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■新技術を大量投入しあらゆる路面のグリップを向上しつつ減ってもグリップを持続
●総合性能を高めた「アイスガード7 iG70」
横浜ゴムはスタッドレスタイヤの新作「アイスガード7 iG70」を発表しました。前作となる「アイスガード6 iG60」から4年目に登場した新作モデルとなります。
横浜ゴムは1985年に同社初となるスタッドレスタイヤ「ガーデックス」を市場投入、2002年には吸水ゴムを採用した最初のモデル「ガーデックス」を発売、今シーズンはちょうど20年目となる節目の年となっています。
スタッドレスタイヤ黎明期はまだスパイクタイヤを装着したクルマも多数走っていて、スパイクタイヤが削ったザラザラ路面が多くあり、それなりのグリップを得ることができました。
しかし、現在はスパイクタイヤが禁止されているため、ウインターシーズンの路面はスタッドレスタイヤの空転やスリップによって磨かれたツルツルのアイスバーンが出現、以前よりも高いアイス性能が求められるようになりました。
もちろんウインターシーズンは、スノー、シャーベット、ウエット、そしてドライといったさまざまな路面が存在するため、それらの路面にも対応する性能が求められています。
●ユーザーがスタッドレスタイヤに求めるものは?
横浜ゴムの調査によれば、ユーザーがスタッドレスタイヤに求める性能のうち、もっとも比率が高いのが「氷上制動」、続いて「雪上制動」となっています。
さらに続くのが氷上と雪上の旋回、発進、登坂といった走行性能なのですが、それに続くのが「効きの長持ち」となっています。つまりユーザーが氷上、雪上での走行性能の次に求めるのが、スタッドレスタイヤとして長く使えるというものでした。こうした背景をもとに、「アイスガード7 iG70」は総合性能を高めたタイヤに作り上げられています。
トレッドデザインはイン側/アウト側にそれぞれ役割を分担させたタイプのものです。スタッドレスタイヤ黎明期の1980年代は、タイヤ接地面の面圧をアップするために1サイズ細いものを履くといい…というような話もあったのですが、現在のスタッドレスタイヤは接地面積が広いほうがしっかりとグリップする設計となっています。
「アイスガード7 iG70」はアイスガード史上最大の接地面積を誇る設計が施されました。センターにはマルチベルトブロックEXと呼ばれる縦長のベルトブロックを配置、イン側にはコレクティブビッグブロックEX、イン側にはパワーコンタクトリブEXと呼ばれるデザインを配置し、アイス路面でしっかりとグリップします。
スタッドレスタイヤでは、溝の角部分であるエッジの量がグリップに大きく影響します。「アイスガード7 iG70」ではイン側には傾きの角度が異なる複数の横溝を配することで、発進と制動の両方にエッジ効果を発揮。センター部とアウト側にはジグザグデザインの溝を使うことで、コーナリング時のグリップとしっかりとした排雪を可能にしています。
また、従来の「アイスガード6 iG60」では、タイヤが摩耗するに従ってサイプ(トレッド面に無数に刻まれている細い切れ込み)が細くなっていく断面構造でしたが、「アイスガード7 iG70」では、50%摩耗時では新品よりも細くなるような断面構造とすることで、ウインター性能が長く効くことを実現しています。
トレッドに使われるコンパウンドには、ウルトラ吸水ゴムという新しい素材を配合したゴムが採用されました。氷上でタイヤが滑るのは、氷とタイヤの間に薄い水膜が発生するのが大きな原因で、この水膜を除去することが氷上グリップを向上するための大きなポイントとなります。
「アイスガード7 iG70」では、コンパウンド内に気泡を形成するマイクロ吸水バルーンを新しく新マイクロ吸水バルーンに進化、吸水スーパーゲルと組み合わせることで高い吸排水性能を実現。さらにマイクロエッジスティックを配合することで、ミクロのひっかき効果も生み出しています。
スタッドレスタイヤは低温によってコンパウンドが硬くなると路面追従性が低下するため、しなやかなコンパウンドが求められます。このしなやかさを実現するため、ホワイトポリマーIIという配合物を採用。従来から使用しているシリカの分散性を向上させることに成功。
もちろん、横浜ゴムが培ってきたオレンジオイルも採用され、長年にわたってしなやかさも継続させることにも成功。コンパウンド面での長持ち性能を確保しています。
●新機能を試してみた!
