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■80年代バブル期に登場した個性派ハッチバック
お笑いトリオのマクベスが活躍する菅田将暉主演の日本テレビ系人気ドラマ「コントが始まる」には、ちょっと古そうな赤いクルマが登場します。春斗(菅田将暉) 、瞬太(神木隆之介) 、潤平(仲野太賀)らマクベスの移動手段として使われていたのですが、ドラマを観て、「車種はなんだろう?」など気になった人もいるのではないでしょうか?
かなり個性的なデザインを持つこのクルマは、フランスの自動車メーカーであるシトロエンが1980年代に生産した「BX」というモデルです。
今ではかなりレアなクルマですが、当時は日本にも数多く輸入され、シトロエンのモデル中でも人気車種のひとつでした。そんなBXとは、どんな素性を持つクルマなのか、ちょっと紹介してみましょう。
●80年代シトロエン車の代表格
BXはベイクスと読みます。1982年から1994年まで販売・製造された5人乗りのハッチバック車で、1976年にプジョーと合併した後のシトロエン(現在はステランティスN.V.傘下)における新世代機種として歴史に残る1台です。なお、ラインナップにはステーションワゴンのブレークもありました。
プラットフォームには1977年に登場したプジョーの小型乗用車「305」を使用しつつも、2620mmというロングホイールベースにより、直線基調のスタイリッシュな外観デザインと、広い室内による快適性などを実現。
当時としてはかなり前衛的ともいえる外観のスタイルは、同社が初めてデザインを社外に委託したもので、イタリアのベルトーネ社が担当。
ランボルギーニ・カウンタックやランチア・ストラトスのデザインでも知られるマルチェロ・ガンディーニが手掛けました。
角形のヘッドライトやグリルレスのパネルなどを採用したフロントフェイス、スリットが入りまるで別パーツのような形状のリヤクオーターなどにより、全体的に80年代におけるカーデザインの潮流を取り込んだスタイルに仕上がっています。
なお、当時のシトロエンの代表的特徴ともいえるリヤホイールを覆うハーフスカートや、1本ステアリングホイールなども装備していますが、採用機種としては、BXが最後のモデルの1台。1993年に登場した後継機種の「エグザンティア」には採用されませんでした。
●独自の油圧制御式サスペンション
搭載エンジンは多岐に渡り、1224cc〜2142cc・直列4気筒のガソリンとガソリンターボ、1769cc〜1905cc・直列4気筒のディーゼルやディーゼルターボなどがありました。また、サスペンションは独自の油圧制御式「ハイドロニューマチックサスペンション」を装備し、高い走行安定性などを実現しています。
さらに、個性的なスタイルのわりには、広い収納スペースやトランクスペース、座り心地が良好なシートなど、実用面の高さも人気の秘密でした。
日本でBXは、ちょうどバブル期に輸入販売されています。西武自動車販売のほか、かつてマツダが展開していたユーノス店でも販売され、当日の輸入車としてはかなり幅広い販売チャンネルを持っていました。そのため、前述の通り、日本ではもっとポピュラーなシトロエンとなったのです。
ちなみにドラマに出てきたBXは、外観などからスポーティな「GTi 16v」というグレードのようですが、完全ノーマルでもないようなので定かではありません。
なお、劇中のBXは、第7話で中古車販売店に売られてしまいますが、店頭に並んだときの値段は28万円。実際、BXの中古車相場は140万円台後半〜200万円台のようですから、かなりお買い得なプライスですね。
もっとも、そのシーンに出てくる価格表の下には「修復歴あり」と「保証なし」の文字も。いかに安い中古車だからといって、後々の修理などを考えると、乗り続けるにはそうとうの「覚悟」が必要でしょう。そう考えると、かなりのマニアじゃないと買わないかもしれませんね。
(文:平塚 直樹)