■新型ヴェゼルの生産が、フィットと同じ鈴鹿工場に移って起きたこと
フィット誕生20周年記念車の投入直前で受注を絞る状況にあったとはいえ、2021年5月の販売台数は2032台にとどまっています。現行フィットのデビューは2020年2月ですから新車効果が薄まるには、いくらなんでも早すぎます。
しかも、ライバルのトヨタ・ヤリスが月販1万台、日産ノートは同じく5000台規模で推移していることを思うと、この落ち込みぶりは尋常ではありません。
こうした数字を見て、やれ「フロントグリル・レスのスタイルに問題がある」だとか「ライバルと比べて割高な価格設定なのが売れない原因だ」といった声が出てきていますが、ホンダに聞くと月販2000台というのは様々な要因が重なったためであって、急激にユーザーが減ったわけではないということです。
まず、重要なファクトでいえば受注ベースでみれば、いまでも月間5000台規模でオーダーを集めているといいます。つまり生産が追いついていないことが販売減につながっているのです。
なぜ、フィットの生産はオーダーに対して少なくなってしまっているのでしょうか。
ひとつ目の理由は、いわゆる「半導体不足」です。コロナ禍における一時的な販売減とその反動によるニーズの高まりによって世界的に半導体不足に陥っています。さらに国内の半導体工場では火災による生産減などもあって、深刻な状態になっているのは、ご存知の通りです。
とはいえ、半導体不足の影響を受けているのはホンダに限った話ではありません。トヨタも日産も半導体の調達には苦心しているはずです。
ここで、もう一つ問題が出てきます。それはヴェゼルの存在です。
4月にフルモデルチェンジをしたヴェゼルは、発売から約1ヵ月後となる5月24日時点で、月間販売計画の6倍以上となる32,000台を超える受注を集めています。これだけ勢いがあるわけですから、おのずとヴェゼルの生産を優先しなくてはいけない状況になります。
そして新型ヴェゼルの生産工場は、従来の寄居(埼玉県)から鈴鹿(三重県)に移管されています。鈴鹿といえばフィットの生産工場としても知られています。つまりフィットとヴェゼルは混流生産となっているのです。
これまでは実質的にフィット専用状態だった鈴鹿の生産ラインがヴェゼルとの混流になり、さらにヴェゼルが多数のバックオーダーを抱えているという状態になったときに何が起こるのかといえば、もうお判りでしょう。どうしてもヴェゼルの生産を優先することになってしまいます。
もちろんフィットの生産を止めて、ヴェゼル専用にするという話ではありませんが、わかりやすく表現すると、バックオーダーを順に処理していくとヴェゼルの生産数が増えてしまったということのようです。
というわけで、2021年5月に突然フィットの販売台数が半減した大きな理由は、半導体不足とヴェゼルの鈴鹿移管という2つの要素が絡み合った結果といえるのでした。
とはいえ、本来フィットの月販目標は1万台です。5000台を超える受注があるとはいえ、計画に対しては未達なのは事実です。そもそも目標の未達の原因を議論するならば、冒頭に記したグリルレス・デザインや価格設定といった影響について考えていく必要があるのも、また事実でしょう。