トヨタは電動化時代でも世界をリードできるか? 2030年までに約1.5兆円を投資へ

■2030年までの車両・電池一体開発により、台当たりコスト50%以下の実現を目指し、EV、PHV、HVのさらなる普及を目指す

近年、「CASE」の中でも電動化の「E」の注目度が高まっています。EUは、2035年にハイブリッドを含めたガソリンエンジン車販売禁止を打ち出し、アメリカのバイデン大統領も2030年のEV比率を最大50%にするという目標を盛り込んだ大統領令にサインしています。国や地域の電動化車両の前倒しは、国や地域の産業保護という側面は当然あるでしょう。

トヨタ bZX4
間もなく市販化されるトヨタ「bZ4X」のコンセプト

また、電動化するということはコスト増に直結するのが現状だけに、電池のコストをどう減らすのかも重要です。いくら政治で規制してもユーザーがEVを買わず、クルマ(マイカー)離れが加速してしまっては、元も子もありません。

トヨタは、2021年5月の決算発表時に「2030年に電動化車両を800万台、バッテリーEV(BEV)、FCVを合計で200万台」とする電動化戦略を明らかにしています。

トヨタ CH-R
2020年に発表されたCH-RのEV仕様

そんな中、トヨタは「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」をオンラインで開催、前田昌彦Chief Technology Officerがプレゼンテーションを行いました。

同社では、再生可能エネルギーがこれから普及する地域では、ハイブリッド3台のCO2削減効果は、EV1台とほぼ同等と試算しています。そのため、現時点では、比較的ハイブリッドの方が安価に提供できる地域では、ハイブリッドの普及がCO2削減に効果的と考えているようです。

一方、欧州の一部の国など、再生可能エネルギーが豊富な地域では、EVやFCVなどのZEV(ゼロエミッションヴィークル)の普及がより効果的だと分析。また、南米のような地域では、バイオエタノールをCO2削減への対応として実用化されている例も挙げています。エネルギー事情により、CO2排出量を削減する選択肢も異なるため、カーボンニュートラルの達成に向けて様々な方策にトライを続けていくとしています。こうした視点に基づき、トヨタの戦略は、電動車両をフルラインナップで準備する体制を敷いています。

トヨタ アクア
バイポーラ型ニッケル水素電池を搭載する新型アクア

ハイブリッドは出力型(瞬発力)を重視し、PHVやEVは容量型(持久力)を重視しています。初代プリウス以降、トヨタはハイブリッド用電池として、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池をそれぞれの特徴を活かして継続的に進化させています。新型アクアには、瞬発力を重視したバイポーラ型ニッケル水素電池が搭載されたのが一例で、今後、搭載モデルを拡大していくそう。

トヨタ バイポーラ型ニッケル水素電池
従来のニッケル水素電池とバイポーラ型ニッケル水素電池の違い

バイポーラ型ニッケル水素電池は、豊田自動織機との共同開発により駆動用車載電池として実用化されています。先代アクアに搭載された電池と比較しても出力密度は、2倍に向上。パワフルな加速感を実現しているそうです。

また、次世代EV用電池としては、1996年に発売したRAV4 EV以降、培われてきたEVの技術やハイブリッドで蓄積してきた電池、電動車両の最新の技術をTOYOTA「bZ4X」に盛り込み、まもなく市場に投入されます。この「bZ4X」では、90%という世界トップレベルの耐久性能を目標に置き、達成に向けて、開発の詰めを行っているところだそう。

また、PHV、EV用のリチウムイオン電池は、コストと持久力の両立を図り、今後も継続的に改良されています。

新型電池の開発も推進していく構え。2020年代後半には、より進化した新型リチウムイオン電池を実用化するべく開発をしているそうです。トヨタでは「安全・長寿命・高品質・良品廉価・高性能」という5つの要素を高次元でバランスさせることを重視していて、今後もこの要素を重視するそう。

トヨタ バイポーラ型ニッケル水素電池
豊田自動織機との共同開発により実用化されたバイポーラ型ニッケル水素電池

また、ハイブリッド用の電池開発で培った技術を活用し、C-HR EV用の電池ではそれまでのPHVに採用していた電池より、10年後の容量維持率を大幅に向上するとしています。

長寿命化の開発では、リチウムイオン電池内部の詳細な解析から、電池の負極の表面に発生する劣化物が、電池の寿命に大きく影響することが分かっているとのこと。この劣化物の発生を抑制するため発生メカニズムを明らかにし、材料の選定やパック構造、制御システムなど様々な面で対策が施されています。

また、欠かせない要素である高品質への取り組みの一例として、製造工程に電池に金属異物が入り、正極と負極が電気的に直接つながってしまうと故障につながる可能性があります。工程内に入り込んでしまう異物の形状、材質、大きさと耐久性への影響を確認し、電池へ影響を与える関係性を明確にしたそうです。

気になるのは、将来の電池戦略でしょう。

EVの普及のためにはコストを低減し、リーズナブルな車両価格で提供したいと考えているようです。そのために、電池のコストを材料や構造の開発により30%以上の低減を目指すとしています。

車両では、1kmあたりの消費電力の指標である電費をTOYOTA bZ4X以降、30%改善を目指すそうです。電費改善は電池容量の削減につながるため、コストの30%低減になります。車両、電池一体開発を行うことで、20年代の後半には、TOYOTA bZ4Xと比べて、台当たりの電池のコスト50%低減を目指すとしています。

さらに、次世代電池については、液系電池は材料の進化と構造の革新に挑戦するとしています。さらに、全固体電池の実用化も目指す構えです。

以上、3タイプの電池開発を実施し、2020年代後半にはそれぞれの特徴をレベルアップしたいそう。全固体電池については、高出力、長い航続距離、充電時間の短縮などのユーザーメリットが出せないか開発しているそうです。2020年6月には、全固体電池が搭載された車両が製作され、テストコースで走行試験を実施し、車両走行データを取得できる段階に来ているとのこと。

こうした走行データをもとに改良を重ね、2020年8月には、全固体電池が搭載された車両でナンバーを取得し、試験走行を実施。全固体電池は、イオンが電池の中を高速に動くため、高出力化の期待に応えてくれます。さらに、全個体電池をハイブリッドにも適用し、同電池の利点を活かしていきたいとしています。

一方、全個体電池には、寿命が短いという課題もあります。課題を解決するためには、引き続き固体電解質の材料開発を主に、継続していく必要があると考えているそうです。

トヨタ バイポーラ型ニッケル水素電池
バイポーラ型ニッケル水素電池のシステム概要

車両と電池の一体開発を推進しているトヨタは、台当たりコスト50%以下の実現を掲げています。供給は、その時々のニーズに合わせフレキシブルに対応。EVの普及が予想以上に早い場合でも、現在トヨタが検討している180GWhを超えて、200GWh以上の電池を準備することを想定しているそうです。

電池の供給体制の整備と研究開発の投資額は、2030年までに約1.5兆円になると見込んでいるそうです。

塚田 勝弘

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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