう少し差が小さくなって26〜27秒ほどかと思われます。

スーパーフォーミュラ第4戦スポーツランドSUGO
再度のレイアウト変更が行われたピットロード出口・本コースへの合流部。奥に見えるのが2コーナーで向かって左手からマシンが走ってくる。その内側の細い通路がピットから出たマシンが走るピットロード。手前下で右に曲がり込んでいる3コーナーに外から流入してゆく。その左手前、救急車を先頭にオフィシャルカーが並んでいる通路が昨年のピットロード出口。今後も2輪はこちらを使用する。

これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが1周弱で失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で34秒、若干のマージンを見て35〜36秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となる。この時間差が、ピットストップによって順位変動が起こるかどうかの目安になるのです。

●タイヤ使用制限:ドライ(スリック)タイヤに関して

・大会週末2日間を通して、各車に新品・3セット、前戦までに入手したものの中から「持ち越し」3セット。新品タイヤは予選Q1、Q2、そして決勝スタートにそれぞれ装着、が基本。予選でQ2進出を逸した車両は、決勝レース途中で交換する2セット目にも新品が残るが、Q2まで走った車両はこれが予選を走った「1アタック品」になる。…というのが通常のパターンなのですが、先ほどピットを回って視認したところでは「持ち越し」セットにも新品が複数セットある車両がかなりありました。シーズン前のテストで数日が雪や雨でドライタイヤを使わず、また第3戦・鈴鹿が決勝レースが雨天、ウェットタイヤを使ったので、ここでも新品または予選を走っただけの「1アタック品」を皆が残していた。そうした中でうまく”やりくり”して、まだ手持ちの新品セットを残している、ということなのです。「持ち越し」セットにニュータイヤがあれば、土曜日からドライ路面でも、今回も新品もしくは既走行が少なくコンディションの良いタイヤでフリー走行から走り始め、その後半で新同品を投入して予選シミュレーションができる、はずです。

スーパーフォーミュラ第4戦スポーツランドSUGO
ピットガレージの裏には明日から使うタイヤがずらりと並ぶ。ドライタイヤだけでも6セット・24本。それぞれに「セットナンバー」が手書きされていて、これでいつ、どれを履くかを管理する。トレッド表面がツルツルで中央周方向にプリントした数字が見えているのは走行履歴のない「ニュータイヤ」。ここに見えているのは全てその新品。

走行前のタイヤ加熱:禁止・決勝レース中の燃料補給:禁止

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(122.1L/h)

燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下します。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

●オーバーテイク・システム(OTS)

・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」

⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎作動開始後8秒経過してからロールバー前面のLEDおよびテールランプの点滅開始。ロールバー上の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー上のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。 OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持される。概算で出力が60ps近く増える状態になる。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされる。
⚫︎富士ラウンドから、予選で各車・人がアタックラップに入っていることを知らせるべく、このロールバー前面LEDを黄色に点滅させる「Qライト」が導入されている。

これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ第4戦 オートポリスの2日間を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文・写真:両角 岳彦)

【関連リンク】

スーパーフォーミュラ公式ウェブサイト「2022年のLIVE中継について」https://superformula.net/sf2/headline/34862
https://superformula.net/sf2/headline/34862

SF公式YouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/c/superformulavideo/featured

SF公式サイト「ライブ・タイミング」https://superformula.net/sf2/application

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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