目次
■解説・Honda SENSINGが持つ11の機能
前回は主にフィットの車両概要と走りについて述べてきました。今回は、フィット全車に備わる、Honda SENSINGについて述べていきます。
公道で試したHonda SENSINGの有効性は?
●システム一新で生まれ変わった、オールニュー「Honda SENSING」
フィットが持つアクティブセーフティ技術・Honda SENSINGには、次の11の機能が与えられています。
1.衝突軽減ブレーキ(CMBS:Collision Mitigation Brake System)
2.誤発進抑制機能
3.後方誤発進抑制機能
4.近距離衝突軽減ブレーキ
5.歩行者事故低減ステアリング
6.路外逸脱抑制機能
7.渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)
8.車線維持支援システム(LKAS:Lane Keep Assist System)
9.先行車発進お知らせ機能
10.標識認識機能
11.オートハイビーム
これらをひとまとめにしたHonda SENSINGがフィット全車に標準装備。
競合・ヤリスに対していいと思うのは、車種を問わず、どのフィットを買ってもこれら11機能がもれなく揃っている点です。
例えばHonda SENSINGの「誤発進抑制機能」「後方誤発進抑制機能」は、トヨタ「Toyota Safety Sense」の「インテリジェントクリアランスソナー(パーキングサポートブレーキ(静止物))」に相当しますが、ヤリスでこの機能を持っているのは最上級のハイブリッドのZ、ガソリン車のZのCVT車だけで、他はオプションだったり、オプションでも選べなかったり…そもそもヤリスの最廉価X・Bパッケージは、Toyota Safety Senseのオプション設定すらありません(まあ、それゆえの廉価モデルなのでしょうが)。
フィットのパワートレーンがハイブリッドの電気式無段変速、ガソリン車CVTの2種だけということもありますが、対するヤリスはハイブリッドの他、1.5Lガソリン車にCVT、6MT、1.0LガソリンのCVTがあるという都合上、Toyota Safety Senseの内訳に有無があり、だいぶややこしいことになっています。
いっぽう、ヤリスでオプションの、「ブラインドスポットモニター(BSM)」が持つ、車線変更時の斜め後方車両の存在報知や、駐車スペースからの後退出車時に左右後方からの走行車両を知らせる機能は、フィットではオプションでも用意されていません。フィットやヤリスに限らないのですが、安全支援デバイスひとつひとつの機能には、メーカー間で「標準」「オプション」「そもそも存在していない」にバラツキがあるので、最新安全デバイス重視で新車購入を検討する際には、クラス、メーカー問わず、カタログ装備表を見落とされませぬ様。
話をフィットのHonda SENSINGに戻しまして―――。
このフィットからHonda SENSINGがシステムを一新。これまで、先行車までの距離測定はミリ波レーダーで、車両や歩行者の認識は単眼カメラで行っていました。
今回、新システムに改まったHonda SENSINGは、約100度にまで広がった有効水平画角を有する単眼カメラで、車両や歩行者といった対象物ばかりか、距離測定をも受け持つことに。約100度にまで広がったワイドなカメラ視界は、一般道でいきなり車道に入り込んできた歩行者、高速道路などで他車がいきなり自車前方に割り込んだ場合などに活きる…先回、「新型フィットは運転視界が広くなった」と書きましたが、カメラの方も視界が広がり、仕事の範囲も広がったわけです。むろん、視野が広がっても認識能力が従来のままでは意味がないわけで、高速画像処理チップが最新ものに変わっています。車両前後の障害物は、新たに前後バンパー裏に4つずつセットされたソナーで検知、ガラスや外壁といった非金属ものにも対応します。
●ホンダの親切がホンダセンシング取扱説明書から見えた
この種のデバイスを見るにつけ、「操作が難しそう」「実際には使わない」と口にするひとが多いものですが、そのようなひとの存在を意識しているのか、ホンダが親切だと思ったのは、取扱説明書の「ホンダセンシング」項の冒頭で、「作動させるためにスイッチ操作が不要な機能」「作動させるためにスイッチ操作が必要な機能」を分けて記載しているところです。起動操作の要不要を最初に明記している説明書はいまのところ例を知りません。どんなに機能的で安全につながるものでも、「難しい」「めんどうくさい」と敬遠させ、使ってもらえなければ宝の持ち腐れなわけで、この区分け明記はユーザー理解と利用を促すのに有効だと思います。
