目次
■ゼロを超えた価値を意味するbZシリーズの先頭バッターはスバルと共同開発
●トヨタのアプローチは実用的で持続可能なこと
トヨタが、スバルと共同開発を進めてきた新型BEV(電気自動車)である「bZ4X」の詳細を発表しました。
発売時期は2022年年央、世界各地でいっせいにローンチするということです。現時点では価格については言及されていませんが、ボディサイズやバッテリー総電力量、モーター出力といった主要なスペックが明らかとなりました。
そうした具体的な内容を見ていく前に、トヨタのBEVに対するスタンスを整理しておきましょう。これまでトヨタはBEVには距離を置いているように見えました。エンジン(ICE)にこだわっていく意思も見せていましたし、燃料電池車(FCV)こそミライがあると主張していると感じられる面もありました。
そもそも、BEVなどのゼロエミッション車が求められる背景は何でしょうか。目的はカーボンニュートラルの実現(実質的なCO2排出量をゼロにすること)です。そのために、トヨタは「プラクティカル(実用的)&サステナブル(持続可能)」をキーワードにしています。夢のようなテクノロジーを実現しても、それが普及しないのでは意味がないというわけです。
BEVにおいてユーザーが我慢を強いられるようではサステナブルなモビリティとはいえません。また、バッテリーの劣化により走行距離がすぐに短くなるようでは実用的でもありません。
そうした課題をクリアできる目途がついたから、トヨタはBEV専用のbZシリーズを立ち上げたのでしょう。
●beyond Zeroという思いを込めた名前
「bZ」というシリーズ名称には「beyond Zero(ゼロを超えていく)」というメッセージが込められています。ゼロエミッションであれば良し、というのではなく、BEVのネガを消しつつ、BEVらしい走りを実現することを目指して、BEV専用プラットフォームをスバルと共同開発したのです。
より具体的にいえば、安心して安全に乗れるBEVが開発目標だったといいます。
最大の安心要素は航続距離で、とくに暖房によって電費が悪化するという冬場の実用的な航続距離を確保すると共に、バッテリーの劣化を抑えることで長く乗り続けられることを目指しています。実際に使ってみないとわかりませんが、トヨタによれば10年・24万kmを走ってもバッテリーの性能は90%が維持されているといいます。まさに安心して使うことができるBEVといえるでしょう。
床下に搭載されるリチウムイオン電池の総電力量は、71.4kWhと発表されました。
駆動モーターは、オーソドックスな交流フロントモーターのみとなるFWD(前輪駆動)と、前後にモーターを配した4WDを用意しますが、FWDの一充電航続距離は500km前後、4WDでは460km前後になるということです。
ユニークなのはシステム最高出力で、FWDで150kW、4WDでは160kWとなっています。モーターが二つあれば倍の力を発揮できるように思うかもしれませんが、バッテリーの能力によってピーク出力は決まってきます。このあたり、エンジン車であっても駆動方式によって出力がさほど変わらないのと同様です。
●太陽光発電により走ることも可能
なお、4WD制御についてはスバルのSUVでおなじみ「X-MODE」が搭載され、SUVらしい走破性を実現しているというのも注目でしょう。
いまどきの新型車ですから、ミリ波レーダーと単眼カメラをフュージョンした「トヨタセーフティセンス」など先進運転支援システムを搭載するのは当然ですが、安全面で気になるのはバッテリーです。
リチウムイオン電池は衝撃によって発火することは知られていますが、bZ4Xのバッテリーはクロス骨格を採用することで、衝突時に電池パックが影響を受けないよう守られています。また冷却用のクーラントは電気を通さないようにすることで、万が一の破損時にも漏電せず、発火を防ぐことが考慮されています。
さらに電池コンディションを常に監視することで異常発熱の兆候を検知するという機能を実装している点も注目でしょう。こうした機能は、バッテリーの安全性を確保するだけでなく、ロングライフ化にも貢献すると考えられます。
トヨタらしい安全へのこだわりは、これまでのBEVと一線を画すといえ、BEVの新しい安全基準となりそうです。
災害対策やレジャー対応として、給電機能を持たせているのも特徴でしょう。このあたりは、トヨタのハイブリッドカーにおける豊富な経験が活かされています。
とはいえ、BEVの外部給電というのはバッテリーに溜めた電力を放出するだけで、単に大きなモバイルバッテリーでしかないという見方もあるでしょう。しかし、トヨタbZ4Xは違います。ルーフにソーラーパネルを装着するグレードを設定、太陽光で発電した電気は駆動用バッテリーに充電することができるというのです。
その能力は驚くべきもので、一年間で1800km走行ぶんに迫るといいます。
使い方や条件にもよりますが、平均的なユーザーであれば年間走行距離の1割~2割に相当する発電能力を持ったBEVなのです。
●トヨタ初を連発、ユニークなコクピット
bZ4Xのバッテリーそのものを家庭用の電気ストレージとして活用するV2H(ビークル・トゥ・ホーム)にも対応することが考慮された設計となっているのも見逃せません。太陽光発電システムを自宅の屋根に設置しているユーザーであれば、電力コストにおいてもメリットが享受できるというわけです。
そして、bZ4Xがチャレンジングなモデルあることはコクピットが象徴しています。
トヨタ初となるダイヤル式シフトや、手の持ち換えを不要としたグリップタイプのステアリング(ステアバイワイヤ前提)の採用。さらにステアリングの上から覗き込むようなトップマウントメーターもトヨタ初の装備となっています。
操作系では、ワイパーやエアコンを音声でコントロールできるというのは、いかにもBEVらしい未来的な装備といえます。スマートフォンを利用したデジタルキーも用意されているということです。
まさしく、トヨタが満を持して生み出したといえるbZ4X。まずはミドルサイズのSUVからスタートしましたが、bZシリーズはフルラインナップ展開する予定ということです。
10年後でもバッテリー性能を90%確保するという、劣化を抑えた設計が市場に評価されれば、トヨタは一大BEVメーカーとして世界に認識されていくことになるかもしれません。
(山本 晋也)