ガチャっと交換するから「ガチャコ」!二輪用の交換式バッテリーが電動化社会のインフラになる日がやって来た【週刊クルマのミライ】

■二輪4社とエネオスが出資した会社の名前は「ガチャコ」

Gachacoの目指す世界観
電動二輪での使用を軸にしたバッテリーシェアリングサービスは、リサイクルまで視野に入れている。

2022年4月1日、ENEOSホールディングス、本田技研工業、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機の5社の共同出資により「株式会社Gachaco(ガチャコ)」が誕生しました。

同社の目的は、電動二輪車の共通仕様バッテリーのシェアリングサービス提供と、シェアリングサービスのためのインフラ整備です。

なぜ、こうしたプロジェクトが動き出したのか。そのバックボーンを知るには3年ほど遡る必要があります。

2019年4月4日に、ホンダ・カワサキ・スズキ・ヤマハの4社は電動二輪車用交換式バッテリーのコンソーシアムを創設しています。さらに2021年3月26日には、交換式バッテリーの相互利用を可能にする標準化に合意しています。

電動二輪車を交換式バッテリーで走らせるということは、その運用において充電済バッテリーと交換するためのステーションが必要となります。ガチャコは、そうしたインフラを整える会社というわけです。

同時に、交換式バッテリーの仕様についても確定しなければインフラ整備はできません。今回の発表で、それがホンダがビジネスバイク用に展開している「Honda Mobile Power Pack e:」となることも明らかとなりました。

●電動二輪車共通バッテリーはホンダの設計

Honda Mobile Power Pack e:
電動二輪車の共通仕様に適合したバッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」がシェアリングサービスとして日本中に広がる未来が見えてきた。

ホンダが設計した交換式バッテリーを、ホンダ自身がインフラ整備するようなこともあれば独占的な意味で反発を招くかもしれませんし、インフラ整備のノウハウが足りないという指摘もあるかもしれません。

しかし、今回のスキームではインフラ整備の経験豊富なエネオスが主体となっているのが安心ポイントといえます(ガチャコの出資比率は、エネオス 51%、ホンダ 34%、カワサキ 5%、スズキ 5%、ヤマハ 5%)。

また、交換式バッテリーにおいては、各バッテリーパックの性能を管理しながら、一定以下の性能になった際にリリース(2次利用)、リサイクル(3次利用)に回すことも重要です。そうしたバッテリー循環プラットフォームの確立において、2021年5月の段階でエネオスはMIRAI-LABOと協業を開始しています。

つまり、ガチャコの一件は急に決まった話ではなく、しっかり地ならししながら進んできたプロジェクトがスタートしたといえるのです。

ガチャコのサービス開始時期は2022年秋が目途となっています。「Honda Mobile Power Pack e:」のシェアリングサービスを東京などの大都市圏から開始することを予定しています。

ホンダが開発したバッテリー交換ステーション「Honda Mobile Power Pack Exchanger e:」を駅前などの利便性の高い場所や、エネオスのサービスステーションなどへ設置することで利便性に長けたインフラ整備を進めるということです。

●二輪以外のカテゴリーでの活用は始まっている

Honda Mobile Power Pack e:
ガチャコの設立とは別の話になるが、コマツがHonda Mobile Power Pack e:を利用する小型ショベルのレンタル開始を発表した。ガソリンの手配が難しくなる中、こうしたジャンルでも電動化は進みそうだ。

ご存知のように、ホンダの交換式バッテリーは電動二輪車専用というわけではありません。

家庭における太陽光発電の蓄電システムとしての活用、配達ロボットの電源としての利用なども想定されています。当然ながらガチャコのサービスは、そうした活用も視野に入れたものとなっています。電動二輪車を普及させるためのサービスと捉えるのではなく、電動化社会を支えるインフラへと成長する可能性があるプロジェクトと考えるべきでしょう。

たとえば、ガチャコ設立のタイミングで、コマツが「Honda Mobile Power Pack e:」を利用する小型ショベル『PC01E-1』を量産化、レンタル開始という発表もありました。

造園などの人に近いエリアで使われることの多い小型ショベルを電動化するというのは騒音低減やエミッション的な意味も大きいでしょうし、重機の電動化のスタートとしても適切なイメージがあります。

様々な事件によりガソリンを携行タンクで購入することが難しくなっているという社会においても、交換式バッテリーによるショベルカーの運用というのはユーザーメリットがあるかもしれません。

いずれにしても、バッテリー交換ステーションが広く整備されることが大前提となります。

カーボンニュートラルによってガソリン販売ビジネスはシュリンクすることが容易に予想される中、エネオスが次世代ビジネスとして関わるガチャコの成否は、日本の電動化社会に大きく影響するビジネスとして注目すべきでしょう。

自動車コラムニスト・山本晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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