目次
■新型フィット、その他あれこれ…
ホンダ・フィット試乗4回目までは、ラインナップ紹介と走り、Honda SENSING、ライト性能、ユーティリティ性について、テーマによってはかなりしつこく解説してきました。
フィット試乗最終回の5回目は、その他についてと、販売動向、燃費報告について。
フィット購入検討車の方、最後までよろしくおつきあいください。
●知っていますか? ホンダ車フロントガラスの、三角マークの秘密…
これは今回の新型フィットの話題というよりも、このフィットも含めた現在のホンダ車全般についてのお話。
どこのメディアでも語られておらず、周囲のひとに聞いても知っておらず、ホンダ自身もことさらPRしていないこともあって、ちっとも目にも話題にもされない、小さな小さなある部分についてのお話です。
いまのクルマは開閉する部分を除き、ほとんどのガラスは接着式になっています。フロントガラスであれ、リヤガラスであれ、ガラス周囲にはセラミック塗装が施され、これは接着剤の「のりしろ」としてあてがわれています。
いまのホンダ車にお乗りの方、あるいは身近にホンダ車があるディーラー、中古車店などでホンダの新車や新しいクルマに触れる機会がある方は、ぜひフロントガラス両脇(フロントピラー側)の上から1/3ほどの部分に顔を近づけてみてください。
小さな三角マークがあるでしょ? さあ、これはいったいなんでしょうか?
実はこの三角マーク、ドライバーの視線が安定するようにするためのものなのです。例えドライバーがこのマークを意識していなくとも…。
このマークがどういった働きを示すのか?
このマークがあることにより、ドライバーが「意識せずとも視線が安定するようになり、効果としては狭路通過時にバラツキが少なくなる=視線がふらつかないので、同じところを通れるようになる(ホンダ)」というのです。
筆者がホンダの方からこの三角マークについて教えられたのは、2011年のことでした。これはHonda SENSINGが導入される前。それまでにもLKASは単発的に存在していましたが、無理を承知でいうならこの三角マークは、フィット&Honda SENSINGの路外逸脱抑制機能のスーパーローコスト版と言ってもいいかも知れません。
当時お話をうかがいながらおもしろいと思ったのは、「フロントガラスに三角マークを刻むことでなぜ視線が安定するのか、われわれホンダにもわかっていない」ということでした。実験をすれば視線は安定する。その効果だって明らかになっているのに、理由がわかっていないまま市販車に採用してしまっているところもおもしろい。
●三角マークが駐車操作に影響するかどうかを試してみた
このときに資料として、どこかの雑誌が採り上げた三角マークについての記事を見せてもらったのですが、記事では前向き駐車、バック駐車にも効果があると紹介しており、駐車場を模したスペースに、前向き・後向き、どちらの場合もまっすぐに駐められたことを示す写真が掲載されていたと記憶しています。
この話の、特に駐車の部分を強烈に覚えているため、以降約10年間、筆者は「ホンダの新車=三角マーク=まっすぐ駐車」という方程式が頭から離れなくなっています。今回、「フィット試乗」となって最初に浮かんだのも三角マークのことでした。
というわけで、フィットを拝借している間、筆者は約500km走行、そのうち、この試乗記事のために走ったのは325kmちょいでしたが、その間3回ほど、この三角マークを「何となく意識しながら、でも無意識で」駐車するということを試してみたら、ホンダが特に駐車操作への効果を公的に述べていないにもかかわらず(次項)、スペース内にまっすぐクルマを置くことができてしまいました。
筆者はいつでもまっすぐに駐車することについて難儀する方ではないのですが、まっすぐに置きにくいクルマが多いとは感じています。ウエストライン(サイドガラス下端のライン)が前から後ろに向かって上がっているクルマ、ドアミラー内に映る自車のボディプレスが複雑なクルマはまっすぐに駐めにくいものです。
フィットはボディサイドのプレスはシンプルながら、ウエストラインは後方に向かうにつれて上昇しており、まっすぐ駐車はしにくいと想像していたのですが、三角マークを意識しているのかしていないのか、あえて自分でもよくわからない状態で駐車し、降りたら白線に対してまっすぐに駐まっていました。
バック駐車は後ろを向きっぱなしで行うのではなく、前と後ろを入れ代わり立ち代わり見ながら操作するわけですが、前を見ているときに「無意識」のうちに三角を「意識し」、まっすぐ置けてしまったのでしょうか。自分でもよくわかりません(われながら白々しく、少々出来レース臭いですが)。
