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■「また進化している」と思わせる無限の伸びしろ
8代目が登場した自動車界の“みんゴル”こと、VWゴルフ。
1937年にフォルクスワーゲン(VW)が設立されて最初に国民車(みんなのクルマ)として誕生したのは今でも人気のあるビートル(1941年~)だけど、1974年にゴルフが登場してからは、実用車としてのポジションはゴルフに移り変わり、ゆえに“みんなのゴルフ”と称しても良いのではないでしょうか。
これまでも世代を重ねる度に進化を続けるゴルフに「またもや進化をしてる」と無限の“伸びしろ”ぶりを抱き、驚かされ続けてきましたが、8世代目となった新型では“進化”とともにゴルフが新たな“変化”のときを迎えているようです。
その印象を強めているのが、動力にVWが「eTSI」と呼ぶマイルドハイブリッドを採用し、より身近な電動化モデルの投入を行ったことと、その走行性能、そしてインテリアの雰囲気も変えるデジタル技術の採用です。
●買い替え派も安心できるボディサイズ
それらを紹介する前に、やはり気になるのは新型ゴルフのボディサイズではないでしょうか。
今回は全長4295mm(先代比+30)×全幅1790mm(-10)×全高1475mm(-5)とほぼ変わらぬサイズをキープ。ラゲッジ容量の380Lや前後シートまわりの空間も変わらず、このクラスにして十分な広さが保たれています。
最新モデルへのリピート買い換えの方々の駐車場事情や、より実用的かつコンパクトなモデルを新たに探している方たちにとっても、これはポジティブに捉えることができるでしょう。
ここに纏うデザインはボディ形状としては正統派ハッチバックスタイルを踏襲。ゴルフの伝統かつ象徴でもある“く”の字Cピラーデザインも健在。
一方で新型ゴルフにこれまでよりもデザイン性を感じるのはLEDライトの採用と、それらを取り巻くテイストが変わったからかもしれません。水平基調をコンセプトとするフロントマスクはLEDライトの採用によってヘッドライトの性能が増しつつも小型化。
そんなライトを従えたグリルのラインは薄く、一方でバンパーには開口度広めかつ大胆なデザインが採用され、視覚的に低重心でワイドな印象を与えてくれます。
●高速道路でも不満のない1.0eTSIエンジン
そして先に挙げた、より身近な電動化モデル”eTSI”について。
これまでもVWのガソリンエンジンはTSI、ディーゼルをTDIと呼んできましたが、新型ゴルフのガソリンエンジンに電動アシストシステムを採用するモデルにはエレクトリックの“e”が付く”eTSI”が、VWとして初めてラインナップに加わることになりました。
新型ゴルフには1.0L直噴ターボエンジンを搭載する1.0eTSIと1.5L直噴ターボエンジンの1.5eTSIのそれぞれに48Vシステム(バッテリーや発電システムなど)と7速デュアルクラッチ(AT)を組み合わせて搭載。
発進/加速時やアイドリングストップ後のエンジン再始動時などに、減速時により大きなエネルギーを回生(=回収)して貯めた電力を使って電気モーターが駆動をアシストしてくれるのですが、その大きなエネルギーを回生できるのも48Vならでは。
この2つの動力は、先代のそれらと置き換わるようなイメージでラインナップされています。
1.0eTSIモデルは110ps/200Nmを発揮しますが、これは先代の1.2TSIの105ps/175Nmよりも大きな動力を持っていることが数値でもわかると思います。これに電気モーターの13ps/62Nmがアシストしてくれるのは十分な印象。発進が軽く静かに、滑らかに走り出し、街中ではあっという間に十分な速度に達し、高めのギヤ(=低回転を保って走る)で静粛さを保ったまま走行を維持することもしやすい。
走行モードはお馴染みのエコ/ノーマル/スポーツ/カスタムから選ぶことができ、エコモードを選択すると一定走行中にコースティング(惰性)走行も行われます。また1.0Lエンジンは直噴ターボに電動アシストが付いているとはいえ、街中走行が多い方向けかなと思いきや、高速道路でも十分にしっかりと走ってくれます。
加速の速さは十分であり、加速の伸びは1Lターボとしては相当なもの。1~2人の大人の長距離移動でも個人的にはこちらで十分という印象を受けました。
●いざというときの頼もしさを備えた1.5eTSIエンジン
1.5eTSIは1.0eTSIより新鮮さは薄いかもしれませんが、1.5L直噴ターボエンジンの150ps/250Nmは先代の1.4TSIの140ps/250Nmと比べてわずかにパワーアップし、さらに前述の電動アシスト(13ps/62Nm)が加わります。
