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■伝達効率90%以上を実現したCVT
3年ぶりにリアル開催された最新自動車技術の展示会「人とくるまのテクノロジー展2022(主催:公益社団法人 自動車技術会)」では、電動化やADAS(先進運転支援システム)についての最新テクノロジーを見ることができました。
しかし、エンジンに関わる技術が過去のものになっているわけではありません。もともと日産と縁の深いトランスミッションの大手サプライヤーである「ジヤトコ」のブースには、日本のお家芸ともいえるCVTの究極形が展示されていました。
CVT-Xと名付けられたこのユニットは、見ての通りエンジン横置きの前輪駆動用です。そのスペックはトルク容量330Nm、変速比幅8.2と発表されています。中・大型CVTとしては最新鋭といえる性能を持っているものですが、注目は伝達効率90%以上を実現しているという点にあります。
CVTは無段変速によるスムーズな加速、エンジンの高効率ゾーンを使い続けることのできる特徴などから、市街地走行での省燃費につながるトランスミッションといわれています。ただし、高速巡行などのシチュエーションでは他のトランスミッション(ステップAT、DCTなど)に比べて伝達ロスが大きく、その点ではエコではないと否定的に見られることもありました。
ところが、ジヤトコのCVT-Xは、伝達効率90%以上とCVTとしては最高水準といえるレベルを実現したといいます。はたして、ブレークスルーにつながった技術とはどのようなものなのでしょうか。
人とくるまのテクノロジー展の会場で同社のエンジニア氏に伺ったところ、CVT-Xの大きな特徴はピッチの小さな高性能バリエーター(チェーン式ベルト)と、オイルポンプのハイブリッド化にあるということです。
オイルポンプのハイブリッド化というのは、どういうことでしょうか。
基本となるオイルポンプについては、従来同様にエンジンのクランク出力によって動かす機械式としながら、高負荷状態での油圧を確保するべく、電動オイルポンプを追加しているという構造になっているという意味です。
エンジンの出力ロスになる機械式オイルポンプを小型化しつつ、高速走行時に足りないぶんは電動オイルポンプでアシストすることで、全体としての駆動ロスを減らしたことは、伝達効率90%以上の実現に大いに貢献したということです。
ちなみに、電動オイルポンプの電圧は12V、高電圧ハイブリッドでなくとも組み合わせることのできるCVTというのも注目点でしょう。
●新型Zの9速ATカットモデルも公開された
ジヤトコが会場に持ち込んだ新型トランスミッションは、CVT-Xだけではありません。新型フェアレディZに採用されるという、9速ステップAT「JR913E」も展示されていました。
こちらの特徴は、トランスミッションケースをマグネシウム製としていることで、縦置き用9速ATとしては圧倒的な軽さを実現したのが特徴ということです。
新型フェアレディZでは、古典的なスポーツドライビングを楽しむべく6速MTを選ぶか、2020年代のスポーツカーらしい選択として9速ATにするかで悩んでいる人もいるかもしれませんが、マグネシウムケースを採用した軽量な9速ATを積んでいるとすれば、AT車に心惹かれるかもしれません。
このように、エンジンを活かすトランスミッションを展示している点に注目すると、ジヤトコは電動化時代に距離を置いていると感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
2010年にはFRハイブリッド用トランスミッション「JR712E」を開発していますし、最新の電気自動車である日産アリアにも、モーターに組み合わせる減速機用部品を供給しているといいます。
●コア技術は電動化時代にも生きる
そうした経験を活かして生み出したのが、「e-Axle」です。インバーター・モーター・トランスアクスルを一体化したeアクスル、e変速機と呼ばれるパーツは、駆動系に強いサプライヤーにとってはビッグビジネスになるものとして世界的に注目されていますが、ジヤトコも2種類のe-Axleを人とくるまのテクノロジー展のブースで展示していました。
同軸タイプと3軸タイプが並べられていましたが、いずれもATやCVTで培ってきたコア技術が生かされているということです。
とくに、モーターの中心軸をドライブシャフトが貫通する同軸型については、ジヤトコが得意とするギア技術あってこそ実現できるものということで、小型軽量化と高効率化を両立しているというのがアピールポイント。
会社の成り立ちからして、ジヤトコは日産や三菱自動車と縁が深いトランスミッション・サプライヤーです。e-Axleの展示は、ルノー・日産・三菱アライアンスにおける電動化を、さらに加速させるものと捉えて差し支えないでしょう。