■800Vの高電圧EVで69%のエネルギー損失を削減できるパワー半導体モジュールが登場
●航続距離を5%以上伸ばすことも期待できる
日本市場だけを見ていると、まだまだエンジン車の時代は続くと感じてしまいがちですが、グローバルではクルマの電動化は想像もできないような速度で進んでいます。
とくにゼロエミッションでありながら、エネルギーインフラの整備が比較的容易な電気自動車は、次世代車の大本命といえる存在で、世界中の自動車メーカーがラインナップを電気自動車だけにすると宣言。エンジン車が残るタイムリミットも本当にわずかになっているという状況です。
さて、そんな電気自動車のパワーユニットを構成する要素は大きく3つあります。
ご存知のように、駆動するのはモーターです。しかし車両としての最高出力を決める要素としては、バッテリーの能力が大きく影響します。
そして、システム全体の効率を左右するのがインバーターです。そのインバーターにおける中心的なデバイスが「パワー半導体」と呼ばれるもので、車載用パワー半導体では世界ナンバーワンのシェアを誇るのが、ドイツのインフィニオン。
そんなインフィニオンが、新世代のパワー半導体「HybridPACK™ Drive CoolSiC(ハイブリッド・パック・クールシック)」を発表しました。
もともとHybridPackという商品名は、ハイブリッドカー用インバーターに使われる半導体という商品ポートフォリオを示すものですが、いまや電動化における有効なソリューションを示すネーミングとなっています。従来品でいえば、フォルクスワーゲンの電気自動車ID.3にも搭載されていたりするそうです。
また、今回の製品で使われるCoolSiCというのは温度が低く、損失が少ないSiC(シリコンカーバイド)を使った半導体ということを意味しています。
構造など難しい話は置いておいて結論をいえば、従来の半導体を使ったインバーターに対して、800Vのバッテリーシステムとの組み合わせるとすれば最大69%もエネルギー消費を削減できるパワー半導体に仕上がっているのです。
これは電動パワートレイン全体でいえば、エネルギー消費量を7.6%も減らすことにつながります。わかりやすいユーザーメリットとしては同じバッテリー、モーターで比べたときに航続距離が5%も伸びるといいます。
航続距離を伸ばすためにバッテリーを多く積むことはコストアップにもつながりますし、バッテリーを積み過ぎると車体が重くなってしまい、良いことはありません。今回、インフィニオンが提案するように、インバーターの性能向上で航続距離を伸ばすことができるのは、電動化時代において理想的な進化といえるでしょう。
そんなインフィニオンの「HybridPACK™ Drive CoolSiC」は、まずヒュンダイの次世代電気自動車に採用されることが決まっています。インバーターのサイズは従来と変わらないか、むしろ小型化できるというメリットも、今回の採用につながったということです。
なお、インフィニオンのエンジニアによれば、日本の自動車メーカーはSiCパワー半導体の採用に慎重なイメージがあるといいます。とはいえ、HybridPACK™ Drive CoolSiCの設計思想は、パフォーマンスの向上よりも信頼性を高めることにプライオリティを置いているということです。
そうした思想は国産メーカーの方向性にも合致するものです。気づかないうちにHybridPACK™ Drive CoolSiCを採用したインバーターを使う電気自動車に乗っている、といった時代になるのはそう遠い話ではないかもしれません。
(山本晋也)