発進/加速時の静粛さや滑らかな走行フィールは1.0eTSIと同様ながら、加速力はもちろん高速走行時にアクセルをわずかに踏み足すようなときにも排気量分のトルクの厚みと加速性能が得られ、やはりこちらの方が頼もしい。走行モードやコースティング機能はこちらにも採用されています。
ガソリン消費の最も多い発進/加速時を電動アシストしてくれることでドライブフィーリングも燃費にも貢献してくれるこのeTSI=マイルドハイブリッドは、新型ゴルフの走りの質を高めたドライブフィールをさり気なくアシストしてくれていることは間違いなし。カーライフスタイルに合わせて排気量を選べば良いと思います。
さらに新型ゴルフには4つのグレードが用意されているのですが、そのうちの1.5eTSI搭載モデルにはR-Lineというよりドライブフィールの洗練度が増すモデルの設定があります。専用のスポーツサスペンションや、プログレッシブステアリングという、低速走行や車庫入れではハンドル操作を低減し、ワインディングではスポーティさを楽しめる操舵システムを採用。
新型ゴルフのドライビングフィールはスタンダートモデルも含め基本的には軽くしなやか、その上、安定性も安心できる性能がうかがえます。対するR-Lineは骨太感も増すようなカッチリとした走りをコーナリングでは得られ、街中ではゴルフの取り回しがよりスマートに行えるプラスαの性能を持つモデル。
スポーティと質感の増す内外装も含め、ゴルフというコンパクト系モデルに走りと質をより求めるなら、スポーツカー好きでなくてもR-Lineは選択肢の1モデルになり得るでしょう。
●デジタル化にも「置いてきぼり」にしない配慮が…
冒頭でもご紹介したように、新型ゴルフのインテリアはデジタル化が加速した印象が強いです。
運転中でもクルマの状態を目の前のメーターパネル上に“必要十分”な情報を、さり気なくもチョイチョイ表示してくれること、またその内容の整理/洗練ぶりもいいなと思いました。
デジタル化とインテリアの関係は、“デジタルコックピット”とインフォテインメントシステムに機能が集約されたことで、ダッシュボード周辺のスイッチ類の数が減ったところにあります。シフトレバーも小ぶりになり、前席のドアを開けた瞬間にシンプルな雰囲気が伝わり、これまでと違った新しさを感じられるのではないでしょうか。
ただ、多くのブランドがデジタル化を進め、大型のタッチスクリーンを採用して様々な機能(オーディオやナビ、エアコン、車両設定など)の操作をこの中で行うものが増えていますが、モデルによっては欲しい機能や情報を探すことが煩わしいものもあります。
老若男女問わず親しみやすさと扱いやすさを与えている印象のあるVWのなかでも“みんゴル”は、使う頻度の高いエアコンやオーディオのボリュームなどはスクリーン下のパネル上に独立して配置。またドライバー向けにはステアリング上に操作スイッチを設け、近年、自動車界でも進むデジタル化においてもなるべくユーザーを置いてきぼりにしない配慮がうかがえます。
●ロングドライブの強い味方 “Travel Assist”を初搭載
センタースクリーンの活用について特徴的なのが、新型ゴルフに数多くの標準機能が追加された運転支援技術と、それらの操作を行うタッチスクリーンの使いやすさ。
ステアリング、アクセル、ブレーキ操作を210km/hまでの速度域でサポートしてくれる“Travel Assist”が初搭載。高速道路を使ったロングドライブの快適性や安全性が増すのは間違いないでしょう。
そしてそれらの機能の設定をカスタマイズする際、一般的には機能用語がリストアップされているものが多いのですが、VWでは”ドライバーアシスト“画面上のグラフィック(ビジュアル)をタッチしながら直感的に変更できるのがとても良いと思いました。専門用語を理解して選んで…というのが一般的なところ、VWではビジュアルで認識→選択などの操作が行えるのが良いんですね。
新型ゴルフではスマホとの連携がワイヤレスでも行えるようになったほか、専用の“We connect”アプリを使用したモバイル オンライン サービスも標準装備。エンタメを車内に持ち込む自由度と快適性も増すのではないでしょうか。
またグレードによって10~30種類のインテリア アンビエントライトのカラー設定ができるようになったというのも新しいです。
新型ゴルフのシンプルで機能的なインテリア、この間接照明がナイトドライブの感性を、ときに刺激的に、もしくは癒やしの空間へと演出してくれそうです。
今年2021年3月、VWは新たなモビリティ戦略を発表。それはデジタル化、自動運転、そして2030年を目処とするe-モビリティ攻勢などが含まれており、この新型ゴルフ8にもその戦略がうかがわれます。
戦略なんていうとそれをユーザーが押しつけられるイメージがあるかもしれません? いえいえ、新型ゴルフの “みんゴル”ぶりは健在なのでした。
(文:飯田 裕子/写真:井上 誠)