あらためて書くと、「作動させるためにスイッチ操作が不要な機能」は上記1~6と9~11、「スイッチ操作が必要な機能」は7~8のたった2つだけです。これら機能や作動速度、操作の要不要について、一覧表にまとめましたのでごらんください。
11機能のどれもこれもが技術的に興味深いのですが、ブレーキ関連にしても誤発進抑制機能にしても、意図的に障害物に突っ込んで試すというわけにはいかないのと、試乗車のスケジュールも限られていたので、次の5点を、主に高速道路上で試してみました。
7.渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)
8.車線維持支援システム(LKAS:Lane Keep Assist System)
9.先行車発進お知らせ機能
10.標識認識機能
11.オートハイビーム
●渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)
渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール(以下、ACC)操作は、ハンドル右スポークのスイッチで行います。
高速道路など自動車専用道路を走行中、まず1のメーンスイッチを押すとシステム起動、待機状態となり、メーターの車速表示左下に待機状態を示す白い(車両とメーターが重なった)マークが点灯します。好みの速度のときに2「SET/―」または3「RES/+」をチョン押しすると白マークがグリーンに変わり、チョン押し時の車速を設定&上限車速とする定速走行に移ります。セット車速は速度計の右に小さく表示。これだけでACCセットは完了です。このとき、先行車がいなければ線画のクルマのマークが、先行車をカメラがキャッチしていればレジェンドか何かのセダン型車両マークが表示。右足がなんの仕事をしないままでも、カルガモの親子orストーカーよろしく、設定車速を超えない範囲で前のクルマを追従するというすんぽうです。
もし渋滞などで先行車が停止すればこちらも停止、メーターに「停車中」の文字が表示されます。青に変わって発車するとこちらも自動発進…とはさすがにいかず、発進はあくまでもドライバー操作に委ねられています。再発進するにはアクセルをチョイ踏みするか、2の「SET/―」または3「RES/+」のチョン押しをしなければなりません。
設定車速の変更も同じく2「SET/―」、3「RES/+」で行います。それぞれ連続チョン押しで1km/hずつ車速が下がり(上がり)、押しっぱなしで10km/hずつ下がり(上がり)、手を放したときの数値が設定車速となります。
先行車との車間距離調整は、4「ディスタンススイッチ」押しで行うことができます。押すごとに最長・長・中・短の順で 4段階。何だか逆のほうがいいような気がするのですが、これも慣れれば違和感を抱くことはなくなるでしょう。この間隔は常に一定なのではなく、同じ設定でも車速が低いほど、車間距離は短くなります。
前車に追従して車間距離を保ち、車速を維持するクルーズコントロールはだいぶ普及しました。筆者もこれまで、先代レヴォーグの「EyeSight ver.3 ツーリングアシスト」、現行レクサスLS登場時の「Lexus Safety System」を試してきましたが、先行車追従型ACC部分の操作方法はおおかた同じで、端的にいうと、スイッチに刻まれた文字やアイコンの意味がわかりさえすれば、あるいは見覚えがあれば、ひとまずは取扱説明書を見なくともひととおりの操作はできるでしょう。車間距離設定以外、過去のクルマに用いられてきた、ただの定速走行型クルーズコントロールとまったく同じなのです。ここまで文字で長々と書いてきたので、中には「何だかめんどくさそう」と思った方もいるかも知れませんが、初めての人でも数回使ってしまえばすぐに慣れることでしょう。
そしてこの種のデバイスを試用するたびに思うことですが、運転の上手でないひとが懸命になって自己流で運転するくらいなら、あるていどはこのACCに任せてしまったほうがスムースで安全な走りができるような気がします。だからといって全面的にクルマを信用することはせず、常に右足はブレーキ操作できる心構えが必要です。筆者の場合、ACC走行時でも両足を床に置くのではなく、いつ何があってもいいように、常に右足をブレーキペダル面に添えています。「右足が浮き気味になって疲れるじゃないか」といわれそうですが、意外と疲れはしないものです。
●車線維持支援システム(LKAS:Lane Keep Assist System)
車線維持支援システム(以下、LKAS)はある程度の車速域でなければ作動しません。その作動範囲は約65~120km/h。LKASも使用できるのは高速道路や自動車専用道路などが前提です。