●三角マークのその後…。ホンダに聞いてみた
この三角マークの話を聞いてから約10年経ち、その後研究が進んで何か判明したか、あらためてホンダに聞いてみたのですが、回答は次のとおりでした。
【ホンダ回答】
視線が安定するというのが三角マークによる効果となります。具体的には、意識せずとも視線が安定するようになり、効果としては狭路通過時にバラツキが少なくなる(=視線がふらつかないので、同じところを通れるようになる)というものです。
ただ、それがどのようなメカニズムなのかまでは解明しておらず、現状で分かっていることから、下記のような推察となっております。
1.人は、一つの環境の安定した世界を認識しているが、脳内では、頭部、身体、環境など様々な座標系があり頭頂野で統合されている。
2.目を動かしても、世界が揺れないのは、随伴反射によって目の動きがキャンセルされるため。とはいっても若干のぶれはある。
3.そのため、三角マークによって視線が安定すれば、環境と車両の近くの精度が高まり、同じ所が通れるようになると考えられる(仮説)。
…いまだ三角マークによる視線安定のプロセスはわかっていないようですが、推察とはいえ、かなりのところまで研究は進んでるようです。
この次にホンダ車に乗るときは、このマークの本分を試すべく、狭い道を通ってみよう(白状すると、「駐車」への効果のほうが印象的だったため、狭い道での使いやすさについては記憶に残っていなかった!)。
それにしても、三角マークを発案したホンダのひとは、10年経っても解明しないほどのことを、いちばん最初、何をきっかけに思いついたのか? ぜひインタビューしてみたいものです。そして、何でもかんでもあからさまになってしまうというのもつまらないので研究はほどほどにし、いっそホンダにも世間にも「わかっていないまま」のミステアリスなマークとして残しておいてほしいとさえ思っています。
ここには筆者の2011年当時の記憶でしかない「まっすぐ駐車」については触れられていないので、さきのまっすぐ駐車の話はあくまでも参考までということにしてください。
というわけで、新型フィットオーナー予備軍の皆さんは納車されたら、現在ホンダ車オーナーの皆さんは、すぐにクルマに乗り込み、フロントガラスの三角マークに着目してみてください。
●販売動向
一部改良を受けた今年2021年6月4日から11月いっぱいまでの、最新フィットの販売動向を、ホンダの方にお願いして出していただきました。
★販売台数
2万8014台(2021年6~11月末)
★ガソリン・ハイブリッド車比率
ガソリン車 38%
e:HEV車 62%
★機種別比率
・BASIC : 全体26.0% ガソリン車46.0% e:HEV車14.0%
・HOME : 全体51.0% ガソリン車41.0% e:HEV57.0%
・NESS : 全体2.0% ガソリン車2.0% e:HEV車3.0%
・CROSSTAR : 全体14.0% ガソリン車9.0% e:HEV車16.0%
・LUXE : 全体6.0% ガソリン車3.0% e:HEV車8.0%
・Modulo X(2021年6月3日追加) : 全体1.0% ガソリン車ー e:HEV2.0%
★ボディカラー比率
・単色ベスト5
(全体)
1位:プラチナホワイトパール 25.0%
2位:ルナシルバー・メタリック 20.0%
3位:プレミアムサンライトホワイト・パール10.0%
4位:ミッドナイトブルービーム・メタリック 6.0%
5位:クリスタルブラック・パール 5.0%
(ガソリン車)
1位:ルナシルバー・メタリック 25.0%
2位:プラチナホワイト・パール 20.0%
3位:クリスタルブラック・パール 11.0%
4位:エアーライトブルー・メタリック 10.0%
5位:プレミアムサンライトホワイト・パール 6.0%
(e:HEV車)
1位:プラチナホワイト・パール 29.0%
2位:ルナシルバー・メタリック 17.0%
3位:プレミアムサンライトホワイト・パール 13.0%
4位:ミッドナイトブルービーム・メタリック 11.0%
5位:プレミアムクリスタルレッド・メタリック 9.0%
・ツートーン ベスト3
(全体)
1位:サーフブルー×ブラック 55.0%
2位:プラチナホワイトパール×ブラック 21.0%
3位:プレミアムサンライトホワイト・パール×ブラック 8.0%
(ガソリン車)
1位:サーフブルー×メタリック 64.0%
2位:プラチナホワイトパール×ブラック 15.0%
3位:プレミアムクリスタルレッド・メタリック×ブラック 11.0%
