ALPINAは無くなるの?ミヒャエル・ヴィット社長へAJAJ会長にしてアルピナファンの菰田潔が直撃インタビュー

■BMWにアルピナの商標権を譲渡

●最大の年間生産台数を記録したアルピナがなぜ譲渡?

BMWアルピナB4
BMWアルピナB4

アルピナ車の年間生産台数は最高記録でも1700台程度と少数ながら、日本での販売台数はその25%程度で大きな割合を占めていました。近年アルピナ車人気は高く、2021年は年間生産台数2000台を超えるというアルピナ車の最高記録を塗り替えています。

そんな素晴らしい報告を聞いた直後(2022年3月11日)衝撃的なニュースが耳に飛び込んできたのです。

「BMWにアルピナの商標権を譲渡した!」

菰田潔氏
菰田潔氏

アルピナ社はBMWグループへのALPINAブランドの譲渡を決議し、今後新たに「ボーフェンジーペン社」と名前を変え、クラッシックカー関連事業への投資やこれまでと異なる情熱的で新しいモビリティの開発に挑戦し続けるといいます。

さて、BMWの中でアルピナブランドはどう使われるのか? アルピナ社はこれからどうするのか? 日本総代理店のニコル・オートモビルズはどうなるのか? 筆者の頭の中で多くの疑問符が点灯します。

菰田潔氏とミヒャエル・ヴィット社長
菰田潔氏とミヒャエル・ヴィット社長

そこで、いいタイミングで開催された新型BMWアルピナB4グランクーペの日本とドイツ同時のワールドプレミアの会場に出向き、ニコ・ローレケ氏に代わり昨年2代目の社長に就任したミヒャエル・ヴィット氏(以下:Witt)に突撃インタビューすることができました。

菰田:2025年でアルピナがBMWに移りますね。
Witt:アルピナというブランド名とロゴマークのみ移行します。
菰田:BMWではアルピナはどんな扱いになると予想しますか?
Witt:あくまでも、これは私個人の予想なのですが、BMWのプレミアムブランドとして、メルセデスにおけるマイバッハのような扱いになるのではないでしょうか?

BMWグループにはBMW、MINI、RR(ロールス・ロイス)といったブランドがあります。その中でもBMWにはM、そして10年前からiという電動化のサブブランドもできました。そこにアルピナというプレミアムなサブブランドが創られるとしたら、BMWグループは全方位に強いブランドになるのは間違いないでしょう。

●2025年までは同じアルピナが作られる

ミヒャエル・ヴィット社長
ミヒャエル・ヴィット社長

Witt:しかし、2025年12月までは現在と同じようにアルピナ車は生産される予定です。予定通り生産された場合、その車が日本に輸入されるのは2026年、つまり、日本での販売活動は生産終了後もしばらく行われる見通しです。
菰田:BMWは常日頃もっと台数を売りたい、もっと儲かるクルマを売りたいと思っています。大株主のクヴァント家からはBMWらしい「駆け抜ける歓び」を感じられるクルマを創らないと怒られるし、ちゃんと儲けて配当を出さないとボードメンバーはクビになるから、高価格帯のプレミアムカーと認知されているアルピナブランドは、BMWにとって最高のものになるでしょう。
Witt:アルピナ社は家族経営の企業です。ですから、BMWと異なり、株主から問いただされることもなく、自分たちの理想のクルマを創ることに専念することができました。ワイン事業という大きな経営資本もありますしね。

ALPINA車には欠かせないストライプ
ALPINA車には欠かせないストライプ

ちなみにボーフェンジーペン家の家族経営で行ってきたワイン事業に関しては、アルピナの商標権譲渡の影響は受けず、ALPINAワイン有限合資会社は今後も事業を継続する予定だそう。

ここまでのブランドに育て上げるのはいくらかかるか、何年かかるかわからない。少なくともアルピナ社がBMWとこれまで57年間に渡りパートナーシップを結んできたひとつの結果がアルピナブランド。

譲渡金額がいくらなのかは想像もできない(きっと桁違いだろう)が、このブランドがBMWに移ることに抵抗がある人はいないでしょう。

菰田:アルピナ社は2025年以降アルピナ車を作れなくなる。2026年からどうやって会社を維持するのでしょう。
大きな倉庫に100万本以上のストックを持つワイン卸業の儲けは、クルマよりも利益が出ているかもしれないが…。
Witt:アルピナ社(2026年からはボーフェンジーペン社)はアルピナ・クラシックという名前で、これまで販売したBMWアルピナ用の補修パーツを製造販売していく予定です。これはとても収益性の高いビジネスです。私はBMWジャパンでアフターパーツを担当していましたので、把握しています。

ALPINA車にはシリアルナンバーが刻印される
ALPINA車にはシリアルナンバーが刻印される

筆者の心配は、BMWがこれまでと同じようなアルピナ車を創れるか?ということ。年間2000台製造することになると、そのほとんどはBMWのファクトリーで生産しているから、物理的にはできるでしょう。

しかし牛皮を青と緑の糸を使い手縫いでシートやハンドルを仕上げたり、2万km以上も全開走行テストしてボディやシャシーのやれを補強したり、タイヤ・ホイールを1スペックにしてダンパーセッティングを決めたり、少量生産だからできるアルピナの味を再現できるのだろうか。

菰田潔氏とミヒャエル・ヴィット社長
菰田潔氏とミヒャエル・ヴィット社長

菰田:BMWはどんなアルピナ車を創るのでしょうね。
Witt:これは個人的な憶測ですが、GKL(Grand klasse=BMWの最上級クラス)ではないでしょうか? 7シリーズ、8シリーズ、X7をベースとしたクルマが中心になるかもしれませんね。
菰田:3シリーズ、5シリーズはBMWに移ってからのアルピナ車はないとすると、今のうちに買った方がいいですね。
Witt:それは名案ですね、商標権譲渡の発表後、多くの問合せをいただいています。 最後に製造したアルピナ車の購入をご希望されるお客様がいらっしゃいますが、難しい状況です。

ALPINA車にはシリアルナンバーが刻印される
ALPINA車にはシリアルナンバーが刻印される

さあ、アルピナ社製のアルピナ車の新車購入のカウントダウンが始まったわけで、新車だけでなく中古車にも注目が集まっています。投機家ではなく、せめてアルピナ車を愛する人にオーナーになってもらいたいと、いちアルピナファンは思うのです。

(文:菰田 潔/写真:萩原文博)