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■生産、販売終了を繰り返してきたヤマハSR400
●ヤマハSRの43年を振り返る
ヤマハSR400は1978年に誕生しました。日本の公道で二輪車のヘルメット着用が義務化された年です。
クルマでいえば、三菱ミラージュや日産パルサー、ホンダ・プレリュードの初代が誕生した年。そう考えるとすごいですね。以降2021の生産終了まで43年間、クラシカルなスタイルを守り通し、計12万台以上が生産されました。
発売翌年の1979年にはキャストホイール(鋳造ホイール)が解禁され、SR400も流れに乗って標準装備。
しかしヤマハにとって意外なことに、これは不評でした。1982年にワイヤーホイールの付いた限定車が登場。キャストホイールを上回る人気を得て、1983年にはワイヤーホイールが標準となっています。
SR400は生まれてほどないころから「クラシカル」を売りにする運命にあったのです。
1984年には初めてサンバースト塗装が登場します。1000台限りの限定車でしたが、エレキギターを思わせるカラーリングと音叉(おんさ)エンブレムの組み合わせは、ヤマハならではといえるでしょう。
ちなみにこの美しいグラデーション塗装は1995年、2003年、2008年、2018年と繰り返し発売されましたが、いずれも台数限定車でした。職人が手作業で仕上げるので、通年生産カタログモデルにはできなかったのです。
1985年には「2型」が登場。フロントホイールを1インチ小径化して18インチに、さらにディスクブレーキがドラム式へと変更されました。技術的には明らかに退化ですが、ユーザーには好評でした。
この「2型」が販売台数のピークとなっており、1996年には9000台が登録されています。
2001年に「3型」となり、再びディスクブレーキを装備。排ガス対策のためエアインダクションを搭載しました。以降はクラシカルな佇まいと環境性能を両立させる闘いといっていいでしょう。
30周年となる2008年に一旦生産終了。しかし翌年復活します。この「4型」で燃料供給方式をそれまでのキャブレターからインジェクション式に変更。O2センサー、三元触媒などと合わせて排ガス規制をクリアしました。
2017年9月に再び生産終了のアナウンス。排ガス対策を施して再発売すると発表し、2018年9月、排ガス適合モデルとして再発売されました。
そして2021年9月、日本国内向けモデルを生産終了しました。二輪車令和2年排出ガス規制とABS義務化への対応困難によるものと言われています。
●「最後のSR」を観察する
さて、そんなヤマハSR400を最近、筆者が新車で入手しました。「Final Edition」というサブネームが与えられたモデルです。
新車時の価格は55万円に消費税を加えて60万5000円だったのですが、2022年2月現在の2021年最終年式の中古車流通価格を調べると、大手中古バイク検索サイトで最も安いものが税別約75万円と、2割以上のプレミアがついています。
さらに、Final Editionの発売時に1000台限定で販売された「Limited」は、性能的には変わりませんが、特別なカラーリングやシリアルナンバー付きのエンブレムを与えられていて、本体価格68万円+税だったものが、新車時のおよそ2倍の価格で流通しています。
半導体の供給が滞って新車の需給バランスが狂ったことが、中古車市場まで波及していることが話題になっていますが、要は「これくらいの値段でも仕方ないかな」と思っている人が多いということでしょう。
そして、筆者の意見では、その理由は「華奢だな」「古いな」とは思わせるものの、SRは「安っぽさ」を感じさせないからだと思います。
スチール製フレームは丁寧に溶接されており、アルミのエンジン部品はきれいな光を放っています。フェンダー、マフラー、メーター、ヘッドライトの分厚いクロームメッキは楽器屋をルーツに持つヤマハ発動機らしく、タンクなどの塗装も入念です。
ハンドルに備わるスイッチ類や、燃料タンクのフタなどは、SRが世に出た1970年代から何も変わっていないのでは?と思うほど、昭和を思わせるレトロな形状をしています。
ちょうどしばらく前に実家の片付けをしていて、いくつかの昭和の遺物に触れる機会があったのですが、SRの部品はまるでそれらが新品で蘇ったように思わせたものです。
いくつもの改良を経て最終形に至ったとはいうものの、大物部品の減価償却はとっくの昔に終わっているSRですから、新車の生産コストも安かったはず。
それに、ちょっと前まで同じもの(というより、むしろ昔のほうがパワーがあった)を40万円台で売っていたという事実も、価格を上げにくかった理由でしょう。
ともあれ、この見た目品質を考えれば55万円というのはバーゲンプライスだ、というのが、筆者がSRを入手した理由のひとつであり、いまになってプレミア価格となっている理由でもあるでしょう。
(文/写真:チーム パルクフェルメ)