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■ピロボールジョイント付きボディ補正パーツはドライバーの意思を正確に伝える
●STI・辰己英治渾身のレヴォーグ用チューニングパーツが発売!
スバルのモータースポーツ部門を担当するスバルテクニカインターナショナル(STI)には、クルマ作りに執念を燃やす職人気質のエンジニアがいます。
その名は辰己英治氏。
初代レガシィの開発ドライバーにして現・STI技術顧問、さらにはニュルブルクリンク24時間レース参戦チームの総監督も務めるスバルの重鎮にして、誰もに愛されるよきカーガイです。
その辰己氏が開発したボディパーツが、フレキシブルタワーバー、フレキシブルドロースティフナーの名で呼ばれるものです。今回、レヴォーグのリヤ用フレキシブルドロースティフナーが完成したとのことで、試乗会が開催されました。
フレキシブルタワーバーやフレキシブルドロースティフナーは、ボディのある2点を結合して剛性バランスの向上などを図るものですが、単純な補強パーツではありません。ポイントは「完全に剛体結合しない」ということにあります。
フレキシブルタワーバーにしてもフレキシブルドロースティフナーにしても、ボディの左右を連結し引っ張るように力を掛けてボディ剛性を補正するパーツです。
フレキシブルタワーバーはバー中間部分に、フレキシブルドロースティフナーはボディとの結合部分にピロボールジョイントが存在します。ピロボールジョイントが存在することで、片側から入った力がもう片側に伝わる際の力を一定方向に修正でき、クルマの剛性バランスを補正できるということです。また、このピロボールジョイントによって、変位を抑える部分は抑え、変位させるべき部分を変位させるという効果も生み出します。
辰己氏はプレゼンテーションのなかで、「ボディを硬くすればクルマがよくなった時代があったが、それがだんだんと変化してきて次第に硬くするだけではだめになってきた。ボディを硬くしなくてもいいパーツがあるのではないか?と試行錯誤しているうちに、剛性アップパーツの途中にピロボールジョイントを入れ込むことを思いついた」と説明します。
前述のように変位する部分と変位しない部分をうまくバランスさせることで、ステアリングを切った際の初期の初期、舵角にして1度くらいの領域での安定感の向上をねらったといいます。
コーナリング時はロールによって外側のタイヤが押しつけられ、内側のタイヤが浮くという姿勢になります。辰己氏によると「この状態だと外側タイヤのグリップが高いので、クルマは外から押される。外側から押されるとクルマの挙動がグラッとしてしまう。しかし、フレキシブルドロースティフナーを装着することで、内側タイヤのグリップを向上することができ、内側に引っ張られるような動きになり、結果としてクルマが安定する」とのことでした。
●計測機材を使用し徹底テスト、決行!
テストドライバーの官能評価では明らかに性能が向上しているが、それを数値しないと周囲の人には納得してもらいづらい……ということで、辰己氏はステアリングロボットと呼ばれるテスト機材を使って数値化しています。
ステアリングロボットというのは、レヴォーグに車両速度やステアリングの切り角、転舵速度を自動制御する装置と、各種センサーによりヨーレートや3軸Gなどを計測する車両のことです。
どんなに熟練したドライバーでも同じ条件で運転するのは難しいものですが、このステアリングマシンならば何度でも運転状況を再現し、定量化できます。そして、フレキシブルドロースティフナーの有無によってヨーレートやGなどがどう変化するかを数値化できるというわけです。
ステアリングロボットを使い微少舵角でのレーンチェンジをテストした結果は、辰己氏の官能評価と見事にシンクロしていたのです。
掲載したグラフは、ステアリングロボットを使ってのテスト結果です。横軸が時間、縦軸はヨー角となります。グラフの線はすべて同条件(同速度、同転舵角、同転舵速度)で行われたもので、路面の状況差などによりデータに差が現れています。なお操舵開始前のステアリングは完全に固定されているとのことです。
フレキシブルドロースティフナーが装着されているレヴォーグは操舵終了後の動きが安定しばらつきが少ないことがわかります。つまり、ねらった動きを実現できるということです。
さらに興味深いのが操舵が開始される前のヨー角の動きです。フレキシブルドロースティフナーが装着された状態のほうがヨー角の発生が緩やかで小さい傾向が見られます。つまり、クルマが自ら直進状態を作りだそうと動いている様子がうかがえます。
●運転が上手くなるパーツ!?
さて、試乗用に用意されたスラロームコースを実際にドライブした印象です。スラロームと言っても転舵量は20~40度程度で、車幅半分程度の横移動という動きです。
まずはノーマル状態(といっても各種STIパーツが装着されています)のレヴォーグに乗って、スラロームを行いフィーリングをチェックしました。速度は35km/hとしました。数回スラロームを繰り返し、ノーマル状態でのフィーリングを身体に覚えさせます。
さて次は前後にフレキシブルドロースティフナーを装着、さらにフロントのストラットタワーにはフレキシブルタワーバーが装着されたモデルに乗ります。
まず最初に感じたのはステアリングの操舵感が若干重くなっていることです。とはいえ比較して重いと感じる程度で、運転がしづらくなるというものではありません。ステアリングを切っていくと素直にクルマが向きを変えます。ノーマル状態より半テンポ早い感触です。
面白いのは頭が振られる感覚が変わらないことです。テンポよくクルマが動けば身体も持っていかれるはずですが、そうならないのです。
ステアリングを押さえている力を緩めるとセルフアライニングトルクが働き、タイヤは自然に直進状態に戻ろうとしますが、この際の力もフレキシブルタワーバー&フレキシブルドロースティフナー装着車のほうが強くなっています。
基本は連続したスラロームだったのですが、一度のステアリング操作からの直進状態への復帰を試してみると、直進状態となった際の収束がスッとしている感じを受けました。
辰己氏は「運転がうまくなるクルマを作る」ために、フレキシブルタワーバーやフレキシブルドロースティフナーの開発を行ったといいます。その効果は少しずつですが、確実に現れているという印象を受けました。
そして運転がうまくなるとは、速く走るという意味でなく、スムーズに走るという意味だということを再確認することができました。スムーズに走ることによって、結果として速く走れるわけです。
今回の試乗車についていたボディパーツは以下の3点、( )内は参考工賃です。
・フレキシブルタワーバー:33000円(3960円)
・フレキシブルドロースティフナー・フロント:30800円(3960円)
・フレキシブルドロースティフナー・リヤ:35200円(7920円)
(文:諸星 陽一/写真:土屋 勇人)