(e:HEV車)
1位:サーフブルー×ブラック 52.0%
2位:プラチナホワイトパール×ブラック 22.0%
3位:プレミアムサンライトホワイト・パール×ブラック 11.0%
・アクセントツートーン ベスト3(NESSのみ)
(全体)
1位:ルナシルバー・メタリック×オレンジ 35.0%
2位:クリスタルブラック・パール×オレンジ 17.0%
3位:プレミアムサンライトホワイト・パール×オレンジ 11.0%
(ガソリン車)
1位:ルナシルバー・メタリック×オレンジ 50.0%
2位:クリスタルブラック・パール×オレンジ 20.0%
3位:プラチナホワイト・パール×オレンジ 10.0%
(e:HEV車)
1位:ルナシルバー・メタリック×オレンジ 31.0%
2位:クリスタルブラック・パール×オレンジ 17.0%
3位:プレミアムサンライトホワイト・パール×オレンジ 14.0%
6月から11月末までのトータル販売台数は2万8014台で、うち、ハイブリッドが全体の6割超。完全にハイブリッドの時代であることを実感させられる数字です。
特別なポジションにあるModulo Xがわずかなパーセンテージであるのは発売まもないから当然として、標準5機種のうち、唯一ガソリン車比率が高いのがBASIC。最廉価モデルだけに、より低価格であることを求める社用車ユースが多いのかも知れません。いちばん多く売れているのはHOME。NESSはやはり市場にもどっちつかずに映るのか(第1回)、想像どおりいちばん売れておらず、数%という結果です。CROSSTARはフィットの車両キャラクター上、このようなものでしょう。何でもござれが売れるわけではない時代にあってはLUXEの10%未満という数字も順当といえます。
筆者は、クルマは白が好みでシルバーはまったく好まないのですが、その白とシルバーが新型フィットでは単色の中で1位・2位を占めています。初代フィットのイメージカラーにしていちばん街で見かけた、「アイスブルーメタリック」を彷彿させる「エアーライトブルー・メタリック」はガソリン車単色4位に入る程度、自分が新フィットを買うとしたらこれかなと思っている「ローズゴールドメタリック」は残念ながらランク外でした。「汚れが目立たない」という理由から、日本はシルバーが好まれる市場なのですが、それをよく象徴しているデータです。洗シルバーは車をサボっていても確かに汚れが目立たないんですよね。
筆者がシルバーを敬遠するのは、どのクルマもカタログで見ると地味に映るためですが、そのいっぽうで実車を見ると「イヤだと思っていたけど実物を見るとなかなかいいな」と自説をひっくり返すことがほとんど。フィットの「ルナシルバーメタリック」はどうなのかな…でも「ルナ」という、静かな満月の夜を思わせる神秘的なネーミングは気に入りました(「ルナ:luna」とは、「古代ローマの月の女神」の意)。
このルナシルバー・メタリックと「クリスタルブラック・パール」、そしてエアーライトブルー・メタリックは、最新フィットのボディカラー全21種の中でエクストラチャージがかからない3色。この3色がe:HEV車よりも車両価格が安いガソリン車の中の1位、3位、4位にあるのは、ガソリン車ユーザーがより経済性を重視していることをよく表しています。
★ユーザー層についてのホンダからコメント
男女比は男性が約70%、女性が30%の比率となっています。年齢層としては50代以上が多く、歴代FITからの代替えや、ミニバン・セダンなどからのダウンサイザーも多くなっています。
●エピローグ
最新モデルに試乗するときは、その前型と比較するのが普通ですが、筆者の場合、本記事第1回で書いたとおり、2003~2018年まで、実家の家族が初代フィットを使っていたこともあり、今回の比較対象にはどうしても初代フィットを持ってこざるを得ませんでした。だからこそ今回、新型に乗って触れての感想は、「『フィット』といっても車名が同じ『フィット』なだけで、同じホンダのエントリーモデルでも、4代目ともなると、もはや別のクルマだな」というものです。
初代フィットのセンタータンクレイアウトよる、外形サイズからは想像もつかない広大な車室空間への驚きはいまでも忘れていませんが、率直にいって、乗り心地、電動パワステや無段変速機(当時、ホンダマルチマチック)の仕上がりは、まだ実験車の域を出ていないなと思いました。もっともそれは筆者が抱いた感想で、ユーザー本人は広々空間と闊達な走りに満足しながら13年も乗り続けていたし、当のフィットも、初代後期型、2代目、3代目と代を進むにおよび、これら欠点はことごとく解消されていったのを実際に乗って知っています。