LKASが内包する機能は次のふたつ。
・車線維持支援機能:自車が車線中央を走行するようにアシスト。白線(黄線)に近づくと電動パワーステアリグの操舵力が強くなる。
・車線逸脱警告機能:警報要となるエリアに近づくと、車線逸脱の警報をハンドルの振動と音、ディスプレイ表示で行う。
LKASはLKASで、ACC作動・非作動とは無関係に働きます。ハンドル右にある、ハンドルと車線が重なったマークの6「LKAS」スイッチを押すと起動、メーターの車速表示右下に同じマークが緑色に、レーンを示す二重線が自車マーク(フィットのリヤビューを描いたイラストで、これがなかなかリアルで楽しい!)の両脇に現れます。カメラが白線を認識してこの二重線も白線に変わったらセット完了、LKAS制御の開始となります。
試しにハンドル輪っかを握る手を意図的に浮かし気味にしてみると、クルマが左カーブに差し掛かれば左へ、右カーブにかかれば右へとハンドルが自動でググッと動きます。まあ、ハンドルが自ら動く様は、未来的といえば未来的なのですが、今回は「フィット」という車両のキャラクター上、筆者は未来的というよりも健気さを抱き、まるでハンドル奥のステアリングシャフト付近に潜んでいる、絵本に出てくるような小びとたちが、シャフトに巻きつけたロープを人知れず上げ下げしている光景が目に浮かびました。
もちろん、本当は電動パワーステアリングのモーターが動かしているのを知っていますが、「おいっ、カメラが今度は右に動かせってよ! それェーッ!」という小びとたちのかけ声が聞こえてくるのではないか。そう思うほど、何となくフィットの健気さを感じたものです。
なお、この機能はあくまでもドライバー操作をアシストするためのもので、自動運転デバイスではないのでくれぐれもお間違えなき様。調子に乗って、手放し運転の再現でハンドルから手を放し気味にし、しばらくそのままでいたら、メーターに「ハンドルを握ってください」という表示とブザーで、フィットくんからお叱りを受けました。
LKASを試したと書きましたが、確認したのはこの車線維持支援機能だけ。車線逸脱警報はあきらめました。意図的に車線からはみ出るようなことはできなかったからです。もし車線からはみ出しそうになれば、逸脱の警報をハンドルの振動とブザー音、そしてディスプレイ表示で行うはずです。もうひとつ添えておくと、LKASはこれら「車線維持支援機能」「車線逸脱警報」それぞれ用のセット操作があるわけではありません。LKASのスイッチひと押しで2機能が働きます。
・路外逸脱抑制機能
これはシステムが車両の車線逸脱、草、砂利などの道路境界や、対向車両への接近を検知すると、路外逸脱を回避するようにドライバーを支援し、警報する機能です。この状態になると、クルマはメーターで警告表示を行うと同時に、ハンドルを短時間振動させてドライバーにハンドル操作を促し、さらにレーンに収束する方向にハンドル操作を支援します。もし筆者が居眠り運転でもしでかし、クルマがレーンからはみ出しそうになれば、ハンドル裏に潜む架空の小びとたち? が「しょうがないなあ」とあきれ顔で車線内に収めてくれたことでしょう。
クルマがハンドル操作を行い、レーン内走行を維持するという点ではLKASに含めていいと思うのですが、取扱説明書上ではなぜかLKAS項とは別の扱いを受けています。これがこの種のデバイス構成の機能理解を妨げている点で、もうちょい整理よくしてもらいたいところです。
●先行車発進お知らせ機能/標識認識機能
2つまとめてしまいましたが、いま旧型ジムニーシエラに乗っている筆者が、ACCと同じくらい、いや、もしかしたらACC以上にほしいと思っているかも知れないのが、この「先行車発進お知らせ機能」と「標識認識機能」の2つです。
恥ずかしいですが、気づかぬうちにボーッとしているのでしょう、信号待ち時や渋滞下、前車が発進しても気づかず、後続車からホーンを鳴らされたり、ふと前を見たら前車がはるか向こうで小さくなっていたという事態に出くわすということがあります(自分の落ち度のくせに「出くわす」も何もないもんだ。)。そのようなときにあるといいなと思うのが「先行車発進お知らせ機能」です。フィットでは先行車が発進してもドライバーが気づかない場合は音とメーター表示で知らせてくれます。
どうせ前方をカメラで捉えているなら、列先頭での信号待ちのときは、青への切り替わりも検知して知らせてくれるといいと思うのですが、調べたら新型レヴォーグは「先行車発進お知らせ」の他に、「青信号お知らせ」も備わっていました。Honda SENSINGにもいずれ加わるでしょう。ついでにレヴォーグもまだ遂げていない、「矢印」も知らせてくれるとありがたい。赤信号の下で光る矢印を見落として後ろから突っつかれているクルマも多いからね!
