マツダが2022年以降に発売するFRプラットフォームを公開。ロードスターとは異なる新世代設計となっている!【週刊クルマのミライ】

■フロントサスペンションはスチールアームのダブルウィッシュボーン、リヤはアルミ製アームのマルチリンク

マツダが、2022年以降にデビューさせる新型モデルを支える基盤技術となる「SKYACTIVマルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー」と、2025年以降にデビュー予定という電気自動車専用プラットフォーム「SKYACTIV EV専用スケーラブルアーキテクチャー」という2つを発表しました。

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FRと4WDを用意する新世代の「SKYACTIVマルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー・LARGE群」のシースルー画像。サスペンション形式はフロントがダブルウィッシュボーン、リヤはマルチリンクに見える

そして、「SKYACTIVマルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー」についてはエンジン横置き(FFベース)のSMALL群と、エンジン縦置き(FRベース)のLARGE群に分けられるということも明らかになりました。

SMALL群については、MAZDA3やMX-30などに採用されているアーキテクチャーですが、LARGE群を採用したモデルはまだ発売されていません。しかし、期待は高まります。この新アーキテクチャーのLARGE群のために直列6気筒エンジンを新開発したほどの力の入れ具合だからです。

新開発6気筒エンジンは、ガソリン、ディーゼル、SKYACTIV-Xと3タイプが用意されるといいます。また電動化トレンドに合わせて48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせとなることもアナウンスされました。とはいえ、エンジンスペックについては排気量さえ発表されていません。どのようなキャラクターに仕上げていくのか、まったく想像できません。

とはいえ、ハンドリングについては想像できるヒントが与えられました。

今回の技術発表に合わせて、エンジン縦置きプラットフォームのシースルー画像が公開されたのです。そこでは前後サスペンションなどシャシー関連の情報も確認することができます。

その画像からわかる範囲でいうと、「SKYACTIVマルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー」LARGE群のサスペンション形式は、フロントがダブルウィッシュボーン、リヤがマルチリンクとなっているように見えます。また、ステアリングギアボックスはエンジンの前に置かれた、いわゆる「前引き」となっています。

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現行ロードスターのサスペンション形式はフロント:ダブルウィッシュボーン、リヤ:5リンク・マルチリンク。アルミ製のPPFが特徴だ

このサスペンション形式だけでいえば、ロードスターのプラットフォームと共通です。しかし、ロードスターのプラットフォームをベースにしたものではないと断言できます。

見比べるとわかるように、ロードスターとは設計の基本から異なっています。最大の違いはロードスターの人馬一体感を生み出す独自のアイテム「PPF(パワープラントフレーム)」が新世代FRプラットフォームに採用されていないことです。

さらにフロントのダブルウィッシュボーン・サスペンションを比較すると、ロードスターのそれはアッパーアームとロアアームがアルミ製で、アッパーアームの取り付け位置は低めになっています。一方で、新しいFRプラットフォームでは、サスペンションアームはスチール製となっているように見えますし、アッパーアームの位置はかなり高めになっています。

つまり、形式は同じであってもマツダがこれまで熟成させてきたFRプラットフォームとは根本から設計を刷新したといえます。そもそも、新しいエンジン縦置きプラットフォームは4WDを想定していることは、このシースルー画像からもわかるところで、フロントのドライブシャフトを通す設計にする必要がありますから、ロードスター系と異なるのは当然ともいえます。

リヤ・サスペンションについても、まったく異なるデザインとなっています。ロードスターのシースルー画像を見るとわかるように、スチール製アームの5リンク・マルチリンクになっています。一方で、新世代のFRプラットフォームではアルミ製サスペンションアームが採用されていますし、アップライト部分との取り付け位置も異なっていることが一目瞭然。さらに、リヤ・デファレンシャルを支えるサブフレームが井桁状で、非常にしっかりとした印象を受けます。このあたりも注目ポイントでしょう。

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直列6気筒エンジンと48Vマイルドハイブリッドを組み合わせたマツダの新世代FRプラットフォーム(写真はディーゼル仕様)

すなわち、マツダの新世代FRプラットフォームは、ハンドリングに関しても大いに期待できる設計となっていることがシースルー画像から感じられるわけです。

ダウンサイジング、レスシリンダーといったエンジンを小さくするトレンドを超え、もはやエンジンをなくしてしまう完全電動化が欧米の自動車メーカーにおいて大きな潮流となっている中で、あえて6気筒エンジンを新開発してしまうというマツダの戦略は、逆張りと感じさせます。はたして勝算はあるのか疑問も浮かびますが、これほどハンドリングにもこだわったであろうプラットフォームを新設計したということは、完全にバランスされた直列6気筒エンジンのフィーリングにふさわしいシャシー性能を実現しているはずです。

欧米の自動車メーカーが電動化を加速させているからこそ、マツダの新世代技術によるプレミアムな走行フィーリングが希少価値となることは間違いありません。それによってマツダのブランド価値を上げることができれば、マツダの逆張りは”一人勝ち”という結果を生むかもしれません。そして、このSKYACTIVマルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー LARGE群によるニューモデルは、これまでにないフラッグシップモデルの誕生さえ予感させるのです。

自動車コラムニスト・山本晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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