早くもあれから20年余の時が過ぎ去り、いまやフィットも4世代目。センタータンクレイアウトによる大きな室内は正常進化ですが、走り、乗り味、走行音、静粛性、すべてが大きなステップ幅で進化…というよりも、過去3代と訣別してまったく別のクルマに置き換わったという出来になりました。このクルマを1回手に入れたら、近場への買いもの、送迎からたまの遠乗りドライブまで、耐久性さえしっかりしていれば長期に渡ってオールマイティに活躍してくれるでしょう。
スタイルは、全身から元気いっぱいさがみなぎっていた初代フィット、その路線上にあった2代目、ちょっと迷いが感じられた3代目から変わり、4代目は吹っ切れてどこか2002年の三菱コルトを思わせる、親しみやすい明るさを持っています。その意味でも長くいっしょに過ごしてくれる、日常生活のパートナーになってくれることでしょう。
以上、全5回に渡り、新型フィットについて、細かい点にまでおよんでつらつらと書いてきましたが、最新フィットの購入を検討している、あるいは興味がある方のお役に立てたことを願いながら、最後は燃費報告で締めてることにします。
(文・写真:山口 尚志)
■燃費報告
★トータル燃費:20.0km/L(カタログ燃費(WLTC総合):27.2km/L)
★総走行距離:325.3km(一般道72.6km+高速道252.7km)
★試乗日:2021年12月2日(木)ずっと晴れ! すべてドライ路面、A/CはOFF
(経路内訳)
一般道:東京都練馬区~新宿区~江東区、群馬県前橋市内 72.6km
高速道:首都高11号線台場IC~C1都心環状線右まわり~5号線早稲田IC 13.4km
関越自動車道 往路 練馬IC~昭和IC 115.3km 復路 昭和IC~前橋南IC 37.6km 前橋南IC~練馬IC 86.4km
【所感】
カタログ燃費達成率73.5%。一般的にハイブリッド車のカタログ燃費と実燃費は乖離が大きいとはいえ、もうちょい率を上げるべき数字であるのは、筆者が反省しなければならない点でもあり。高速道路ではだいたい90~120km/hの範囲で、一般道では他車との流れに合わせて巡航。フィットの燃料タンクは40Lだが、メーターはあと471km走れることを示しており、このペースでいけば、タンク空っ欠までトータルでざっと800km弱まで走れることになる。充分な燃費性能だと思う。帰着しての給油時の燃料計めもりは、全10ドット中残り7ドットで、このときの給油量は16.24Lでした。
【試乗車主要諸元】
■ホンダフィット LUXE FF e:HEV(6AA-GR3型・2021(令和3)年型・電気式自動無段変速機・ミッドナイトブルービーム・メタリック)
・メーカーオプション:Honda CONNECTディスプレー+ETC車載器、プレミアムオーディオ
・ディーラーオプション:ドライブレコーダー、フロアカーペットマット
●全長×全幅×全高:3995×1695×1540mm ●ホイールベース:2530mm ●トレッド 前/後:1485/1475mm ●最低地上高:135mm ●車両重量:1210kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.2m ●タイヤサイズ:185/55R16 83V ●エンジン:LEB(水冷直列4気筒DOHC) ●総排気量:1496cc ●圧縮比:13.5 ●最高出力:98ps/5600-6400rpm ●最大トルク:13.0kgm/4500-5000rpm ●燃料供給装置:ホンダPGM-FI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:40L(無鉛レギュラー) ●モーター:H5(交流同期電動機) ●最高出力:109ps/3500-8000rpm ●最大トルク:25.8kgm/0-3000rpm ●WLTC燃料消費率(総合モード/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):27.2/26.5/29.6/26.0km/L ●JC08燃料消費率:35.0km/L ●サスペンション 前/後:ストラット式/車軸式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:242万6600円(消費税込み・除くメーカー/ディーラーオプション)
※この記事は2022年12月7日更新しました。
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