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■フランス・パリのクルマ、DS 9のデザインを詳しく見てみる
DSオートモビルのフラッグシップとして登場した「DS 9」。フランスの文化や建築、ファッション様式までをも取り込み、フレンチラグジュアリーカーの復興を担うとする同車の魅力はどこにあるのか? あらためてエクステリアデザインを検証します。
●コーチビルダーをオマージュする
フラッグシップらしく4940mmの全長を誇るボディは、一方で1460mmに抑えた全高と、滑らかに弧を描くルーフラインにより実に伸びやか。
トランクを持つセダンながら、あたかもクーペに見えるフォルムは、先行した「DS 3 CROSSBACK」や「DS 7 CROSSBACK」よりも圧倒的に優雅で流麗です。
フロントの自慢は新世代の「DSウィング」ですが、左右に大きく絞られたランプを縁取るクロムパーツは、写真で見るよりずっと立体的で奥行きがあります。また、ダイアモンドのように輝く「パラメトリック3Dグリル」もウリですが、同時にクロムで囲まれたグリル自体にも意外なほど立体感が。
フロントでは、フード上の「セイバー」もまた話題です。一連のクローム装飾はフランスのコーチビルダーへのオマージュとされますが、これはモールというよりも、もっと幅広く、まさにサーベル。
表面には細かな文様が刻まれ、ディテールへのこだわりが伝わってきます。
また、S字を描くデイタイムランニングライトも新しいDSの個性ですが、パールのネックレスをイメージしたというそれは、極めてグラフィック的な表現です。
サイドビューでは、ヘッドライトからリアへ一気に流れるキャラクターラインが最大の特徴。鋭角に折られたラインは後方に向けてゆっくり下り、リアランプにつながります。これに伴ってショルダー面はリアに向かうほど広くなりますが、実車を見ると、この「肩」が意外なほどワイドなのがわかります。
キャラクターラインの下部では、前後フェンダーがブリスター状に張り出しており、ここもまた意外なほどの安定感が。広大なドアには余計なラインはなく、大きく滑らかな凹面で成立しています。
一方で、リアピラーの付け根はクローム部分も含めて凹面にカットされており、ここでもディテールへの強いこだわりが。
リアビューは、クーペ基調によって実にスリム。同様に薄くシャープなランプの周囲には、DSウィングに準じてクロムパーツが施されますが、フェンダーまで伸ばされた矢のような形状は、フロント同様「セイバー」と呼ばれます。
このセイバーはよく見るとバンパーラインに沿わせてあり、なかなか巧妙な作りです。
●機能より美しさを追求する
さて、こうして見ると、DS 9は美しいプロポーションのクーペルックボディを基本に、そこへ徹底したディテールを持つ装飾を散りばめたクルマだと言えそうです。たとえば、ひし形にカットされた彫刻的なリフレクターを持つリアランプもそのひとつでしょう。
実際、驚くべきことに「アールデコ調のさまざまな要素は、機能的には特定の意味を持たない装飾であり、そこに美を見い出すのがフランス的」と、ブランド自らが言い切っているのです。
カーデザインは、プロダクトデザインとして機能を表現することが本来ですが、そこをあえて「装飾」と表現するのは極めて例外的です。
冒頭に書いたとおり、建築やファッションデザインの様式をも取り込むのは、それによって自動車という概念を超えた表現を追求する意図のようです。言ってみれば「機能美」と対照的な発想ですが、ここはDSブランドがクルマのまったく新しい価値を創造できるかに注目したいところです。