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■トヨタ向けの鋼材価格を1トンあたり2万円値上げ
日本製鉄が特許侵害でトヨタを訴え、200億円の賠償金に加え、対象となるトヨタ車の日本国内での製造・販売の差し止めを求める仮処分も求めた。この件をニュースとして取り上げると、ネット民の反応は「トヨタは下請けいじめをして儲けている」とか「日本の技術を中国に流出させている」とトヨタバッシングに終始している。果たしてトヨタに問題があるのだろうか?
あまり知られていないことながら、今年10月にトヨタは「鋼材1トンあたり2万円の値上げ」を飲んだ。クルマ1台に1トン分の鋼材を使っていたら、原価レベルで2万円値上げしなくちゃならない。当然ながら車両価格の値上げに繋がる。給料や物価が上がらない中、クルマは値上げということになってしまう。トヨタはそれくらい大切に日本製鉄と付き合っているということです。
日本製鉄の業績、御存知だろうか? 2022年3月期の連結最終損益は従来予想の3700億円の黒字から5200億円の黒字に。40.5%上方修正です。今期業績の上方修正は7月に続き2回目! 14期ぶりの過去最高益予想をさらに上乗せしている。「トヨタが日本製鉄から安く叩いて鋼材を買ってる。下請けいじめだ」というコメントを書く人もいるが、日本製鉄ウハウハです。
●日本企業は覚悟をもって中国に進出している
もう一つ。中国で工場を作ろうとすれば、中国政府が半分出資することになる。当然ながら中国の優れた技術者も現場に入ります。日本製鉄は中国の国営企業である宝武鋼鉄集団と資本を出し合い、今回訴訟の対象になった宝山鋼鉄という合弁企業を立ち上げた。この時点で機密が漏れることを覚悟しなくちゃならない。それも「チャイナリスク」であり、誰でも知っている。
UQモバイルのCFのセリフ「リスクを冒さないことこそ、最大のリスクだ」は、中国市場に出て行く企業の全てが考えなければならないこと。それがイヤなら中国市場を諦めなくちゃならない。
中国に進出している日本の自動車メーカーに聞けば、皆さん口を揃えて「分かっています。だからといって中国の巨大な市場を諦めるワケにいかない。優れた魅力ある商品を中国企業より先んじて開発していく覚悟を決めています」。トヨタだけでなくホンダや日産も同じ。それだけじゃない。自動車メーカーの場合、ノウハウを持つ日本人技術者も良い雇用条件を提示され、中国企業に行く。
様々な分野の技術者が100人くらい居たら、日本と同じような品質のクルマになるだろう。といったことを覚悟した上で、トヨタはハイブリッド技術だけでなく燃料電池まで中国で作ろうとしている。ホンダも電気自動車を中国で生産することを発表した。技術、すべて盗まれることだろう。そうなった時「パクられた!」と騒いだって仕方ない。中国政府とケンカしたって損するだけ。
●突如背中から撃たれた?
日本製鉄は一般人に製品を売っているワケじゃないから、そのあたりの機微だって分からないのかもしれない。日本製鉄は中国に工場を作る際、機密漏洩や特許侵害の覚悟してなかった? 自動車業界的に考えたら、日本製鉄とトヨタはチームになって優れたクルマ作りをして世界と戦って欲しい。けれど日本製鉄のやっていることは自社の利益しか考えていないようにしか思えない。
自動車工業界の会長でもあるトヨタの豊田章男社長は新型コロナ禍でも「自動車産業がダメになったら550万人の雇用に影響する!」と訴え、頑張ってきた。日本製鉄だって自動車産業で利益を得ているチーム員のハズ。本来なら訴訟の前にTOP同士、話し合うべき内容。イキナリの訴訟、豊田章男社長からすれば突如背中から撃たれたような気分だろう。
(文:国沢光宏)
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