■ヤマハ発動機の「連成解析」で進む音の見える化
ヤマハ発動機の製品は、電動アシスト自転車やオートバイ、発電機や除雪機、スノーモービルやマリン製品などの一般向けだけでなく、産業用ロボットやゴルフカー、電動モーターなどの法人向けまで幅広いジャンルに及んでいます。
広報グループによる「ニュースレター」は、同社やグループの幅広い製品や活動について主に現場から報告されているもので、今回は、産業用無人ヘリコプターについてピックアップしています。
現在の大規模農業などに欠かせない産業用無人ヘリコプター(産業用無人ヘリ)は、「空からの散布」などで貢献しています。
働き手の減少や高齢化が進む日本各地の農業現場で、産業用無人ヘリは、頼れるパートナーとして活躍しています。また、近年では運搬、観測、調査など、さまざまなソリューション分野にも活躍の領域を広げています。
ヤマハ発動機のUMS事業推進部・水野健太さんは、産業用無人ヘリ「FAZER R」の設計者。
「産業用無人ヘリは、稼働時の静音性をさらに一段高めることが現在の目標で、活用のフィールドがより広がるはずです。その足掛かりとして、連成解析による音の見える化に推進しています」と現在の取り組みについて明かしています。
上空を飛ぶヘリコプターの「バババババ……」という音は、エンジンが発する音、ローターの流動音が混ざり合って聞こえているそうです。
水野さんたちが取り組むこの「連成解析」とは、静音化のための音響解析だけでなく、流体解析や構造解析など、複数のシミュレーションを統合した複雑な解析手法。同手法により、ローターの流動音の正体を解明し、さらに静かで愛される農業現場のパートナーの開発を目指しているそうです。
水野さんはさらに「水稲防除(虫害防除)のピークは夏の暑い時期。騒音の低減は作業者の皆さんの負担を軽くすることにもつながります。住宅地に近い圃場でもお使いいただいているため、より静かな製品が求められています」と現在の状況を説明するとともに、静音化に向けたモチベーションについて語っています。
産業用無人ヘリは、10年ほど前に4ストロークエンジン化により前モデルから3dBの騒音低減を果たしたそうで、その後も静音化は重要な開発テーマのひとつになっています。
先述した連成解析によって「バババ…」の正体解明は大きな前進を遂げていています。その知見は製品開発の領域だけでなく、より静かな飛ばし方の習得などにもつながっていく可能性を秘めているそう。
さらに、先行開発や製造技術、製造部門との連携を取りながら、この解析技術を開発プロセスの革新や製品の基本構造の変革にもつなげていくのも目標に掲げられています。
また、2021年末にスウェーデンから朗報が届いたそう。
MSC社の解析ツール「Nastran」を利用する世界中のユーザーを対象にした活用事例のコンテストで、水野さんたちの「流体+構造+音響の連成解析」が1位に選出されています。
このMSC社は、シミュレーションソフトウェアを専門とする米国のソフトウェアテクノロジー企業。2022年現在、スウェーデンのHexagon社の一部として製造業のデジタルトランスフォーメーションを支援しています。
1位に選出されたことについて同氏は「とても光栄なことで、うれしく感じています。これを励みに、より静かでフレンドリーな製品開発を進めて、農業現場で働く皆さんのお仕事に貢献していきたいと思います」と、産業用無人ヘリのさらなる進化、向上を図る意気込みを語っています。
(塚田 勝弘)