■これほど気を遣わずに乗ることができるミッドシップスポーツは珍しい
2020年の東京オートサロンで、国内初お披露目となった8代目のシボレー・コルベット。それから約1年半以上経過し、ようやく試乗することができました。

“C8”と呼ばれる8代目のシボレーコルベットのトピックスは大きく3点あります。
まずは日本市場には右ハンドル車が導入されること。従来のFRレイアウトからミッドシップへと駆動方式が変わること。そして、コルベット試乗初となるコンバーチブルは、リトラクタブルハードトップを採用していることが挙げられます。
今回試乗したのは、車両本体価格1400万円のコルベットクーペ3LT。
クーペモデルでもルーフは手動で外すことができ、タルガトップのようにオープンエアを楽しむことができます。


ミッドシップのスポーツカーというと、高い走行性能を追求したアスリート系のクルマということで、乗るこちらも身構えてしまいがちです。
トーチレッドと呼ばれる真っ赤なボディの新型コルベットの尖ったスタイリングはまさに圧倒的な存在感を放っていることは、振り返る人の多さでわかります。
これまでのロングノーズではなく、いかにもミッドシップスポーツカーらしいフロント40:リア60という優れた重量配分を感じさせるフォルムが特徴です。


乗り込んでみると、コルベット初の右ハンドルということですが、ペダルレイアウトに違和感はありません。四角いステアリングを中心に作られたコックピットは、メーターパネルにフルデジタルの液晶画面を採用。ドライブモードを切り替えるとグラフィックが変わります。
センターパネルにはドライバー側に傾いた8インチのタッチクスリーンナビゲーションシステムを採用。
そして特徴的なのがセンターコンソールに設置されたエアコンの操作スイッチが並べられたスロープ状の壁。これによりドライバーとパッセンジャーが独立した空間に演出されています。ちなみにタッチパネルでエアコンの調整ができるので、エアコン操作スイッチを使うことはほとんどありませんでした。


センターコンソールにはシフトスイッチとドライブモードの切替スイッチに加えて、カメラの切替スイッチがレイアウトされます。
その中にフロントリフトのスイッチは3LTとコンバーチブルには装備されています。
このフロントリフトスイッチは、スーパースポーツカーの証明とも言える装備で、3秒以内に車両前方の車高を約40mm上げることができます。これにより立体駐車場や段差などにも対応でき、リップスポイラーを擦ることもなくなります。

シート後方に縦置きでレイアウトされる6.2L V型8気筒OHVエンジンは、最高出力502ps・最大トルク637Nmを発生。組み合わされるトランスミッションは8速のデュアルクラッチシステムで、素早くダイレクトなシフトチェンジが特長です。
そして、新型コルベットはフロントとエンジンの後方の2ヵ所にトランクスペースを確保しています。2ヵ所合わせて約356.8Lという容量を実現し、クーペの脱着式カーボンルーフもエンジン後方のスペースにキチンと収まるので実用性の高さを感じます。




実際に新型シボレーコルベットに試乗すると、アスリート系ミッドシップスポーツカーとは異なることがすぐにわかります。
まずシートポジションですが、最も低いポジションにしても身長170cmの自分でもメーターパネルを上から見るアップライトのポジションとなります。これによって前方のボディも見ることができるというメリットがあります。
一般的なミッドシップスポーツカーは低いドライビングポジションとなり、ボディの前方が見えないことが多いのですが、コルベットは違いました。


走行フィールも最高出力502psの6.2L V8エンジンとは思えないほどジェントルで扱いやすいです。
アクセルを踏めばV8サウンドとともに圧倒的なパワーを発生しますが、ツアーモードで走行すれば、フロント245/35ZR19・リア305/30ZR20という大径タイヤを装着しているとは思えず、ラグジュアリーカーと勘違いするほど快適です。


とにかく街乗りでは扱いやすさが際立つスポーツカーですが、トラックモードやミッションの制御も調整できるZモードで走行すると、ハイパフォーマンスモデルという表情を表すことでしょう。

これほど運転しやすく、そしてラゲッジスペースなど利便性の高いミッドシップスポーツカーは初代ホンダNSX以来かもしれないと感じました。
これだけの高性能ながら、コルベットクーペ3LTは1400万円という価格ですから、売れ行きが好調なのは納得できます。
(文・写真:萩原 文博)