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■セダンやワゴンはボディタイプの名称
「セダンタイプの~」や「ワゴンタイプの~」という言葉を耳にすることはありませんか? クルマをあまり知らない人からすると「セダンやワゴンって何?」と思う人もいるかもしれません。セダンやワゴンはボディ形状の名前です。今回はこのボディ形状の意味とその歴史について紹介していきます。
●その歴史は馬車にあり
基本的にボディ形状の名前は自動車の前身とも言える存在、馬車で用いていた響きをそのまま使用していることが多いです。まずはセダンやステーションワゴン、バンやクーペといった、自動車が誕生するより前から存在していた名称の意味や起源を紹介していきます。
●セダン
セダンは馬車時代にも使われていた言葉ですが、起源は更に前にさかのぼります。17世紀ごろのヨーロッパで上流階級の人間が座り、人力で移動していた椅子が付いたカゴ「セダンチェア」に由来しているそうです。「カゴを止めよ!」の言葉と共に時代劇で登場する、昔の日本で上級の武士や公家が乗っていたカゴのヨーロッパ版と言えばイメージが湧きやすいかもしれません。ちなみにセダンという言葉はラテン語で「腰掛ける」を意味する「sedeo」が由来とされています。
移動手段の主力が馬車に移行した時代でもセダンの名は引き継がれました。日本でも自動車の時代となった大戦後の1950年ごろからエンジン、乗員室、荷室(トランク)が分けられた3ボックス形状のスタイルをセダンと呼ぶようになりました。ちなみにセダンはアメリカ英語だそうで、イギリス英語では客室や応接室を意味する「サルーン」が使われています。
●バン
多くの荷物や人を乗せることができるクルマであるバン。その言葉の起源は「キャラバン」に由来します。元来キャラバンは「屋根付きの貨物車」を指す言葉で、そのキャラバンが略語となってバンになったと言われています。キャラバンからバンという短縮形になったのは19世紀前半と言われており、キャラバンは17世紀後半ごろから使われていたと言われています。
なお、大勢で隊を組み、砂漠を移動する商人の集団のことも「キャラバン」と言います。こちらは自動車や馬車を指す言葉としてキャラバンが誕生するよりも前からありましたが、明確に繋がりがあるかは不明です。しかし、多くの荷物と共に移動する商人たちを指す言葉であるので、多かれ少なかれ関係はあるものと思われます。商人たちを指すキャラバンはペルシア語の「カールバーン」に由来しています。
ちなみにミニバンや軽バン、ライトバンはバンの派生形とも言えるジャンル。日本市場でミニバンと聞くと3列シートの大きなクルマをイメージするかもしれませんが、アメリカやヨーロッパのバンはもっと大きいんです。
●ステーションワゴン
セダンの屋根をそのままトランクまで伸ばしたようなスタイルのステーションワゴン。こちらはステーションとワゴンが合わさった造語となっています。ステーションは英語で駅、ワゴンは馬車時代から荷物を運ぶ馬車に用いられていた名称。ステーションワゴンは2つが組み合わさったものです。
駅と荷馬車という意味が合わさったステーションワゴンは、列車が駅に到着し、列車から降りてきた人とその荷物を乗せて最終目的地まで運ぶ役割をしていたことに由来しているそうです。
●クーペ
スポーツカーなどに採用される2枚ドアのボディスタイルのクーペ。元々は2人乗りの箱型馬車がクーペと呼ばれていたことに由来しています。現在も屋根が付いた(オープンではない)2ドアのクルマをクーペと呼ぶので、そのような点と合致します。
クーペという言葉の語源はフランス語で、切られたという意味がある「coupé(クペ)」が由来とされていて、通常の馬車を切って短くし2人乗りにしたことからきているそうです。馬車時代にクーペは郵便馬車などに用いられていたそうで、街中でのスムーズな移動を実現するために短くされたものと思われます。
●ハッチバックやSUVは自動車が出来てから誕生
他にも現代の自動車市場においてはSUVやハッチバックなどがありますが、実はこれらのボディタイプは自動車が誕生してからできたとされています。
SUVは「Sport Utility Vehicle」の略で「スポーツ多目的車」という意味を持ちます。スポーツは娯楽や楽しみという意味で、Utilityは実用性や利便性、Vehicleは車両という意味を持ちます。簡単にSUVの意味を紐解くと「アウトドアなどの娯楽に使いやすい利便性の高い車両」という意味になります。
SUVの起源は、アメリカ軍で採用された偵察や連絡に用いた小型四輪駆動車「ジープ」に端を発します。そこから民間転用され、悪路走破性の高いクルマたちが市場に求められるように快適性などを身に着け、現在のSUVの形になったという感じです。それ以外にも、アメリカでピックアップトラックの荷台に屋根(ハードトップ)を取り付け、ステーションワゴンのような形にし、これが人気となったという面もあります。
跳ね上げ式もしくは横開き式のバックドアを持つハッチバック。このバックドアが跳ね上げ式では水平、横開け式でも寝かされた角度になることから、船のハッチに見立ててハッチバックという呼び方が付いたそうです。
ハッチバックの起源は明確には不明ですが、1961年に登場したルノー4が元祖と言われています。以降ハッチバックは小型ながら積載性の高い経済的なボディタイプとして普及していきました。そして1974年に登場したフォルクスワーゲンゴルフの大ヒットが、ハッチバックを広く普及させるきっかけになりました。
馬車の時代に馬車に乗れたのが基本的に上流階級の人だけたったことを考えると、ハッチバックの登場は自動車の民主化に成功した証とも言えるでしょう。
(西川 昇吾)