この新技術を満載した「アイスガード7 iG70」を、2021年2月に横浜ゴムのテストコース(北海道旭川市/Tire Test Center of Hokkaido=TTCH)とその周辺の一般道で試乗することができました。
まず、多くのユーザーがもっとも気にしているという氷上制動の性能です。このテストは、TTCHの屋内氷盤試験路と呼ばれるコースを使用しました。今期より屋内氷盤試験路には冷却装置が設置され、より安定した氷盤を作り上げることに成功しています。
プリウスを使って先代モデルとなる「アイスガード6 iG60」と「アイスガード7 iG70」の比較試乗を行いました。以前に「アイスガード6 iG60」をこの屋内氷盤試験路でテストしたときは、しっかり止まるタイヤだなと感心した記憶があるのですが、あらためて「アイスガード7 iG70」と比較すると「アイスガード7 iG70」がより制動力が強いことを確認できました。
まず、ブレーキを踏んだ瞬間のグッと前輪に荷重が乗る初期制動力の強さを感じます。この初期制動力が強いからこそ、フロントタイヤがどんどん路面に食い込んでいって制動力を発揮している感覚です。テストは30km/hからのフルブレーキで行いましたが、制動距離の差は70cm程度となり、かなりの安心感を得ることができました。また、発進時のグリップ感も高くしっかりとしたものであったことを付け加えておきます。
雪上のスラロームで「アイスガード6 iG60」と「アイスガード7 iG70」との比較では、ヤリスのFFを使用しました。アイス路面に比べるとその差は少ないのですが、発進も若干しっかり感を感じます。
速度を合わせて、スラロームをしていくと、どちらのタイヤもグリップ感はしっかりあって路面を追従していくのですが、速度を合わせることをやめて限界を試していくと、「アイスガード7 iG70」のほうが最終的に厳しくなってきます。これは「アイスガード7 iG70」のグリップが弱いのではなくて、グリップがいいためにスラロームの奥に行くほど速度が上がってしまっているのが原因なのです。
またテストコースでは比較試乗だけでなく絶対評価として、各種駆動方式との組み合わせによる試乗も行いました。用意されたクルマは4WDがトヨタ・ハリアー、スバル・レヴォーグ、FFがプジョー508、シトロエンC3です。これら4台はもっとも長い雪上ハンドリングコースでの試乗です。
比較的長めの直線と大小のコーナーが設けられたハンドリングコースでは、どの駆動方式であっても安定感のあるハンドリングが実現できていることがわかりました。
とくに4WDモデルとの組み合わせでは、しっかりとした駆動を確保できるために、かなり速めのペースで走ることができます。ブレーキを使って積極的に荷重移動を行えば、かなりアクティブな走りもできてしまうところには驚かされる場面もありました。
●大パワーFR車のスープラでも安心感あり!
テストコースで最後に試乗したのが、トヨタ・ヴェルファイア(4WD)とGRスープラを使っての雪上スラロームです。車重2トンのアルファードでも、その走りは安定感にあふれていました。重いクルマは滑りはじめるとコントロール下から外れてしまい、運転中になすすべがなくなるようなこともあるのですが、「アイスガード7 iG70」との組み合わせは好感度のあるものでした。
FRのGRスープラでは、ちょっとアクセルを余分に踏むとリヤタイヤはすぐに限界を超えます。ステアリングを切りつつアクセルを開けていくと、すぐにテールスライド状態になります。
せっかくのテストコースで安全が確保された状態での試乗ですから、VSCをカットして試乗しましたが、滑り出しのタイミングなどはわかりやすく、コントロールしやすい印象です。もはやこの組み合わせは楽しいのひとことに集約できてしまうようなものでしたが、ここまでグリップするスタッドレスタイヤがあるなら降雪地帯でも…いや、降雪地帯だからこそFRに乗るという選択肢がありそうです。
一般道試乗ではカローラスポーツの4WDを使い、旭川市内から旭岳を目指し、そこから旭川空港に戻るというコースです。高速道路は含まれていませんでしたが、北海道の一般道はそれなりのハイペースで流れています。
途中、ほぼドライといえるような路面もありましたが、大きくノイズを感じることはありませんでした。最近は冬季でも通行量の多い一般道は雪がとけてウエットとなっていることが多いのですが、ウエットでの不満もありません。
今回はチャンスがなく、ウエット路面でフルブレーキングは行えませんでしたが、普通にブレーキングしているフィーリングだと安心感は高いものでした。また、ドライ路面での腰砕け感もなく、これならオールシーズンタイヤとして履いてもイケるかなと感じました。
4~5年ごとに新作となるスタッドレスタイヤですが、乗るたびに進化を感じるのはすごいことだと毎回感じます。さまざまな路面が混在する日本のウインターシーズンは、タイヤメーカーに厳しい要求を突きつけますが、それがあるからこそ日本のスタッドレスタイヤが高性能化していくことを実感できました。
(文:諸星 陽一)