次、「標識認識機能」。フィットのそれは、「最高速度」「はみ出し通行禁止」「一時停止」「車両進入禁止」の4種をカメラで捉え、メーターに表示します。どれもこれも、無視するや、おまわりさんから「コラッ!」となる標識。中でも見落とすことを筆者がいちばん恐れているのが「車両進入禁止」です。住宅街でこの標識があるのは、たいていは一方通行の道ですが、見落とすと逆走することになってしまうからです。フィットオーナーの中にはACC支援よりも、先行車発進や標識を見落としたときの報知機能にこそ大きな恩恵を感じている人が多いんじゃないかな。
さて、ここまで述べてきたこれら機能の働きに「ここがこうであれば」といいたくなる点はありませんでしたが、メーター表示にひとつふたつ注文が。
速度計の数字の線が少し細いように思います。ACCセット速度の数字との対比も含め、もう少し太くするか、縁取りするか、あるいはやや立体的な表示にするかをすれば視認性が上がると思います。同じくLKASのレーンマークももう少し太くしてくれると、レーン検知・未検知の識別性が向上します。
もうひとつは、ACCマークやLKASマーク、標識認識機能の表示が密集気味で煩雑に感じられることです。やや離し気味にして整理よくするとともに、細い区画線を追加するとかなり見やすくなるでしょう。
また、どのような表示モードであれ、積算距離、区間距離計は常時表示してほしいところです。
今回はHonda SENSINGの話を中心にしたため、文中の、全面液晶メーター内・マルチインフォメーションディスプレイ表示の写真はすべてACCやLKASがらみのものばかりになりました。しかしこのディスプレイは、「マルチ」の名が示すとおり、Honda SENSING以外の表示も多々行います。それらを表示中の写真もできるかぎり撮っておきましたので、マニアックですが、画像ギャラリーをごらんください。停止中に撮ったため、走行中のみ表示されるものは撮れませんでしたが、たぶん他サイトでは見ないものもあると思います。
さて、11の機能を持つHonda SENSINGのうちの5つを試しましたが、今回はここまで。5つ目の「オートハイビーム」については次回まわしとします。
その次回は、ライトについて解説していきます。
【試乗車主要諸元】
■ホンダフィット LUXE FF e:HEV(6AA-GR3型・2021(令和3)年型・電気式自動無段変速機・ミッドナイトブルービーム・メタリック)
・メーカーオプション:Honda CONNECTディスプレー+ETC車載器、プレミアムオーディオ
・ディーラーオプション:ドライブレコーダー、フロアカーペットマット
●全長×全幅×全高:3995×1695×1540mm ●ホイールベース:2530mm ●トレッド 前/後:1485/1475mm ●最低地上高:135mm ●車両重量:1210kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.2m ●タイヤサイズ:185/55R16 83V ●エンジン:LEB(水冷直列4気筒DOHC) ●総排気量:1496cc ●圧縮比:13.5 ●最高出力:98ps/5600-6400rpm ●最大トルク:13.0kgm/4500-5000rpm ●燃料供給装置:ホンダPGM-FI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:40L(無鉛レギュラー) ●モーター:H5(交流同期電動機) ●最高出力:109ps/3500-8000rpm ●最大トルク:25.8kgm/0-3000rpm ●WLTC燃料消費率(総合モード/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):27.2/26.5/29.6/26.0km/L ●JC08燃料消費率:35.0km/L ●サスペンション 前/後:ストラット式/車軸式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:242万6600円(消費税込み・除くメーカー/ディーラーオプション)
(文/写真:山口尚志)